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8歳のおっさん伝説  作者: 壬生たえお
第一章 少年期
8/15

第八話 握られた手

前回までのお話


リアンに紹介されたラトリーシャは大変な人物でした。

 日は傾き、風が少し涼しく感じられるようになった頃、エドガーは裸に剥かれていた。


 それはゆっくりと街道を進んでいた馬車が、名前も無い川の橋を渡り終えた頃。


「ガキ。お前ちょっと臭いな。ココ、頼んだ」


 そんなラトリーシャの一言で、川べりで袖と裾をまくったココに全身を洗われている。

 いやいや一人で洗えますから、と抗議するもそれが通るはずもなく。


 今はただ目を瞑り、心の中で「俺は八歳、俺は八歳」と繰り返している。



「ココー! ちっと頼むわ」


 エドガーは自分の真横からそんな声を聞いた。そう、真横から。

 真横には、先程ジュールが土魔法で開けた大きな穴に、引いてきた川の水を流し込んで溜めていたはず。


 ふむ、と考えている間にもココは「もー、エドガーだって男の子なんだから!」なんて言いながら右手で何かをしているようだ。身体を洗う手が左手だけになっている。



「お、良い湯加減だ。流石はココだな」


 どうやらココが火魔法で水を温めたようだ。



 ――この目は開いてはならぬ。開いたら最後、何を言われるか分かったもんじゃない。


 しかし、風呂か。川べりに露天風呂だなんて最高のロケーションではないか。

 土魔法だけでは穴を開けて終わってしまうし、かといって火魔法だけでは水を溜めるのが大変だ。複数人が協力して初めて成立するんだな、と思えば感慨深いものがある。



 あまり泡立たない石鹸で身体を洗われていたエドガーは突如、頭から水を掛けられた。

 エドガーの感覚が確かなら、ココの左手から出た水で。


「……え?」


 ココはさっき右手で火魔法を使っていた、はず。

 エドガーが驚いて振り返ると、目を半開きにしたまま仁王立ちするココと、肩まで湯に浸かり、にやにやと笑うラトリーシャの姿があった。



「……エドガーのえっち」

「え、いや、それよりも、今」


「最初は驚くよな。ま、そういうこった」

「……そのうち分かるって言ったもん」


「んなことは良いから、流したんならお前も入れ。温まるぞ」

「はあ……」

 もう知らん、とエドガーは湯に浸かる。出会ってからまだ半日しか経っていないが、どうもラトリーシャには口答えするだけ無駄だと感じた。


「ぼーっと突っ立ってないで、ココも服なんか脱いで入っちまえ」

「え、私は、」

「こいつ、まだガキだぞ、ガキ。んな恥ずかしがるような歳でもないだろう」


 ――すいませんすいません、中身はガキでもないんです。とエドガーは心の中で謝っておいた。


 ココも反論するだけ時間の無駄とでも考えているのだろうか、あっさりと服を脱ぐと湯の中へと納まった。

 ――大丈夫、俺は八歳、俺は八歳。


「で、ほら。何か言いたい事とか聞きたい事とかあんだろ? 今のうちに聞いとけ」


 今となってはもう何も恐れることもない、とエドガーは切り出した。


「ココさんは、その」

「……ココでいい。あとその話し方むかつくからやめて。バカにされてるみたい」


 ――子供って難しい。


「ココは、魔法を二種類使えるんだよね? それって、どうにかすれば俺も魔法が使えるようになったりする?」

「私のは、産まれつきだから、多分むり」

 ひょっとしたら、と淡い期待を寄せたのだがそれは即座に否定された。



「どう産まれたとか、聞かないんだ?」


「え? だって便利で良いじゃん。凄いじゃん。そりゃ、俺だって使えるようになったら嬉しいけど、無理なら無理で仕方ないし、それに……詮索するなって言われたし」


 視線だけ動かしてラトリーシャを見ると、小さく笑っていた。


「なあココ、こいつはこういう奴なんだよ。気持ち悪いだろ? 初めてアタシを見た時にだって微動だにしやがらねえ。全く、どんな育ち方をすればこうなるんだか」


