変わること
それから1週間が過ぎた。
私は1人で訓練施設で剣を振るようにした。意味があるのか、効果があるのか分からない。
私は1人で剣を振った。そして、剣を振った。また、剣を振った…。
30分。それが毎日の訓練時間。
体の節々が痛いから。振ると痛みが増えるから。身体に響いて、辛いから。
逃げるな。振れ。振り続けろ。
そんな私の心の声を無視して、惰性に過ごした。
1太刀入れることは、何故か出来なかった。こんなに、頑張っているのに。
違う。お前は頑張っていない。
そんな心の声をうるさいと一蹴し続けた。
2週間過ぎようとしたある日。痛みにも慣れてきた。
湿布は増え続けていた。そんな中、真夜中に意識が覚醒した。
「…なさい…めんなさい…ごめんなさい…」
そう連呼する声を聞いた。
「…」
黙って湿布を貼ってくれる優しい手を感じた。
私は…目を開けるべきなのだろうか。いい加減、目を覚まさないといけないのだろうか。辛いものから目を背けて、目を逸らし、少しの苦痛で済んでいたものを、さらに大きな苦痛に変えてでも目を覚ますべきなのだろうか。
きっと、背け続けていれば幸せなのだろう。きっと、ユルの所へは向かえない。でも、それは幸せなのだろう。私とは何も関係ない所で、なんの責任も負わずにのうのうと生きていける。それはきっと、とてつもなく、幸せなのだろう。
犠牲にするのは、自分の決意。それだけだ。ならば目を逸らし、眠ったままの方が幸せなのではないか。私は、今までそうしてきたじゃないか。
私は変わるのが怖い。今のこの、幸せな日々が。脱走する時も、変わるのが怖くて、脱走する決意も無かったじゃない。
まだ、腕に付けていた鎖を思い出す。少し重い。ずっと、外さず、付けてきた鎖。変わることなく付けていて、そして忘れ去られた鎖。
そうだ。変わらなければいずれ、風化する。決意だってそうだ。変わらなければ、何もかも、変わらなければ…
変わらなければ…なんだ?
変わらなければ幸せなの?それが辛い状況でも変わらなければ幸せなの?1つ、手を打つだけでより幸せになれたとしても、変わらなければ幸せなの?
『この小生意気なガキに変わることの素晴らしさを教えてやりましょう!』
リタの言葉を思い出す。私は、教えられてばかりだった。そう、今までだって、みんな変わろうとしてきた。そしてみんな、変わることで、幸せになっていた。私もなれるのだろうか…変わることで。
そっと、体から手が離れる。
私はそっと、目を覚ます。
さようなら、今までの幸せ。
見せてちょうだい。変わることの素晴らしさってやつを。
私が暗闇の中見たのは、湿布を貼り終え、後ろを向いたアイリスと、手で顔を覆い、謝り続けるカサブランカ姫の姿だった。