表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
17章 王宮攻略作戦 カトレア編第3部
121/191

アントスの過去話

生まれたのは小さな国だった。ただ、その国はとても賑わっていた。

「勇者の住む国」

そう門には掲げられていた。誇らしげに。まるで取り柄がそれしか無いように。

家は花屋を営んでいた。妹と花を見てどれが好き、どれは嫌いと言い合うこともあった。

勇者の血を引いているかは血を見れば分かった。とは言え、見た目は変わらない。医者に診てもらい、分かるのだ。

俺は勇者の血を引いていた。勇者である父も、勇者ではない母も、街の誰もが喜んだ。通りを歩けばチヤホヤされ、商店街を歩くと、出店から色々と貰えた。小さい頃は勇者は得だと、感じていたし教えられた。

妹は母の血を継いだのか、勇者の血では無かった。俺とは違い、穏やかな、平凡な暮らしを送っていたのだ。

ある日、国から呼び出された。大国から直々に声が掛かったらしい。しばらく戻れないが、いつか役目を終えた時帰ることが出来るとの事だった。

子供の俺に拒否権は無かった。町中、誰もが送り出した。俺が送り出されれば景気が良くなる、という汚い話もあったから、誰もが俺を追い出した。唯一、妹を除いて。

「お兄ちゃん…ホントに行っちゃうの…?」

「あぁ、絶対戻るからな。強い子になるんだぞ」

妹はじっと、俺を見つめた。

「おい、そろそろ行くぞ!」

馬車での移動。大きな怒声が飛んでくる。時間は待ってくれないそうだ。

「それじゃあな」

「お兄ちゃん!」

妹は大きな声を出し、俺を呼ぶ。

「教えてよ…私の名前の由来の花言葉」

「…そうだな。また、次会った時教えてやる」

次会う時はお互いおじいちゃんおばあちゃんだろう。それくらいは予想出来た。

「嫌だ!教えてよ!」

「…」

妹はポカポカと俺の胸を叩く。

「…ごめんな、もう行くから」

そう言って、そっと手を止めさせる。

痛かった。妹の拳は痛くなかったが、心が痛かった。

言えるはずない。

馬車が出る。後ろから見える妹の姿はとても、小さく見えた。

「ロベリア…」

妹の名を、花の名を口にする。

「花言葉は、悪意…」

言えるはずもない。妹は、ロベリアは傷つけたく無かった。

大国に着く。王宮に通される。俺は真面目に剣を振って、特訓するだけでお金が入ってくるという特別待遇だった。

「なんたって、勇者様ですから」

王様の口癖だった。

周りからは尊敬の眼差し。田舎生まれ、田舎育ちであっても、勇者の血を引いているだけで違うのだ。

訓練が始まった。俺は出身国1の剣士だった。誰よりも優れた剣の腕前を持っていた。

「はっ!やっ!とぉ!」

藁を斬り、丸太を斬った。出身国では大人しかなし得ない技だった。

ふふん、と胸を張る。嘲笑うかのように、後ろを見てやる。

その場にいる誰もが、藁を容易く斬り、丸太を斬り刻んだ。きっと何かの間違いだと思った。

いや、間違いであって欲しいと願った。切実に。

互いの実力を順位付けする事もあった。剣道のように、急所に当てれば勝ちの簡単なものだ。

俺は、一勝も出来なかった。簡単な話、最弱だったのだ。あの国は小さすぎた。見てる範囲が狭すぎた。

やがて、王様は腹を立て始めた。訓練の時間は増え続けた。

「俺は勇者だから…!俺は勇者だから…!」

それだけを希望に剣を振るい続けた。上位の人からはバカにされた。周りの視線は優しいものから厳しいものに変わった。

やがて

プツン…

何かが切れるような音がした。いや、していないかもしれない。心の中の、何かが切れた。

期待されるのが辛い事を知った。誰もが勝手に期待し、勝手に落胆する。誰も彼も、勝手だった。

勇者なんて、懲り懲りだ。

そして、国を飛び出した。簡単なことではすぐに足が着く。

華の国、碧の国、そして藍の国。ここらの国は情報管理が適当だった。なので利用させて貰った。

華の国では入国手続きした後、出国手続きをせず出国した。

碧の国では手続きをせず、物資を補給した。

そして、藍の国。ここの花畑はお気に入りの場所だった。そして、花の先、崖がある事も知っていた。そこから飛び降り、行く宛ても無い俺はそこで命を絶つつもりでいた。しかし、そこで見てしまった。

「あ…」

揺れる、カトレアの花の中央に立つ、魔王の姿。とても物悲しく、しかし凛とした姿だった。こちらに気づくと、ふっと消え去ってしまった。俺が倒すべき対象、しかし、1目見て恋に落ちたのだった。

翌日、花畑の崖は崩れ去った。全て偶然だった。土砂降りの雨が降り、土砂崩れを起こした。住民は伐採を繰り返し、崖に穴を開けようとまでしていた為、当然だと思う。不幸な事に、崖下に人口の大半が集中していた為、住むことが出来る国では無くなった。

ギューフと出会ったのはそのすぐ後だった。

面白いから。彼は一言そう言って快く仲間に加えて貰った。とは言っても、基本自由に単独で行動した。そして、アマテラスの国で魔王と再開したり、他の国では子供を助けようとして捕まったり、波乱万丈の人生を今の今まで送ってきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