特別なロベリア
「…お兄様…?」
ロベリアが目を覚ます。あの一閃の直後、恐怖か、安堵かロベリアは気絶していた。
「無理するな、楽になるまでこうしていてやるから」
髪を撫でる。
「…お兄様…お兄様…」
呼び続ける。存在を確認するように。
「…もう…無理しなくても…いいの…?」
心配そうに、聞いてくる。
「あぁ、何があろうとお兄ちゃんが守ってやる」
だから再び、俺は決意を語る。
「…!…お兄ちゃん…!」
そして、唯一の妹は、昔のように呼んでくれたのだ。
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時が過ぎ、もうかれこれ何時間と同じ姿勢が続いた。やがて、ロベリアも安定したようだ。
「のぅ、ロベリア。1つ妾から聞きたいことがある」
最初に口を開いたのはカトレアだった。
「なんですの?」
「妾、聞いた限りだと死なないみたいなのじゃが…ユルを倒すためなら妾1人で突っ込んで生き返っては攻撃してでも勝ち目ありそうなのじゃが…」
ごもっとも。でもギューフは許さないだろう。辛い役目を押し付けるようなやつではない。もちろん、俺も反対するが。
「無理ですわね。殺せなくても手足を封じ、閉じ込めれば無力化出来ます。何より…」
ロベリアは言いにくそうに口を開く。
「彼女らはあなたを殺すための技術を既に会得しました。彼女らの技術力を侮ってはいけません…」
つまり、不死身という強みを封じられたようなものだ。利用する気は最初から無いが…。
「ふむ、そうか…」
「私からも1ついいか?」
アーチュも口を開く。
「交換条件です。血を見せてくださいまし」
「む…おいアントス、この妹をなんとかしてくれ」
なんともならないからこうなってる訳で…
「冗談でございます。どうぞ」
アーチュは口を歪ませる。うちの妹の冗談は冗談と取れないから困る…
「ユルの技術力を知りたい。お前の魔力吸収の道具を失敗作と言って渡した。彼女らは何を作っている」
碌でもない答えが返ってくるのは明白だろう。
「ユルは…」
言い淀む。とても恐ろしいものに触れるかのように。
「理破りの宝珠を作ろうとしています。奇跡を日常にしようとしているのです」
「!?」
その場にいる誰もが口を開くのを躊躇った。理破りの宝珠は奇跡を起こす秘宝。それを量産したら…間違いなく均衡は崩れ去るだろう。
「…そうか、ありがとう」
それだけ言って、アーチュは口を閉ざした。
「のぅ、アントス。新たな国王が到着したそうじゃ。ささやかではあるが、パーティを開くそうじゃからお主もどうか、と誘いに来たのじゃが…」
これからの方針はもう決めた。何をするか、何をするべきか。
「あぁ、ロベリア。少し待っていてくれ。絶対迎えに来るからな」
場の空気を察したのかアーチュとカトレアは去っていった。
「お兄ちゃん、約束…覚えてる?」
昔のままの口調で、そう聞いてくる。
「そうだな。ロベリア、花言葉だったよな」
俺は既に意を決していた。
「お前の花言葉、それは」
「優秀、卓越」
俺が言う前に、ロベリアはすぐに答えた。
「えへへ、お兄ちゃんごめんなさい。実は少し調べたの。私の花を。1部のロベリアにはね優秀っていう花言葉があったの。少し前までの私は名前の由来はもう1つの意味だと、一般的なロベリアの意味だと思ってた。でもね、私、前向きに考えることにする。これからは。私は1部のロベリアになる。優秀で、卓越した能力を持つ、そんな人になるために」
俺は、その言葉を聞いて、驚くことしか無かった。
「そっか、大きくなったなロベリア」
そうして髪を撫でる。
兄として、ただ1人の兄として、素直に思う。
「ロベリア、お前はまだまだみんなの中では普通のロベリアだ」
「むぅー」
頬を膨らませる。少し前では想像も出来なかった表情。
「だからな、頑張れ。いつかはきっと特別になれるから」
俺は最大限の照れ隠しで、そう言った。
ロベリアはまだ他の誰かが見たら普通のロベリアかもしれない。
でも、俺から見たロベリアは、紛れもなく、特別なロベリアだった。