楽しいお茶会
起きると、ベッドの上だった。
「いっつつ…」
体の節々が痛む。昨日の出来事を朧気ではあるが思い出す。
カサブランカ姫に呼び出され、滅多打ちにされ、終わり際、2ヶ月以内に1太刀浴びせないとユルの所へ向かわせてくれない、しかも弱気な私と今の私、各1太刀。条件とかは何も言われなかった。不意打ちでも良いということなのだろうか。
…こんな思考になる自分に嫌気がさすが、ご主人様と一緒に行けないのはそれ以上に辛い。私は守らないといけない。決めたのだから。
その後…その後はどうしたのだっけ?雷が落ちて、雨が降り、カサブランカ姫の去った後が思い出せない…ベッドに戻ったのだろうか…?
スっと服を持ち上げ、傷の具合を見る。
「…?」
湿布が貼ってあった。少し様子を見るため湿布を剥がしてみたが、見事に青あざになっていた。
…折れてないでしょうね、これ。
疑わしいけど、動くと痛むが動けなくはない、という感じからすると、痣になっているだけなのだろう。
…それにしても、運んで、湿布まで貼ってくれたのは誰なのかしら…筆頭リタ、次いでアーチュさん、大穴黒猫さん…。
名乗られたらお礼言わなくちゃいけないわね。みんなの前で誰がやってくれたの!?なんて聞くと言い出しにくいでしょうし。
今日の服を着る。
「…えぇ?」
見事に全ての痣が隠れた。ピッタリ。いくつも痣があるというのに…。
姫様はいったい、何を考えているのか、私には分からなくなってきた。
「さて…」
時計を見る。既に午後3時を回っていた。
「…マズイわね」
特にこれといってする事は無かったけど、姫様の隙を伺う時間は欲しかった。
部屋を出た。
「アルミスタさん!お目覚めですか?今日は遅かったですね」
元気よく声掛けてきたのはリタ。たまたま通りかかっただけなのだろうけど、恐ろしいほどのタイミングだった。
「これから皆さん集めてお茶会なんですが、アルミスタさんもどうですか?」
楽しそうな提案だった。正直、体の節々が痛いから動くのも勘弁。
「へぇ、面白そうね。誰が来るの?」
するとリタは指折り数え始める。
「私と、カランコエ、アーチュさんに、黒猫さん、カトレアさんとベゴニアさんですね!」
やはり国王2人組は忙しいのだろう。いつものメンバーだった。
「そうね、私も入れてもらうわ」
「是非!」
ニッコリと、満面の笑みを浮かべる。私には真似出来そうにないほどの笑い方だった。
「おや?アルミスタ。何かあったのかい?」
黒猫さんは開口一番にそう声をかけてくる。さすがに鋭い。
「いいえ、何も。もしかして何か変かしら?私」
「…」
少し沈黙
「なるほどね」
小声でそう呟く。
「いや、すまなかったね。ちょっと起きてくるのが遅かったから心配してたのさ」
何事も無かったかのように、そう言った。
「心配かけたわね。ちょっと環境が変わって疲れちゃったのかしらね」
そして、リタはみんなに紅茶やココアを淹れる。私はここに来て紅茶は飲めるようになったけど、リタの淹れるココアは好きだったから、ココアをいつも貰っている。
「さて、聞いている人もいるだろうが、一応連絡しておく」
黒猫は紅茶を待っている間、そんな事を言う。
「1年後、ユルに仕掛ける。この1年は恐らく向こうから仕掛けてくることは無いだろう。向こうもこちらの全戦力が分からないから無謀な事はしないだろうとの判断だ。ただ、期間を延ばせば延ばすだけリスクが高まる。だからこの1年、目一杯使って鍛錬に励んで欲しい。目標はコイツだ」
ビシッとアーチュさんを指差す。
「…ん?」
アーチュさんはよく分かっていないようだったが。
「師範を付けて欲しい場合は私やコイツ、カトレアやベゴニアに頼むといい。とりあえずコイツほどの実力を付ければ戦えるだろう」
ムニムニ
黒猫さんはアーチュさんの頬を突く。サッとアーチュさんは手を払い除ける。
「教える事は得意では無いが、応えられることは精一杯応えよう。実践でも、座学でもだ」
この王宮は一通り回ってみたが、訓練施設はそれなりの数と質があった。使えば相当なレベルアップが期待できた。
「そういう訳だ。せっかくのお茶会で業務連絡すまなかったね。では楽しい楽しいお茶会だ。楽しもうじゃないか、ニシシ」
そう言って、各々お茶会を楽しむ。時間はゆっくりと、ゆっくりと過ぎていく。
「ねぇリタ?」
さっきの話を聞いてリタに尋ねてみる。
「あなたは誰から教わるとか決めてるの?」
「そうですねぇ…」
悩む仕草をする。
「私はその都度、それが得意そうな方に聞くと思いますね。水を思い通りの形に練りたい場合はアーチュさんが適任だと思いますし、武器として飛ばしたり、切りつける場合は黒猫さん、魔法みたいに使いたい場合はカトレアさんやベゴニアさんみたいに」
「へぇ、考えてるのね…」
ふふ、とリタは軽く笑う。照れくさそうに。
「アルミスタさんはアーチュさんに教えてもらう事が多そうですね。アルミスタさんは能力は凄いですけど、剣術も磨いた方が良いと思いますし」
私は拳を握りしめていた。悔しかった。必死でその拳を抑えた。何故私は怒った?悔しかったから、リタに見透かされたことが悔しかったから…
「さて、どうだか」
精一杯、強がって見せた。意味が無いとも知らず。
午後11時。今日もカサブランカ姫との鍛錬。
一方的に打ちのめされる。
「覚悟が、全然足りませんね。この言葉の意味をしっかりと理解してきなさい」
午前1時を回った頃、弱気な私が姿を見せ、立ち上がれなくなった所で鍛錬は終了となった。
今日はなんとか部屋に戻ることが出来た。晴れていたこともあったのだろう。
「もう…嫌だよ…」
一言、愚痴を言って、その日は終わりを告げた。