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ローレシア  作者: 鴇天ユキ
苟且の境界線
14/21

古き者14

「やる気無さそうな顔だろ?」


 ラウドは、スティルに問い掛ける。


「わざわざ許可証まで提示して、戦わせたいのはこの生徒ですか?」


 見かけ通りの低い声とは裏腹に、丁寧な言葉でスティルはラウドに返す。


「なんだ不服か?」


「いえ。ただ私が戦う程の相手なのかと疑問だったので」


「まあ、見てくれはただの腑抜けだからな」


 と軽く笑い飛ばしながらも、ラウドはだが……と続けた。


「内面も腑抜けかどうか確かめたら良い。そのままの態度で戦ってみろ、開始早々に度肝を抜かれるぞ」


「私が負けると?」


「いいや、十中八九お前が勝つだろう。だが問題なのはアイツがお前さん相手にどこまでやれるかだ」


「もし仮に、私が圧勝した場合は?」


 ニヤリと口元で笑い、ラウドは答えた。


「それが出来たら俺が相手してる」


 その言葉を言うと、ラウドはスティルの側を離れる。


 そしてスティルとアルトの間に割入る様に立つ。


「アルト、準備は良いな?」


「……ちょっと待ってくださいよ。俺の相手、あのスティル・フィルハートなんですか?」


「ああ。棄権するか?」


 それを言うと、アルトは、眠たげな目を鋭く変えた。


「……いいえ。やります」


 それを聞いてラウドは安心した。


 相手がかのスティル・フィルハートと聞いて少し不安になるのではと思ったが、それでもアルトに変わりはない。


「スティル、お前も準備出来てるか?」


 スティルは頷いて返す。その目は既に戦う意思を決めた事を決意しており、アルトを捉えて離さない。


「よし。両者抜刀!」


 ラウドの合図でスティルは支給されているロングソードを抜く。


 対するアルトは深く息を吐いて体制を低くする。


(構えない……?)


 そんなアルトをスティルは怪訝に思う。アルトの腰には確かに剣が携えてあるにも関わらずそれを抜かないのはおかしい。


 何か仕掛けて来るとスティルは確信する。


「用意……」


 ゆっくりとラウドの手が持ち上がる。そして……


「始め!!」


 開始の合図。ラウドが手を振り下ろした瞬間、だった。


 体制を低くしていたアルトが合図と同時に動き出す。アルトの踏み込みは風の様に鋭く、十数メートルある二人の距離を一瞬で埋めにかかった。


(速いな……。だが!)


 対するスティルは構えた剣を振り上げる。並の者ならその踏み込みは驚異になるだろう。


 だが学園で最強の一角に数えられているスティルにとってそれは十二分に対応出来る速さに過ぎない。それも、何か仕掛けて来ると分かっているなら尚更に。


(この程度か……こいつは?)


 突っ込むアルトにスティルはタイミングを合わせて剣を振り下ろす。


 その一撃は鋭く、一切の無駄なく真っ直ぐにアルトへと向かう。


 しかしその一撃さえも、集中しているスティルにとってはスローに見えた。


 アルトは反応出来ていない。スティルは勝利を確信する。


 だが……


(待て……)


 そのスローの世界で、アルトは止まろうとしない。振り下ろされた剣へ真っ直ぐに向かって行く。


(コイツ!!)


 剣が速すぎる為か、アルトは振り下ろす剣に全くの無反応なのだ。


 不味いと判断し、スティルは剣を止めようとする。


 だがその時だった。


 もう間に合わないと思った剣をアルトはギリギリで体を反らしながら避け、いつの間にか持っていたナイフを振りかぶる。


(しまった!)


 慌ててスティルは後ろに大きく飛び退く。


(まあやっぱりそうなるよな……)


 それを見ていたラウドは胸の内でふと呟く。


 そしてラウドは知っていた。その行動がアルトに対して最もしてはならない行動だと。


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