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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
15章 主人公の過去話
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過去の記憶

ここから終盤、第3部編スタートです。第3部は1話を長めに作る予定なので、かなりのボリュームになるかもしれませんが、ご注意ください。(ベゴニア編も第2部、第3部やりますのでご安心ください)

ここは…砂漠か。俺は1人でユルと向き合っている。ユルの後ろには大量の奴隷商。俺の後ろには誰もいない。こんな状態なのに、自信に満ち溢れた顔をしている。何故だ?…知らなければ…過去の全てを



俺はアマテラスの国…まだその時代は日本と呼ばれていた、その国で生まれた。母親も、父親もごく普通の、ごく平凡などこにでもいそうな一般家庭。父も母も仕事は雑誌の編集など。よく国を飛んで取材をするが、毎度毎度、交互に行けるように調整してくれているらしく、俺が一人寂しくなる事は無かった。

その時から戦争は絶えなかった。しかし、日本は違った。早い段階で中立を確保し、兵器の生産をやめ、戦闘もやめた。

海外からは散々批判されたが、平和で暮らせる、これ以上の事を望まなかった。俺は小さいながら、凄く感謝をしていた。

俺が10代入ってすぐのこと、両親が2人で仕事へ向かった。一泊で帰るからよろしく、と。もちろん、それが最後の会話とはならなかったが。

2人が向かってすぐ、魔王が顕現した。そこから奴隷制度が公認化されるまで1日とかかる事は無かった。その頃から、日本はアマテラスの国と呼ばれるようになった。

翌日、正午頃にとある国からの使者が来た。


『◼️◼️◼️◼️◼️』


封筒を渡したら踵を返し帰っていった。封筒の中には小切手と、写真が入っていた。

俺は泣くことすら忘れ、ただただ呆然としていた。

そこには奴隷として働く、父と母の写真が入っていた。恐らく、こういう事だろう。向かった先の国で捕まり、奴隷となり、そのお金が、この小切手…悲しいとか、そういう感情すら分からなくなるほどに衝撃的だった。その時、泣いていたのかすら、分からない。

突如眼前が光り出す。


『あなたから強い感情の揺れが観測されました。力を、望みますか?』


もうなんでもいい。その時はそれしか思わなかった。


『よろしい。では、授けましょう。大天使ケトラの名において命ず。この者に力を』


頭の中で何が出来るようになったか、流れ込んできた。


『では、私はこれで…』


ケトラと名乗ったその大天使は天界へと帰っていった。

それからというもの、俺は国を飛び、飛び、飛び…解放軍を結成するために動き出した。


『ニシシ、面白そうだね。退屈してたんだよ』


黒猫が1番最初、俺に付いてくれた。

それからどんどんと人が増え、俺は親の救出へ、その監獄は向かった。

ドーン!

門を爆破、奴隷が逃げる逃げる。しかし、父も母も見当たらない。中を眺めていると、2人仲良く話す夫婦の姿が目に入る。父と母だった。


『親父ー!お袋ー!』


『ん?…あぁ、よく来たねぇ…』


『ほんと…よく来たわねぇ…えっと…どちら様で?』


『…ぇ…?』


『ごめんなさいねぇ…ここにいる以前の記憶、全然無いので…』


俺はすぐに駆け出す。嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…忘れられていたなんて…嫌だ…!昔あんなに楽しく話した思い出も…!あんなに楽しく遊んだ思い出も…!時には怒ったあの思い出も…!みんなで笑ったあの思い出も…!全部…忘れられた…という事だ。多分、俺はあれが、あの思い出の方が気のせいだったのだと言われたら信じてしまうだろう。

この原因を作った奴は誰だ…ユルだ…奴隷制度なんて無ければ…こんな事にはならなかった!



「うっ…!」


少しノイズが入る。


「大丈夫ですか!?」


アルテミスさんが駆け寄る。カトレアとベゴニアは別室に移動したようだ。


「大丈夫です。続けてください」


「…分かりました。限界だと感じたらお伝えください」



俺はそれ以降、ユルを討つために動き出した。この時はまだ、今と同じカードを生成し、仲間を入れるしか出来なかった。…まだだ、まだ、秘密があるはずなんだ…。ユルと戦える秘密が…。

魔王を味方につけ、アントスを仲間にして…。思い出してきた。仲間のことも。MFが使えたのは、黒猫だけだったが。

そんなある日、事件は起こった。奴隷商に基地の場所がバレたのだ。仲間の誰かが尾行されていたのかもしれない。奴隷商が次々と襲いかかってくる。黒猫を中心に迎撃をする。実力は黒猫以外、圧倒的に奴隷商の方が上。そもそも数でも劣っている。魔王と連絡を取ることも出来ない。





「すいません、この辺りの記憶は何やらロックがかかっているようです…。何があったのか分からなくなっていて…ごめんなさい」


「いえ、大丈夫です…続けてください」


「分かりました…どうかご無事で」



一体何があったのだろうか。そこには俺だけが立っていた。他の全員、カードの中へ入っていた。

矢が飛んでくる。


キィン


剣で弾き飛ばす。俺はこんな事出来る技術は無いはずなのに…。


『チッ』


『そこか!』


俺はそこまで耳が良い訳でもない。


『マジックブレイズ!』


黒猫の譲り受けた不完全な能力を、俺が使っていた。…思い出した。俺の本当の能力。

弓兵との距離を一気に詰める。やはりアルムさんだった。俺は互角以上に戦えてる。俺の本当の能力は、カードの中の仲間の身体能力や魔力、能力を借りる事だ。アルムさんを退け、本当の能力に目覚めた俺は酷いものだった。いつか黒猫が夢で言っていた。酒に溺れ、女に溺れ…あれは記憶の深層に僅かに残った欠片だったのかもしれない。力を手に入れた事で偉そうに振る舞うようになった。仲間が減っていく事が目に見えて分かった。


