大天使
妾達は天界へと向かっている。天界は竜宮城の逆で、時間の流れが極端に遅くなる。移動時間次第で日帰りも可能というわけじゃ。妾が地上に降り立ち、天界へと戻らなかったのは理由がある。1つはいくら妾でも往復するだけの魔力が無いこと。もう一つは連れ戻される危険性があったこと。片方はベゴニアの魔力を借りて解決した。もう片方は危険を顧みずに門を開いたベゴニアが有罪となった。それは納得いかん、理不尽じゃ。無罪を訴えたい。それだけで理由としては十分。じゃから、今妾達4人は船に乗っている
「なぁ、カトレア?」
「なんじゃ?」
「あいつ、ホント声帯どこにあるんだ…?」
「本人が…いや、本魔が隠したがっておるんじゃから言えん」
「俺はまだ、あいつに苦しめられるのか…」
船の操縦士の元へ向かう。
「いつもご苦労じゃの。褒美をやろう。何が良い?」
「いえ…私はこれしか出来ませんので…」
「そう言わずにじゃな」
「でしたら…これからもこの仕事をさせてください…私はこの仕事が好きなので…」
「そうかそうか!良いぞ、これからも宜しく頼む!」
「あ…ありがとうございます」
声帯が何処にあるか分からない骸骨の魔物は笑顔を浮かべ、感謝を言ってくる。感謝するのはこっちの方じゃのに…。
「でも、それだけでは申し訳がないのぉ…そうじゃ!名前なんてどうじゃろう?」
「いえ…私は骸骨という特徴だけで十分で…」
「これからお主はヴォーチェじゃ!魔王の決定じゃぞ?断れるわけがなかろう?」
「…!ありがとうございます…ヴォーチェ…大切にします…」
こうして妾は操縦士の元を去る。あと…2.3時間ほどじゃろうか…ベゴニアの方へ向かう。
「ベゴニアー?」
いない…
「ベゴニアー?」
やはりいない…置いてきたのかのぅ…
「いたいた!おーい!ベゴニアー!」
そこには天を見上げ立つベゴニアの姿。
「あと少しで到着ですね」
「そうじゃな。して、何故お主はそこに?」
「万一天使に勘づかれた時、交渉、もとい実力行使のためですね」
「なるほどのぅ…む…」
とてつもない魔力が近づいてくる…。この魔力は…
「ここから先は天界です。神聖な土地へ入り込むのはどこの輩ですか」
大天使、アルテミス。ギリシャ神話から譲り受けた名らしい。陽は妾達の後ろにある。つまり、向こうから見れば逆光。分からなくとも無理はない。
「妾は魔王、カトレアじゃ。汝等と話がしたい」
「なるほど。魔王でしたか。先程の無礼をお許しください」
「ふむ…そこまで警戒されるとは思っておらんかったでのう。何かあったのか?」
「立ち話もなんですから、中はどうぞ。案内いたします。」
大天使はくるりと後ろを向き、進み出す。
「ヴォーチェ。大天使についていけ」
「了解致しました」
船のどこからでも操縦席とは連絡が取れる。これはとても大事なポイントじゃからな。
その隣にいたベゴニアの顔は、苦虫をすりつぶしたような、そんな顔をしておった。