ささやかなパーティ
時は少し遡り…
「さて、到着したようだね」
黒猫は窓を見る。外を見ると1隻の飛行船が空を飛んでいた。
着陸すると、兵士がザッザッと音を立てながら行進を始める。その中央。豪華な衣装に身を包む2つの影があった。
「アイリス!カサブランカ!」
一際大きな声を上げたのは、アルミスタだった。手を振り答える。
王宮内では既にパーティの準備が進められていた。豪華な料理、ピアノの落ち着いた演奏…。全員既にその場に集まっていた。
「私がこの国の新たな国王となります、カサブランカです。本日はごゆるりとお楽しみください」
簡単な挨拶が済まされ、皆それぞれワイワイと騒ぎ始める。
その中に、アイリスと言われた少女、カサブランカ国王、そしてアルミスタの姿が見えなかったのは少し不安を駆り立てた。
いいや、せっかくの再会なのだ。楽しくお話に興じている頃だろう。
「なぁ、アントス」
少し肌寒いのか、長袖のアントスに声をかける。
「ん?なんだ兄弟」
「ほら、呑まないのか?」
もちろん、成人済みだ。この体格で未成年なら誰もが倒れることだろう。
「いいや、やめておく。俺は酒に弱くてな、死ぬ前までは呑まないと決めているんだ。いいか?俺が酒を呑む時は死ぬ時だ」
そう言って、手に持っていた清涼飲料水を飲む。
「ぷはぁ!やっぱりこれに限るぜ!」
飲んでる姿は酒呑みそのものだった。
「ご主人様!お料理お持ちしまっあぁ!」
走って近寄ってくるリタが盛大に転ぶ。直前にそばに居た黒猫が支える。
「まったくもう、そそっかしいねぇ、ニシシ」
そう言ってリタの持っていたお皿に乗っていたローストビーフをつまみ取る。
「黒猫さん、ありがとうございます…あぁっ!それはご主人様の…!」
リタは終始アワアワしていた。
そんなパーティは主役不在のまま、何事もなく幕を降ろしたのだった。
「なぁ、ギューフ」
アントスが人が去ったことを確認してから声をかける。
「なんだよアントス、改まって」
ジッと見つめるアントスの瞳は真剣そのものだった。
「少し、休暇が欲しい。もちろん、ユルと戦う時は駆けつける。どうか、許してはくれないだろうか」
アントスの境遇はよく知っている。だからこそ
「あぁ、構わない」
断る訳にはいかなかった。その後、錯覚か、勘違いか分からないが、目に涙を溜めて感謝を言っていた。
…あれ?泣いて喜ばれるほど、休み無かった…のか?