古き者18
窓から射す光が、廊下を照らしている。時間が違えば別の生徒達の声も聞こえただろうが、今は一人分の足音が響くだけだ。
(勝てなかった……)
アルトは今更になって痛み出した左腕を抑え廊下を歩いていた。
幸い痛みを感じる怪我だったので傷は深く無いだろう。
周りから見て痛そうな程の深い切り傷も、実はその怪我を負ってる本人はあまり痛く無い……というのをアルトは知っていた。
恐らくスティルの剣を弾いた際、手首のホルダーに納めたナイフが砕けてそれで切っただけだろう。
いや、今更傷の具合なんてこの際どうでも良い……。
(クソ……!)
全力を出した。が、まるで通用しなかった。
魔術を使われた瞬間、自分の力は何一つ通用しないと分かってしまった。
あまりに無力で、あまりに理不尽な才能の差。
悔しさにアルトは歯を食い縛り、痛む腕に爪を立てる。
痛みでこんな辛い思いを忘れられるかと思ったが、ただ痛いだけで気分は晴れない。
込み上げるのは不甲斐なさと、自らへの腹立たしさ。
「ぐっ!」
と、階段に差し掛かりそれを登ろうとした時突如足の力が抜けてアルトは階段に崩れ落ちる。
山に沿って増築を施したこの学校は、登り降りの階段が多い。
だからこうして保健室まで何度も階段を上がらなくてはならないのだが……
「クソ……」
ギリギリで体を支え、幸い階段の角に体を打ち付けずに済んだ。
アルトは前のめりに倒れた体を起こしてゆっくりと段差に腰を降ろす。
地に着く両足が震えていた。
それは旧式強化魔術の後遺症だった。
情けない。あまりに情けない自分の姿にアルトは拳を強く握る。
(なんで俺はこんなに弱い……。どうして俺は……)
まるで泥沼の中で藻掻くような気分だった。
途方もなく高い壁を越えようと努力を続けて来が、まるで届く気がしない。
上には上が居る事など分かっているつもりだった。だがいざ対峙してみればその差はあまりに大きすぎる。
いままで自分が積み上げて来たものが、ここまで歩んで来た道のりが、全て跡形もなく崩れ落ちて行く。
これが生まれの違いなのだと、思い知らされてしまう。