 え、とココが漏らす。


「あの、ついでに聞いても良いですか。失礼だったらすいません。最初にも言われましたけど、それは、ラトリーシャさんの肌が少し黒いって事の他に何かあるんですか?」



 まずいことを聞いてしまったのだろうか。二人が黙って瞬きを繰り返しているのにエドガーは少し焦る。


「お前は面白いな。多分、常識を知らないんだろう。なあ、ココの髪を見てどう思う?」


 言われてココを見る。深緑のように緑がかった髪は瑞々しく、美しい。


「どうって……綺麗だなって」

「――!」


 ココは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 ――子供って本当に難しい。



「私、エド嫌い。むかつく。えっちだし」

 ココはそう言い残すとさっさと湯から出ていってしまった。


 ラトリーシャはココが去った方を見ながらくつくつと笑っている。


「……嫌い、と言われながら愛称で呼ばれるのも複雑な気分ですね」

「なあに、気にすることはない。お前が飛び切り変な奴だから驚いているだけだろ」

「そんなに、変ですか? 出来たらその、常識とか教えて貰えると助かります」

「ま、追々な。どうせ長い旅になる。ゆっくり教えていくさ」



 それじゃ晩飯にするぞ、と告げて湯から上がっていくラトリーシャの尻を見ながら、

 ――ああ、この人と出会えて良かったな、とエドガーはリアンに感謝するのだった。

 眼福眼福。



 湯から上がったエドガー達と入れ替わりでユーゴとジュールが身体を洗いに行った。


 先に上がった三人はその間に夕飯の準備をしているところだ。

 街道脇に止めた馬車の近くで火を熾し、湯を沸かした鍋の中に適当な大きさに切った鶏肉やら野菜やらを投入していく。

 右手から火の魔法、左手から水の魔法と、ココ一人で何の苦労もなく火を熾して、鍋に水を入れている姿を見たエドガーは改めて魔法の便利さを痛感する。



 ――しかし、まるでキャンプだな。

 こうして数人で野外での食事を準備している、そんな事実がエドガーの気分を高揚させていた。

 他人と居る、ということがこんなにも安心出来るとは思ってもみなかった。

 他人と居る、ということがこんなにも簡単に達成出来るとも思っていなかった。


 隊長のラトリーシャを筆頭に、恐らくちょっと変わった人達なのだろうけれど、居場所があるならばそんなのは瑣末な問題だ。

 ――ひょっとしたら皆がそう思っているのかも知れないけれど。

 巡り合わせてくれたリアンにはいくら感謝しても足りない気がした。



 エドガーが感じていたのは、確かな喜びだった。

 自然と野菜を刻むナイフもリズミカルになる。


「言っておくが、今日は特別だからな。毎日こんなのが食べられると思うなよ」

 釘を刺すのを忘れないのがラトリーシャという隊長だった。



 全員が集合したところで、火にくべたままの鍋を囲んで夕食となった。

 薄く塩で味付けされたスープは、鶏と野菜の旨みが染み出ていて優しい味だった。

 黙々と食べているとココから全員にパンが渡された。

 固いパンをスープに浸してから食べる。美味い。



「エド」

 食事とその片付けを終え、五人で火を囲んでゆっくりしているとラトリーシャが呟くようにその名前を口にした。

 そのままゆっくり立ち上がると手に持っていた木刀をエドガーへ押し付ける。


「夜は持ち回りで見張りをやってもらう。ただ最初だからな、慣れるまではペアだ」

 はい、と返事をして木刀を受け取る。よく使い込まれているように見えた。


「それと、この隊のルールを教えておく。いいか――奪うな、それと殺すな、だ」

 奪うな、殺すなですね、とエドガーは復唱する。


「他人にした事はいつか自分に還って来る。傷つけるから傷つけられるし、奪うから、奪われるんだ。だから例え相手が盗賊だろうが、小鬼ゴブリンだろうが、絶対に奪うな、そして殺すな。殺すのであれば、食え。生きる為に食うのは許す。ただの殺しは許さん――それが、この隊のルールだ。ま、ババアの教えだがな」

