不気味な王宮
私には兄がいた。その兄はかっこよくて、逞しくて、優しくて…私は密かに兄に憧れを抱いていた。
いつまでも慕って、敬って…私にとって1番大事な、かけがえの無い人だった…
だからこそ、裏切られた時はどうしようもなく怒りに駆られた。寂しさや悔しさよりも怒りが込み上げてきた。あの人は私の事をどう思っていたのか。あの人には私は妹として映っていたのだろうか…
最後の最後まで私の名前の花言葉を言おうとしなかった、あの兄は…
私はこの手で、兄を殺める決意をした。
「待っていてくださいまし…私の兄…アントス」
目の前に聳え立つ大きな城、王宮。その前に俺は立っている
「よぉ兄弟、元気そうじゃないか」
「お陰様だな、アントス。悪かったな、今の今まで忘れていて」
「何、気にすんな。今度一杯奢ってくれたら許してやるよ」
王宮を見やる。
ー前日ー
「王宮を落とそう」
黒猫はサラッと言った。
「…」
沈黙が続く…
「はぁぁ!!??」
全員一斉に声を上げる。悲鳴のような…
「嘆いても仕方ないだろう?王宮を落とさない事には奴隷商に手を伸ばせない」
黒猫の意見ももっともだ。しかし…
「いや、落とすって…国家権力の塊よ?対抗手段はあるかもだけど、国民が右往左往するに決まってるじゃない!」
アルミスタは一時は高貴な立場にいた人物。こういう事には詳しいのだろう。
「そこも考えがある、まぁ、聞いてくれ」
黒猫は場を制して言う。
「王宮に新たな王を置く。いやまぁ、女王だが。それで私達が動きやすいよう、内部からあれやこれやしてもらうと言う寸法だ。どうだろう?」
黒猫は周りに意見を求めて…
「そこは良いかもだけど…何か策はあるの?」
「いやない」
即答だった…
「成せば成るだろう?私達なら…ニシシ」
不安にしかさせない笑いと共に、作戦は始まった。
ー時は戻りー
王宮に再び目をやる。相変わらず大きい。
「なぁアントス?」
アントスの方を見る。
「なんだ?」
アントスもこちらを見る。
「今月ピンチなんだ。奢るのは水でいいか?」
「いいわけないだろう」
真顔でそう答えるのだった。
王宮に足を踏み入れる…
「おい、お前ら、何をしている!」
まぁ、こうなりますよね…
「あ、どうもー、襲撃者ですー」
「右に同じくー」
まぁ、嘘を言ってややこしくするより、素直に言って平穏に
「あぁ、襲撃者か。これはこれは失礼しました。どうぞ、お部屋はこちらです」
「???」
あれ?平穏に済むの?
「こちらです、どうぞごゆっくり。時間になりましたらお呼び致します」
部屋の隣には
「襲撃者様」
との張り紙。いわゆる楽屋だった。
扉を開いても罠のようなものは無い。
「おい、どうするんだこれ、アントス」
「いや、俺に聞くな。あれで警報鳴らされて裏から黒猫達が襲う手筈だろう!?」
ヒソヒソと作戦会議。
「仕方ないか…荒事はそこまで好きでは無いのだがな!」
持っていた剣の腹で兵士を叩く。
「おい!さっきから言っているだろう!?俺らはなぁ!襲撃者だ!」
アントスは荒々しくそう叫んだ。うわぁ、悪者。
「しっ、失礼しました!お部屋に不都合がございましたでしょうか!?」
丁寧な対応をする兵士…なんなんだこれ…
「そうだな…それなら王の所まで連れて行って貰おうか。俺らは襲撃者だからな」
流石に断る…
「承知いたしました!王室でございますね!こちらです!」
「???」
いや、なんなんだこれ