魔王の秘密
「ふふ…ふふふ」
ロベリアは嫌な笑みを浮かべている。表情からは怒りの感情が見て取れる。
「…何がおかしい」
カトレアは聞き返す。あたかも本当に分かっていないかのように。
「いえ、失敬。魔王がこのように頭の弱い方とは思わなかったもので…」
そして、小声でこう言い放つ。
「…そんな事なら、早く殺しちゃえば良かったのですねぇ…!」
カトレアの背後からロベリアの分身体が姿を現す。
「ふっ!」
すかさず付き添っていたアーチュが定規を振る。分身体は再び血に戻り、ベチャッと音を立てて崩れ去る。カトレアはロベリアの方をずっと見据えたまま立っている。アーチュの腕を信頼しているのだろう。
「チッ…」
ロベリアは1つ舌打ちをして、フラっと後ずさる。
「説明、して貰おうかの?」
カトレアは圧をかけるように言い放つ。
「当たり前の事ですわ!」
ガンッ!
ロベリアは背後の石壁を力一杯殴りつける。相当に怒り心頭のようだ。
「なぜ分からないのですか!?私の苦労が!痛みが!辛さが!苦しみが!」
狂ったように次々と言葉を吐き出す。この狂い方は初めて見た。
「勇者の血統には責任が伴います!その責任から兄は逃げたのです!魔王と勇者が一緒になれば魔王を倒すものが1人減る…それだけで如何に世界は混乱することか!あなたに分かりませんの!?」
「すまんの、分からぬ」
カトレアは淡々と、ロベリアの言葉を一蹴した。
「くっ…!あなたとは分かり合える気がしませんわ…!」
ふぅ、と一息ついたロベリア。怒りを抑えている様子だ。
「あなたとはやはりと言いますか、分かり合える気がしませんわぁ…そういう時は…血を見せ合うに限りますわねぇ…!さぁ…!共に傷つけ合いましょう…!」
アーチュが定規を構える。
「ねぇ、アーチュ?今回は魔王と一対一で戦いたいのですが…邪魔しないでくださる?」
ギロっと睨みつける。するとどこからとも無く複数の分身体が現れる。そして、その奥に見知った影を見る。
「…ユル!」
さすがに俺はアーチュに加勢することにする。あの数相手に1人で立ち回るのは厳しいだろう。
「あら、安心してくださいまし。あれも分身。見ものですわねぇ…本当に…!」
「すまない、カトレア。すぐに片付けて加勢しよう」
アーチュは向き直る。
「なに、こやつ単体、妾の敵ではない」
カトレアも向き直った。
「アントス、自由に剣を振るってくれ。お互い臨機応変に動こう」
「なるほど、それはそれは分かりやすい…こった!」
1番の得意分野。駆け出し、アーチュを信用して剣を振る。
「デザイン!」
壁が出来る。生成された時潰された分身も少なくない。
「多対1は不利なのでな。各個撃破しやすい地形にした。カトレアの心配が出来ないのが心細いが…」
「あいつは魔王だ。心配いらないだろ」
1人、また1人と分身体を消していく。
「咲け!カトレア!」
向こうは片付いた頃だろうか。
「やぁ!」
残るは物言わぬユルのみ。それもアーチュが押しに押している。
「トドメだ!」
首筋に強烈な一撃が入った。アーチュは定規を振るい、壁を崩した。
「…最高に…最高にエクスタシィを感じましたわぁ…!」
「…なっ…!」
目に入ったのは、倒れたカトレアと悦びを最大限体で表しているロベリアだった。
「ふふ…気づくべきでしたわね、アーチュ」
…どういう事だ?
「…くっ!そうか…ユルの分身体が居るということはユルに会っていた…警戒しておくべきだったか」
カトレアを揺すりながらロベリアを睨みつける。
「おい!しっかりしろ!カトレア!」
俺も必死になってカトレアを揺する。
「脈は…!」
首筋に手を当てる
…
「脈が…無い…?」
カトレアの脈は消えていた。他にも色々な場所を試したが、やはりダメだった…。
「くそっ…!私がもっと早く…!」
アーチュが涙を堪え、拳を地面に叩きつける。
「あらぁ?早く私と戦いませんことぉ?痛みを…感じましょう…!生きているという実感を…!」
「ロベリアァァ!!」
アーチュは我を失ったように走り出す。
「ん…んぅ…」
直後、有り得ない方向から声がした。
「あいたたた…ん?妾はどうなっておった…?」
キョトンと、何も無かったかのようにこちらを向くカトレア。
「ふぅ、案外早かったですわね…」
ロベリアは心底残念そうに肩をすくめる。
「言った通り…ですわよ。そして、見ての通り…魔王は一般人では殺せないのでございます」
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