-川の神に毒など効かぬ!効かぬのだぁ!-
だいぶ歩いた。
多分二時間くらい歩いたと思う。意外だけど、体はあんまり疲れていない。
やっぱり、体力は改造されて強くなってんのかなぁ。
-姉ちゃん、俺の体力もいじってんの?-
-まぁ、多少は強めに作ったよ。でも運動しないとなまるからね-
そっか、多少ってアバウトな答えだけど、体力あるって最高だな。
全然、山道余裕だ!ハイキング超楽しー。
まわりのアイヌ達は汗をかいてるなか、俺は余裕だったけど疲れてるフリをした。
なんかこういう人に合わせるのって自分が日本人だと実感するなぁ。
「ここだ」
夕方になってアイヌの一人が教えてくれた
熊の頭蓋骨が集落の入り口に飾ってある。
アイヌって感じだなぁ。アイヌだもんなぁ。
そんなことを考えながら長老の家まで連行される
長老に会ってどうしたもんか、考えてみたけど、やっぱアレしかないか。
ハッタリかまして仲間にしてもらえないかなぁって甘い考えかなぁ。
「座れ」
はい、言われなくても座りますよ。
「客人、よくこられた。若いもんから話は聞いておる。手違いとはいえ酷い目に合わせてしまったこと心からお詫びする」
よ、予想外、人間できてる!さすが長老…
「ビックリしましたよ。いきなり殺されるところだったんですから。でもそうやって謝ってもらえるなら、まぁ…」
水に流そうとも思っちゃう。礼の力ってすごい。徳ってやつ?長老いい人?なの?
「薬湯です。どうぞ」
「あ、どうもありがとうございます」
なんとも不思議の味のする飲み物だ。そういえばアイヌの人は北海道の薬草の知識が豊富なんだっけ、なんかの本で読んだなぁ。
「この村の長をしておる風と申します。客人、名前を伺ってもよろしいか?」
「はい。神川潤といいます」
「カムイペトルン・ペトゥとは良い名だ。誰につけられたのかな?」
あれ、そんな名前いったっけ?
-それ、変換機能ね。勝手に動いたのよ-
-姉ちゃん!急に話しかけないでくれ。ほんとビックリする-
-親切で教えたのに!-
-あ、ごめん-
-次からは教えてあげないよ-
-あ~ごめん、機嫌なおしてよ姉ちゃん-
「…ルン、、、カムイペトルンどの、、誰が名付け親かな?」
「あ、はい親が付けてくれました」
「ほぅそれは、ご両親はご健在かな」
両親が事故で死んだこと、姉が一人いることなど、どこで育ったのか難しくもなんとか説明しながら話を続けると長老は、歯の抜けた口を笑顔にして食事と寝る場所を提供してくれることを約束してくれた。
そして、まぁ言ってしまった俺も俺だけど、自分が未来から来たとつい人柄に負けて話してしまった。
なのに、まぁ、長老ったら、疑わずに聞いてくれるんだから。目頭が熱くなっちゃたよ。
こんないい人いるんだなぁ。
明日、狩りに誘われた俺は舞い上がりながら用意された寝床について鹿の干し肉をかじって、そのまま寝てしまった。
「長老、やつは何者でしょうか?」
「キサラ、お前も見ただろう。奴はトリカブトの毒入りのスープを飲み干してケロリとしている。あれは人ではない」
「では、カムイの使い」
「間違いあるまい、川の神よ。毒など効かず、矢も効かぬわけじゃ」