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3話

 次の日、ラルフとアマトは最下階にある宇宙船射出用ピットにいた。ピットにはいくつかの宇宙船と宇宙ステーションのメンテナンス用の無人機が整列している。このピットから宇宙船を電磁式カタパルトにセットして射出口より発射するのだが今は閉じられている。

 ラルフたちのほかにも数名の乗組員が集まっていた。今日は宇宙ステーションから宇宙船に乗って、地球に降りる日である。ラルフは全員が集まっているのを確認すると、挨拶から始める。


「みんなおはよう」


 ラルフが一礼すると、乗組員たちも一礼し返した。


「今回、リーダーを務める植物管理部門部長補佐、ラルフ・アーラカイドだ。すでに見知っているメンバーばかりだと思うが、よろしくお願いする」


 ラルフは後ろを振り返り、今回乗る鈍色に輝く宇宙船を一瞥する。


「これが今回みんなの乗ってもらう宇宙船。地球再生号598‐3型。宇宙ステーションと地球を繋ぐ最新機だ。機体の形状としてはスペースシャトルを模しているが、スペースシャトルとは違い、切り離し型の補助ロケットを必要としない推進力を持っている。主翼は従来通り二重デルタ翼で、その翼に二つの方向を調整できる補助エンジンが取り付けられている。これにより飛行機のような離着陸を可能だ。尾翼部にある3つのメインエンジンは三角状に配置されているのは従来と同様だ。燃料は新しい化学燃料、アルノバライトを採用している。この燃料は従来の燃料の半分の量で同じ距離を飛ぶことが出来るらしい。内部も大きく変化している。内部には、コックピットや仮眠室、シャワー室などの生活スペース、食糧庫などの生活必需品の倉庫、植物サンプルや海水サンプルの保存、調査を行う道具をしまっている研究室まで用意されている。コックピットは10人分の席を用意しても余裕がある広さがある。一方、仮眠室は昔の寝台列車のような一室に数人が集まって寝る形式ではない。一室一人分のベッドとサイドテーブルがあるのだ。シャワー室も同様で、一人が一つ使えるシャワーが完備されている。研究室は、宇宙ステーションにある研究室よりはもちろん見劣りするが、それでも十分すぎる」

 ひとしきり宇宙船の説明を終えると、再び乗組員たちに向き直った。


「今回の調査は、着陸地点周辺10km圏内の水質調査と大気調査。サンプルは10個ずつ採取すること。みんな何度目かの調査経験をして気が緩みがちになるが、そういったものはくれぐれも気を付けるように。そういった緩みが、事故を生むことはよくわかっていると思っている。実際、知っているものが多いと思うが、5年前に起きた事故にはそういった緩み、これぐらい大丈夫だろう、という油断があった結果からだ。いいか、死にたくないなら気を引き締めておくように」


 5年前に起きた事故というのは、当時地球の調査に出発したメンバーの一人が倒壊したビル群に侵入したのだ。彼は6年前にも倒壊したビル群近くの調査を行っていた。その当時から倒壊しているのだから、今更さらに崩れないだろうという油断があったのだ。他のメンバーの静止を聞かずにビル群へと消えていく。結果、彼は帰ってこなかった。入ってから10分後にビル群が再度倒壊したのだ。何人かが彼の捜索を行おうとしたが、当時のリーダーは二次災害を懸念して許可しなかった。この一件以降、調査は必ず二人一組で行うことと倒壊したビル群や土砂崩れを起こしそうな山や地滑りを起こしそうな崖の近くには近寄らないことが暗黙のルールとされた。


 ラルフはこのことを調査の挨拶の際に必ず言うようにしている。もう二度とあのような事故を起こさないために。


「装備の点検はもう完了しているのか?」


 ラルフは乗組員の一人に声をかけた。彼は地球で着る防護服の点検や宇宙船の整備を担当している。彼は黙って頷くと、ラルフも頷き返した。


「ありがとう。では全員、宇宙船に乗ってくれ」


 ラルフに続いてぞろぞろと乗組員たちが乗り込んでいく。タイル張りの通路を進み、コックピットでそれぞれに設けられた座席に着席する。ラルフはもちろんリーダー用に着席した。コックピットのフロントガラスから外の様子が見える。外ではグランドハンドリング役の整備員たちが迅速に宇宙船を誘導していた。操縦担当の乗組員が宇宙船はゆったりとした動きで反転させ、電磁式カタパルトの射出機へと進んでいく。

 宇宙ステーションの技術であれば、宇宙船の操縦を自動化することは容易だ。しかし、万に一つ、バグがあって緊急停止が出来ずに取り返しにつかないことがなるよりも、人間が操縦することでいつでも止めることが出来るように設計した方が安全であるというのが、スペースシャトル部門たちのエンジニアの見解だった。

 射出機にスペースシャトルの車輪がセットされていることをチェックした整備員たちは一斉にスペースシャトルから離れていく。


「全員退避完了です。これから射出準備に入ります」


 無線で連絡が入ると、射出口が開き始める。徐々にピットが真空へと満たされていく。

 ラルフを含めた乗組員たちは肩と腰のシートベルトを締めて発射の衝撃に備える。


「こちらも準備完了です。いつでも射出大丈夫です」


 射出口が開き終わり、宇宙への入り口が開かれる。宇宙船のコックピットに灰色の豆粒が映る。それが自分たちの目指している地球であることに、ラルフは何度見ても慣れなかった。


「射出します。カウントダウン入ります……」


 乗組員、整備員全員に緊張が走る。


「5、4、3、2、1、射出!」


 整備員の代表が射出のボタンを押した。電磁式カタパルトへと電流が走る。射出機専用の二本のレール間に高電位がかかり、伝導体でできた特殊なスターディングブロックに力が加わる。一瞬にしてマッハに近いスピードを得たブロックが自分より数十倍も大きな宇宙船を押し出す力に変えていく。宇宙船に圧力がかかる。それはコックピット内も例外ではない。普通では経験しがたいGがかかり、身体を押しつぶさんとする。数舜ののち、解放されたころには宇宙船は放り出された後。無重力の中をまっすぐまっすぐ進んでいく。このままだと、宇宙船は当てのない旅に出ることになってしまう。


「射出完了。エンジン起動」


「了解。エンジン起動します」


 乗組員が手前のレバーを押し出していく。宇宙船の後方にある燃料が燃えだし、その推進力がエンジンの排出口から吐き出される。噴出する勢いを調整し、地球へと宇宙船の顔を向けさせる。


「方向問題なし。調整問題なし。エンジン問題なし。あとはデブリに注意しながら進んでいくだけです」


 宇宙船はゆっくりとした動きながら確実に目的地へと向かっている。乗組員たちは安どしたようにため息を吐いた。ラルフはアマトと顔を見合わせると、口を開いた。


「了解。ここからは一旦シートベルトを外してよいものとする。大気圏突入は5時間後だ。それまでに再度戻ってきておくように」


 その言葉を聞いて、各々――操縦を担当している乗組員以外は――シートベルトを外してコックピットを後にする。ラルフは操縦担当にねぎらいの言葉を掛けると、アマトとともに仮眠室へと向かった。


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