 初めて見せる真剣な表情のラトリーシャに応えるよう、エドガーも神妙に頷いた。


「それと、今はまだ分からないだろうが、いつでも自分で考えて行動出来るようになれ。これもババアの教えだ。覚えておけ」


 その言葉を最後にラトリーシャは何処かへ歩いて行ってしまった。


 その他の面々も馬車に戻る者、ラトリーシャの後を追う者と別れている。どうやら解散の様子だったが、エドガーは一人、火の前で動けずに居た。



 どくん。と、エドガーはその瞬間に自分の心臓が鼓動するのをはっきりと感じていた。


 ――自分で考えて行動出来るようになれ。


 果たして、自分は今何故ここにいるのか、と。

 運が良かった? それはそうだ。

 暮らしていた森を追われ、ギーギと別れた後の自分は、周りの好意にただ生かされていただけだったのではないか。

 生にしがみついたはずだった。人生を楽しむと約束したはずだった。

 自分は『エドガー』なのだ。その意味を忘れてはならない。

 与えられた居場所で満足している場合ではない。

 新たな決意を胸に、立ち上がる。きっと、知らずに傷付けた。

 ココと話がしたかった。



「……ココ」

 ココは一人、馬車の中に居た。

 馬車の隅で膝を抱えているココの隣にエドガーは腰を下ろした。


「ちょっと話がしたいんだけど、いい?」


 ん、と頷くとココは自分の鞄を手繰り寄せてごそごそと中を漁り、取り出した物をエドガーに差し出した。

「……ゆで卵」

「くれるの? 俺に?」

 こくん、と頷くココ。

「新しい子が来るって聞いたから、あげようと思って、今朝買ったの」


 ――ココは仲良くしようとしてくれていた。それを考えるとエドガーは胸が熱くなった。

 受け取ったゆで卵を手で二つに割って、片方をココに差し出す。

「半分こ、しよ」

 ココはふるふると首を横に振って、差し出された方とは反対の手に持つ方を指差した。

「ココはお姉ちゃんだから、小さい方でいいの」


 はい、と渡しながらエドガーは後悔していた。

 今日一日、この子はどれだけの思いを胸に秘めていたのだろう。

 自分はココの気持ちを考えずに踏みにじってしまったのだ。

 もう、知らない、では済ませられなかった。


「ねえ、ココ。俺は小さな村で育って、魔法が使えなかったから村の人達と話すこともなくて、常識とか分からなくて。でもそれでココを傷付けたりしたくないから、ココさえ良かったら教えて欲しいんだ。ココの髪の事とか、魔法の事とか」


