上
多少は盛っているが殆どが事実れす。
ある暑い夏の日の事だ。
人は快適な快適な温度と環境を好む。
外にいれば照らされる日差しをなるべく避ける為に帽子を被ったり、日傘を差したり、建物の影に隠れたりなどする筈だ。
しかしそれが許されない者達がいる。
例えば今の俺のような奴だ。
「うげぇ...あぢぃ..」
太陽が一番大地を暑くさせる時間帯だろうか。
俺は学校のグラウンドでグローブを左手にはめた状態で立っていた。
俺が何故こんな暑い季節に太陽の光から抜けられないかと言うと、高校の野球部に所属しているからだ。
嫌なら辞めればいいじゃないかって?
仕方ないじゃん。1度入ると辞めづらいんだよなウチの野球部は。
じゃあ何故入ったかって?
仕方ないじゃん。小さい頃から野球やってて中学も卒業するまでやってたんだもん。
親から今さら止めるのか?って脅された時は絶望すらしたよ。
それに俺は練習は嫌いだけど仲間と一緒に居られるのが心の何処かで楽しかったのかも知れない。
試合で打てたら楽しいし、褒められれば嬉しかった。
まあそれ以上に怒られたけど。
そんな事はどうでもいい。
今の現状を何とかしたいんだ。とにかく暑すぎる。
夏休みに入ってからは毎日のように蒸し暑い中で朝から夜までみっちりと練習がある。
でも何故だろうか高校球場って意外と持つんだよね。
でもやはり暑いものは暑い。
「あー。早く終わんないかな~。」
ボーとしていた俺に叫び声が聞こえてきた。
「広沢!!上だァァァァ!!」
「え?」
ゴン!
鈍い音が響いて、俺は石のような物をぶつけられた感覚に襲われ、その場で倒れた。
「...いった~。」
その後、俺は先生兼コーチにこっぴどく怒られた。
「やる気が無いなら帰れ!」とか、「明日の練習試合負けたらお前の所為だ!」とか色々言われた。
だがそんな最悪な1日も何とか終える事が出来た。
「んおぉぉぉ!!めっちゃ疲れたぁぁ!!」
俺は自転車に乗りながら両手をあげて「ンー!」と伸ばした。よく朝起きた時とか集中してた作業が終わった時なんかにやる動作だ。
「おお。俺も今日は疲れたわ~。誰かさんの所為でね?」
「いや~。面目ない...」
俺の隣で自転車で走っているのは同じ野球部のチームメイトの矢倉だ。
今日彼が疲れたという理由は俺があの時ボーとしていたと言うことで監督から「お前ら全員覇気が足らん!学校の外50周走ってこい!!」なんて言われて走らされたからだとか。
「ゴメンゴメン。飲み物奢るからさ!」
「マジで!?じゃペプシで!!」
俺はその言葉に驚いた。
「おい!お前ペプシって炭酸じゃん!飲んじゃっていいのかよ!」
「な~に。気にするなっていつもやってるじゃん!」
ウチの野球部には炭酸を飲むことは禁止されていた。
炭酸を飲む者は見つかると吊し上げられ、チームからの罵倒と先生から説教を受けて悪とされた。
炭酸を飲んだらチームは負ける。
そんな伝統というか文化というか、そんな事の所為で俺らは炭酸を飲めなくされていた。
炭酸を飲んでいけない理由としてはご飯が食べれなくなるとかいう理由だった。
詳しい事は分からないが、先輩達が昔にあった戦争時代の憲兵のように厳しい目で審査をしていた。
見つかるとかなり怖い事だが、それでも疲れた時は炭酸でシュワっと皆やりたいのだ。
「明日練習試合負けたらお前の所為だな矢倉。」
「いや!おまえだろ!!」
そんな話をしながら近くにあったコンビニに入ってペプシを2本買った。
「うわぁお前ペプシ買ってんじゃん!」
「煩い!共犯だバカやろう!」
そう言って俺は矢倉にペプシの大きい缶を手渡した。
2人はコンビニにある外のベンチに座って、プシュと缶を開けた。
