古き者11
「おうアルト!お先に満点貰って来たぞ!」
調子良さそうにディオは観客席へと帰って来た。
「……良かったな」
当然、まだ結果の出ていないアルトはあまり言われ心地よくない。
「冗談だ。気にするなって。お前だって必ず満点貰えるさ」
「……だと良いがな」
闘技場ではラウドと生徒が戦っている。
特に興味も無く、それを見ながらアルトは答えた。
今はすぐ来る自分の順番に緊張していて、とても試験を見る余裕など無かった。
「なんだ?怒ってるのか?」
アルトは首を振った。
「……違う。緊張してるんだ」
去年はこんな事無かった……。
至って落ち着いた状態で試験に臨む事が出来た。
なのにどうしてこんなにも緊張しているのか?
やはり先程の予感から不安でも覚えたのだろうか?
いや、それだけでは片付けられない……。
自分でも何でこんなに緊張しているのか分からなかった。
「珍しい。お前も緊張ってするんだな?」
からかう様な口調で聞いて来るディオに、アルトは頷いて返す。
「まあお前の事だから、いざ戦いになれば忘れるだろ」
そう彼の声がした後に、ガンッ!と闘技場内に剣が吹き飛ばされる音が響いた。
「試験終了。まあ70点って所だな」
ラウドが剣を降ろす。
そしてラウドは真っ直ぐにアルトを見て来た。
もう直ぐお前だ……
その目はこちらにそう語りかけて来ていた。
そして数十分後……ラウドと目が合ってからもう6人程の生徒の試験が終わった。
そして、いよいよ次が自分の番である。
「頑張って来いよ?」
ディオの声を背に、アルトは階段を降りる。
胸の中が緊張で溢れかえりそうになっていたアルトは、ディオの声など聞こえなかった。
階段を降りながら……いや、さっきからずっと、アルトは何故こうも追い詰められた気分になっているのか考えていた。
嫌な予感だけで無い事など、緊張を感じた時から分かっていた。
ならば一体何だろう?
それを考えるが、答えが見つからない。
気にしない事にしようとしてみても、こうやって緊張し、心音が高鳴る度に気になって仕方ない。
何だか自分でもおかしな気分だが、だんだん苛々して来る。
(……これじゃ集中して戦えない)
心の中で呟き階段を降り終えた後、突き当たりの角を曲がる。
そこからは光が射し、先には広く開けた闘技場が見える。
目の前では未だ試験の真っ只中……と思った。
しかしその予想は外れ、試験を受けていた少女が、大粒の涙を手の甲で拭きながらこちらに歩いて来ていた。
拭いても拭いても溢れて止まらない涙を流し続ける彼女が、こちらに気付いた様子も無く、うめき声を上げながら横を通り過ぎる。
恐らく酷い結果だったのだろう。
ラウドは腹に思いを貯めるような人ではないから、恐らくはストレートに退学を宣告する様な事を言ったのだろう。
(俺も下手をすれば……)
そう思い掛ける。だが、そんな事になる訳には行かない。負けてしまえば……
「アルト何やってる!早く来い!」
ラウドの声だ。
アルトはその場で大きく深呼吸した。
そして……
(……絶対に負けない)
そう決意し、闘技場へと一歩を踏み締める。