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ローレシア  作者: 鴇天ユキ
苟且の境界線
17/21

古き者17

 会場を沈黙が征する。残る音は先に響き渡った余韻のみ。


 二人は静止していた。


 スティルはアルトに振りかぶった一撃を逸らされてからそのまま。そしてアルトは、手に持ったナイフを振り抜いた姿勢のまま。


 と、そんな二人の隅に小さな刃が地面に突き刺さる。


 スッと息を吸う音と共に、再び会場に音が戻った。


「そこまで!!」


 試合終了の合図と共にスティルは引き、剣を納める。


 アルトも体制を戻して手元を見つめる。


 ナイフを握っていた右手を開くと、柄だけを残して折れたナイフがあった。


 そんかアルトを見送りながらスティルはラウドのもとへと向かう。


「どうだ。随分と肝を冷やしただろ?」


「事前に幾らか話をしても良かったのでは? 危うく殺されかけ、殺しかけましたよ」


 上機嫌なラウドにスティルはため息混じりに告げる。


「それじゃお前の圧勝だっただろ? 現に無事勝てただろ」


「良く言う……」


 ついつい言葉が悪くなりながら、スティルは振り返ってアルトの方を見る。


 そこには、ちょうど地に落ちた二本のナイフを拾うアルトの姿があった。


 あのナイフ、スティルが覚悟を決めて背中に受ける事を決めたナイフだが結局スティルはそのナイフを受けなかった。


 恐らくはギリギリでラウドが魔術で落としたのだろう。でなければ、今頃スティルは医務室送りになっている。


 勝利こそ揺るがなかったにしろ、少なくとも無事では済まなかっただろう。


 と、そんな二人の前にアルトが現れ、一礼する。そしてアルトはそのまま一言も発する事なく会場を後にしようとするが……


「アルト!」


 ラウドがそれを制してアルトは足を止めた。


「医務室に行け。治療したら、もう寮に戻っていろ。ここにはもう戻らなくていい」


 その言葉にアルトは自分の左腕を見る。恐らく剣を逸らした時だろう。傷は深く無いが、袖から血が流れて手の甲を這っていた。


 背を向けたまま頷いて返し、アルトは再び歩き出して医務室へと向かう。


「あの生徒、魔術が使えないのですか?」


「鋭いねぇ。流石、王子様は人を見る目が肥えてる」


「茶化さないでください。魔術が使えないのに、良く在学なんて出来ますね」


 ここは曲りなりにも魔術戦技学園。魔術による戦い方を主とし、魔術をより深く学んで鋭く戦闘に特化させる場所だ。ただ剣術や実戦が上手いだけなら練兵所の方がよほど相応しい。


 まして今や魔術は戦況を左右する程に強大で重要視されている。そんな中、わざわざこの学園が魔術を使えない生徒を在学させ続けるなどとても考えられないが……。


「まあ、いろいろと苦労したが、一応模擬戦で教官相手に一本取れますって主張したらなんとか通ったんだ。が、それが今回通用しなくてな。それで……」


「私を対戦相手にしたと?」


「はは、悪いな。負けてくれりゃ尚良かったんだが」


 その言葉にスティルは再び大きくため息をついてしまう。


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