「……詮索するなってラト姉言ってたじゃん」

 俯いて下を向いたままココは話す。



 ――逃げない、もう逃げない。エドガーは心の中で唱える。

 分かってる、逃げた方が楽だって。

 ずっとそうやって生きてきた。

 顔色を伺って傷付けず、傷付けられずの距離。

 でもそれじゃ、楽しくないって、分かったからしがみついたんだ。



 エドガーは大きく息を吐いた。

「知らないで傷付けるより、ココのことをちゃんと知って受け止めたい。それでもっと仲良くなりたいんだ」


「……エドは悪くないよ。悪かったのは私。しっかりお姉ちゃんするつもりだったのに、エドは全然年下っぽくなくて、悔しくて、拗ねてるだけ……でも」

 ココはそこで初めて顔を上げ、しっかりとエドガーを見据える。

「エドもなんか秘密教えてくれたら、話したげる」


「ん、分かった」

 エドガーがしっかりと頷くと、ココはまた俯いて、呟くようにぽつりぽつりと語り始めた。



 ――エドは鬼人族って知ってる? 知らないよね。えっと、人に憧れた小鬼が、人の形になったって言われてるの。昔はたくさん居たけど、今はほとんど居ないんだって。私も詳しい話は知らない、こーゆーのはラト姉の方が詳しいと思う。でね、私のお父さんもお母さんも普通の人なんだけど、ずーっと昔の私の先祖にその鬼人族が居たみたいでね。隔世遺伝っていうの? 分かんないんだけど、私はその鬼の血が濃いみたいなの。髪が緑がかってるのがそう。怒ると目が紅くなっちゃうのもそう。鬼人族の人は髪が緑色で、目が紅いんだって。もう私そのまんまじゃんね。それでずっと家族からも敬遠されてたんだけどね。ある日、右手がふさがってたから左手で火の魔法を使おうとしたら水が出てきたの。それを見てたお母さんはもう狂ったみたいになっちゃって。鬼の子だーって手当たり次第に物を投げてくるの。自分の子じゃんね。流石にもうつらいなーって思ってたらちょうどラト姉の隊商が村に来てて。私を連れていってください! ってお願いしたら、ラト姉は何も言わずに馬車に乗せてくれたの。それが三年ちょっと前かな。うん、そんな感じ。だから、この緑色が入っている髪は鬼の血が入っているって証拠で、普通の人からは恐れられるの。二つの魔法が使えるのはきっと鬼の血がそうさせてるんだと思うの。へへ、気持ち悪いでしょ。



 全てを吐き出したココは笑っていた。目尻に涙をいっぱいに溜めながら。

 エドガーは自嘲の笑いを浮かべるココの手を取って、そっと無言で握った。

 聞いただけで掛けられる言葉は無かった。


「じゃ、次は俺の話な。俺は――」


 ゆっくりと、囁くように話した。

 隔離されていた事。

 村が壊滅していた事。

 森で暮らそうとしても難しかった事。

 小鬼、ギーギと、出会った事。

 一緒に狩りを、釣りをした事。

 森を追われる時にギーギと別れた事。

 ギーギが……大切な、友人だった事。

 呪殺魔法の事だけは伏せて、森での日々を話した。



「だから俺は、ココの髪を本当に綺麗だと思うんだ」

 話し終えたエドガーは頭を撫でるようにココの髪を触る。

「うん……ありがと。そんなの初めて言われたから、バカにされてると思った」


「魔法が二つ使えるのも、本当に羨ましいって思うんだ」

「もー、エドはおかしいよ……鬼の血が入ってるんだよ?」

 話をしている間にココにも少し余裕が戻ってきていた。

「だってギーギが、小鬼が初めての友人だし」

ココはくすくすと笑う。

「私の魔法を一つ、エドにあげられればいいのにね」

「いや、それはココのだから。ココが俺の分まで頑張ってくれ。頼んだ!」


 もー! なんて笑いあっていると馬車の外からラトリーシャの声が響いた。

「そろそろ休むぞー! 最初の見張りはココだろ。ああ、エドも居たのか。丁度良い、まとまって休める方が楽だからココと一緒に最初にやっとけ」

 言いながら馬車に乗り込むラトリーシャに続いてユーゴとジュールもすぐに入ってきた。


 頬を引き攣らせるエドガーとすれ違う瞬間、ラトリーシャは確かに、ニヤリと笑った。


 ――くっそ、絶対聞いてたあの女!