2人は同時に缶を口に入れ、オヤジがビールの飲み終えた時にやる「カー!!」という動作をやった。
「なあ広沢?」
「ん?」
「正夢ってどう思う?」
唐突によく分からない話を矢倉はしてきた。
「は?なんの事?正夢って夢に見た事が現実になるとかって奴?」
その俺の問に矢倉は真剣な顔で頷いた。
ホラーの話とかでそんな話は聞くけど、俺には関係の無い話だ。
「広沢は本当に夢で見た事が現実に起きたらって思うとどう思う?」
そんなの嫌に決まってる。
良い夢もあるが大抵の夢は忘れるし、残ることがあるのは嫌な夢の方が多い。
嫌いな絶叫系のマシーンに乗ったり、ナイフで刺されたり恐竜に追いかけ回されたりした事がある。
「嫌だね。ろくな夢が無いね!」
「まあそうだよな..ってなんで俺こんな話してんの?」
「矢倉..お前から話始めたんだろが!」
俺たちはゲラゲラと笑って、それぞれの家へ戻って行った。
家に帰るなり、まず砂で汚れたユニホームを脱ぎ捨て風呂場へ持っていく。
そしてパンツも脱いで、後はお風呂へドボーンだ!
風呂から出た俺は、冷蔵庫にあった牛乳パックを手に取り、一気飲みをした。
「ぷは~!風呂あがりは牛乳に限るね!」
「うわぁ~にぃちゃん牛乳パックに口つけやがったよ。もうあれは汚れて飲めないや。」
そんな嫌みを言いながらテーブルでご飯を食べてたのが俺の弟だ。
「煩い!俺はお前より年上だから何やってもいいんだよ!」
「でたよ兄貴ヅラだ!本当にみっともない!」
こんな可愛くない奴は無視して、ご飯食べてエアコンの効いた部屋でぐっすり寝よう。
そう思いながらテーブルの上にサランラップで覆われたご飯とおかずを食べ始めた。
特に弟とは話すことも無いのでお互い静かにテレビを見ながらご飯を食べていたが、弟から沈黙は破られた。
「そう言えば!にぃちゃんの部屋さぁ~。」
「ん?」
「エアコンぶっ壊れたらしいよ?」
俺は橋を置いて暫く考え込む、何を考えていたのかは分からないけど、一発目で出た言葉は。
「は?」
だった。
俺はご飯を終えて自分の部屋を見に行った。
すると弟の言っていた通りエアコンは動かなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はその場で崩れ落ちた。
何故!何故このタイミングなんだ!
心からの叫びだった。
「俺は一体この先どうやって生きていけばいいんだ!」
崩れ落ちた俺を見かねた弟はあるものを押し入れから持ってきた。
「これ使いなよ。きっと無いよりはマシだからさ」
弟が俺に差し出して来たのは扇風機だった。しかもかなり古そうな扇風機だ。奥の部屋の押し入れから持ってきたらしい。
「おぉ。これは扇風機か..エアコンの普及により廃れていった筈の人類の文明!よしっ!!今夜はなんとかなりそうだ!!」
俺は暑苦しいこの部屋に救世主である扇風機のスイッチを入れた。
生ぬるい風でエアコンよりは寝づらいが、やはり無いよりはマシだ。
とにかく今日はもう寝よう。明日も早いのだから。
俺は眠りについた。
暫くしただろうか。ふと目が覚める。
「う~ん。まだ夜の2時かよ~。」
夜中の2時に目が覚めるなんて珍しかった。
トイレで目覚めることだって今までなかったのだが。
暗い部屋の中を見渡せば、少し不気味な雰囲気が出ていた。
少し怖くなってきて僕は持っていた薄めの布団に掴んで体が布団にすっぽりと入るようにうずくまった。
暑いはずなのに、何故か布団にうずくまりたくなった。
(早く..朝にならないかな...)
そう思いながら俺はいつの間にか眠りに着いた。
その時に聞こえてきた扇風機の音は、救いだったのかもしれない。