『なぁ、キミ。態度を改めたらどうなんだい?もうこんなんでは私もついていけなくなる』


『ハッ、そんなのついて来れない奴の技量不足だ。俺の近くにそんな奴はいらん』


『そうか…そうか…ならば』


黒猫は大きく息を吸う。


『私は!解放軍のリーダーの変更を要求する!』


『!?何を!ダメに決まっているだろう!?』


『私の案に賛成する者は皆、私の元へ!』


『そんなもの、来るはずが…』


扉が開く。扉の前には現在の解放軍全員、そこに立っていた。

俺は、逃げ出した。走った。走って、走って…疲れて歩き始めた頃にはここが何処か分からなくなった。

俺のビリーブの能力は信頼される事が条件。きっと今は誰に対してもこの能力は発動しないだろう。すぐ側を奴隷商が通過する。バレなかったようだが。いっその事、奴隷落ちでもしてみようか。誰かの親のように記憶を無くして、楽になるかもしれない。

奴隷商に近づく。


『何をしておる!お主は!』


『…魔王』


放っておいて欲しい…信頼される事を失った俺は無力だ。


『放っておいてくれ。もう、どうでもいいんだ』


『なら、お主。お主は何故、今、泣いておるのだ?』


『ん?…あれ…本当だ…なんでだろう…』


『…妾に話してみよ。力になれるかもしれぬ』


『…でも』


『だってもへちまも無かろう。妾の友人が困っておるのだ』


『…ありがとう』


『感謝されたのはいつぶりかのう…』


俺は全て話した。吐き出すように、泣き出しながら。全て話した。


『なるほどのう…お主、魔界の王としてアドバイスをくれてやろう』


『?』


『信頼を失ったらなぁ、こうするのじゃ!』


魔王は立ち上がる。


『ごめんなさい!』


魔王は、魔王ともあろう人が、頭を下げていた。そうだ、俺は頭を下げる事を忘れていた。大事な、大事な事なのに。


『こうした後に、何がダメだったかを明確に言う、そしたら次からどうするかを、ハッキリと話す。今まで積み立ててきたものが本当なら、仲間は許してくれる』


『…魔王…ありがとう、本当に…ありがとう…』


『ほーれほれ、お姉さんが慰めてやるぞー?』


『体型は幼女じゃブハッ…』


『失礼な奴じゃのう』


こうして基地は戻る。黒猫一同、基地の前で立っていた。

こちらの様子を伺うように。俺は大きく息を吸う。


『ごめんなさい!』


黒猫以外はざわついている。黒猫は至って冷静だが。


『今回、俺は力に溺れた!リーダーとしてあるまじき行為だと思う!次は天狗にならず、みんながついて来れる、頼り甲斐のあるリーダーをやってみせる!だから!今一度…チャンスをください!』


頭を下げる。深々と。


『ふぅ。本当なのかい?それは』


『あぁ、本当だ』


『気持ちに嘘は無いかい?』


『あぁ、全て真実だ』


『魔王に謝れとでも言われたから謝った訳ではないかい?』


『魔王にはアドバイスは貰った。だが、これは俺の気持ちだ』


『信じてもいいのかい?』


『信じて欲しい…』


しばらく沈黙が続く。


『あぁもう、やめだやめ!かいさーん!終了終了!今まで通りの業務を全うする事ー!異論ある奴前へ出ろー?』


黒猫が声を張り上げながら声をかける。皆基地は戻る。


『いいかい?もし次に今言ったこと破ったら…私がお前の首を切る』


『あぁ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ』


『そうさせてもらうよ』


こうして俺は再び、解放軍のリーダーとして動き出す。

仲間も集めた。大量に。MF持ちは集まらなかったが。

ユルの居所も掴む。全ての事が順調に運ぶ。


『決戦だ、ユル』


『ハーッハッハッ…笑わせないでくれ、1人で!?私に楯突こうだなんて、浅ましいにも程がある!反吐が出るね!』


『俺は…1人じゃない!』


『ふぅん、ま、いいや。殺すだけだ』


ユルとの戦いは一進一退。ユルにも俺にも傷が付かない。しかし、ユルはMFを使わずにこれだ。早期に決着を付けなければ…


『マジックブレイズ!』


『へぇ…忌々しい能力を使うんだね。殺し甲斐があるよ!バー』


『させない!やぁ!』


魔法の剣が飛ぶ。ユルに能力の詠唱をさせてはいけない。


『はぁ!はぁ!』


『チッ…ホントに面倒だね』


『やぁぁぁぁぁあ!!』


一気に間合いを詰める。この動きはアントスの動き。間合いを詰めて、叩き込む。彼はこの動きで何人もの巨大な存在を討ち倒して来た。

ガキィン…


『…なっ…』


『ハーッハッハッ…残念だったね。バーサーク』


剣が折れる。ダメだ…戦えない…。


『終わりだ!はぁ!』


間一髪で、避けた。カードホルダーが切れる。中から仲間が出てくる。


『へぇ、面白い曲芸だね。お前達!やっちまいな!』


奴隷商が束になって襲いかかってくる。こうして俺は砂漠を逃げ、その途中で記憶を無くしたのだった。逃げるために。

仲間の多くが捕まって、俺と同じ収容所に閉じ込められていたらしい。解放軍が来た時、あの時言葉が分かったのは、俺の仲間だったから。俺と同じ言語をつかっていたから…か。

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