 暗闇に浮かぶ火の前にココと二人で座る。

 最高に、気まずかった。





「見張りっていうのは、何か変だなって思ったらすぐに皆を起こすの。絶対に一人で動いちゃダメ。いい?」

「うん」

 エドガーはココの言葉に頷く。

 馬車の近くの焚き火を挟むようにして座る二人。

 ココは見張りの心得をエドガーに説いていた。


小鬼ゴブリンを見たくらいだったら、何もしなくてへいきなの。群れだったら、起こして」

「分かった」


 エドガーは先程、馬車の中でココと話していたのをラトリーシャに聞かれていただろうと考えては気分を暗くさせていたのだが、反対にココは憑き物が落ちたように晴れやかな表情で話していた。そんな二人の会話を馬車の中でラトリーシャが横になったまま、一度閉じかけた目を開いて耳をすましているとは露ほども知らない。


「何かあった時に戦うのはラト姉とユーゴさんとジュールさん。私達は邪魔にならないようにするだけなの」


「……ココも? 魔法が使えるのに?」

 ううん、とココは首を横に振る。

「私の魔法は、まだ『出る』だけだから。鋭い矢のような火は飛ばせないし、弾丸みたいな水も出せないの。出来るのは、炊事と洗濯、かな。あとたまにお風呂」


「……じゃあココはお母さんなんだね」

 ぷっ、と笑いがこぼれる。

 そのまま二人してくすくすと笑い出した。


「もー、お母さんってなによ!」

 ばしばしと手に持った木刀で地面を叩いてココは抗議する。

 あどけない笑顔を浮かべているせいでちっとも怖くない。


「はは、だって、ラトリーシャさんはお母さんって感じじゃないじゃん」

 それは、と口にしたところで堪えきれずにまた二人で笑い出す。

 ラトリーシャが馬車の中で眉をぴくぴくさせている事に気付くはずもない。


「でも、ラト姉はあんなだけど本当は凄く優しいの」

 そろそろ文句でも言ってやろうかと起き上がりかけたラトリーシャだったが、その言葉で再び動きを止めた。


「それは……うん、分かる気がする」

 ――ちっ。ラトリーシャは心の中で舌打ちをする。


「口が悪く思われるんだけど、ううん、口は本当に悪いんだけど、皆のことをたくさん見てて、いつも気にしてくれてるの。だから、嫌わないでっていうか、その」

「ココ」

 不安そうに俯いていたココだったが、言葉を遮られたところで顔を上げるとエドガーが穏やかに微笑んでいた。


「大丈夫だよ、俺はあの人を嫌ってなんかいないし、凄く感謝してるんだ……自分でも気付かなかったけど、今後どうなるのかって凄く不安で動けなくて、でもあの人の言葉で救われた気もするんだ。それに、」

「それに?」

「まだ、ちゃんとあの人と話してないから何も言えないよ。ひょっとしたら話した結果、嫌いになるかもしれないけど」

 ふふ、と笑う二人、いや、三人。

 ラトリーシャは今度こそ目を閉じた。



「ところでさ、ココは怒ると目が紅くなるって言ってたよね?」

「え、う、うん」

 触れられたくない話のせいか、ココの反応は鈍い。

「そうなると、力が強くなったりとか、魔法が凄くなったりとかしないの?」

「へ? なんでそうなるの?」

「いや、隠された鬼の力がー! みたいな……」

 はあ、とわざとらしくココはため息を吐いた。

「私、初めてエドが子供だなって思えたよ……」

「そっか……」



「そろそろ交代だ、ゆっくり休みな」

 他愛もない話をしている二人に馬車から出てきたユーゴが声を掛けた。

 まだ寝ている二人を起こさないよう、ココは「しー」と人差し指を立てながら、静かに馬車の中へ入って毛布にくるまる。エドガーもそれに倣った。

 ココと並ぶようにして横になったエドガーは手にちょん、とした感触を覚えて薄目を開けると「えへ」なんて漏らしながら満面の笑みを浮かべたココと目が合った。


 ――可愛い。

 素直にそう思った。

 ぎゅっとその手を握ってやった。

 照れくさかったけれど、暖かかった。

 恥ずかしかったけれど、勇気を出してココと話せたからこの手があるんだ、と思えた。


 エドガーはこの日、この世界で初めて、深い眠りについた。




ストックが尽きましたので次回より週2回更新を予定しておりますm(__)m

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