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地味色ハイスクール

鹿野悠里は世間で言うオタクだ。

部屋の本棚は漫画とライトノベルで埋まり、押し入れのダンボールにはこっそりと買ったフィギュアが入っている。外で遊ぶよりは、家の中でゲームやネットした方が楽しい。

ひっそりと大人しく、地味な性格。

世のオタク全てが自分と同じではないだろうが、世間で認知されている大まかなオタク像と等しいのではないかと思う。自分で自分をオタクと呼ぶのは正直どうかと思うが。

 そんな訳で地味な自分は地味なりに静かな生活を遅れればそれでいいと望んでいる。

だが、そんな生活を自分は簡単には手に入れられないらしい。

 

「また、オタク本読んでいるのか」


高校の昼休み、昼食を食べ終わり教室の隅でライトノベルを読んでいると、身長182㎝の大男がもたれ掛かってくる。

教室にいる連中がちらりとこちらを見る。

自分がオタクなのは周知の事実だが、集まる視線に気恥ずかしさを覚えて、すぐに本をしまう。

口には出さず視線で静かな怒りを伝えるが、えっ何?、とすっとぼけた反応が返ってきて頭を抱える。


彼の名前は相坂遙。

分類的には、友達、幼馴染だろうが、自分的にはただの腐れ縁、腐れ落ちたら腐れ落ちたままでいいやといった仲である。さきほども言ったが、身長は182㎝、体重は確か80㎏。体育系の部活に入っておらず、特に運動もしていないのに無駄に筋肉質。顔は若干童顔ながらも整っていて、女子ならば一目ぼれする奴も少なくはない。

容姿だけなら完全にリアル充だろう。そう容姿だけなら。

だが、こいつには友達がいない、正確には僕以外に友達がいない。だから、こいつをリア充と称するには難しい。じゃあ、何故友達がいないんだというとそれは話が長くなるので後にしよう。


「何の用だよ」


昼休みの平和な時間を乱す腐れ縁にぶっきらぼうに尋ねる。


「なんだよ、何怒ってんだよ。最近、機嫌悪いな」


子供の様に口を膨らませる。全くもって可愛くない。だが、指摘するほど心に余裕もないので無視をする。


「いいから、話せよ」

「放課後、ちょっと付きあっ……」

「却下。」


言い終わる前に拒絶する。断るのではなく、拒絶。


「なんでだよ」


「お前に付き合って、この間補導されかけたのは誰だ。言ってみろ。」


「えっ、お前」


「そうだな、俺だな」


何を当たり前の事を、といったポカンとした顔でこちらを指さす。


遙の付き合えは、今日暇だから俺の気がするまで街をブラブラするのを付き合えという意味である。

遙は特定の部活に所属していないので週7日のペースで暇である。

また、友人も僕しかいないので、毎日誘われる。実際、断れば良いのだが、自分も部活に所属していなくて大抵暇なので、嫌々ながら、いや、無理やり付き合わされる。

そうして毎日の如く繁華街をプラプラしていたら、先週の木曜日。ハメを外して夜の11時頃までいた所、警官に見つかり職質された。正確には遙がトイレに行き、コンビニの前で一人待っているときに職質を受けた。

「いやぁ、お前警官に呼びとめられたらプルプル震えてやんの」


僕の肩をバシバシ叩きながら声をあげて笑う。


「笑い事じゃねぇよ。お前のせいで下手すりゃ停学だったんだからな」


あの時は自分の人生が終わったとさえ思った。


深夜徘徊を警察に補導され、それを理由に学校から退学。退学後は、就職氷河期の世の中、高校を中退した奴などとってもらえず、ひたすらアルバイトの日々。と警官に話しかけられた瞬間、走馬灯の様に大げさすぎる自分の未来が駆け巡った。

しかしそれは杞憂に終わった。本当に癪なのだが遙に助けられたのだ。

トイレから戻ってきた遙は、遊び呆けた大学生のように振る舞って「こいつ大学生なのに高校生に見える童顔野郎何ですよ」とか「こいつ大学2年生なんですけど、今まで彼女いなくて、それで皆で協力してコンパで彼女作ろう的な事を・・・」と警官の喋る隙も与えずに早口で喋り続けた。

それでも怪しむ警察官に対して、「寒いんでパトカーで職質やりましょう」とか「俺刑事ドラマ好きなんで刑事の話とか聞かせてくださいよ」と自らパトカーに乗り込もうとした。

結果的に、警官は面倒くさそうに「あんまり遊びすぎない様に」と一言残して、他の場所へと移っていった。

後に聞くと、職質を受けた時は刑事ドラマ好きの面倒くさそうな奴を演じると職質を切り上げると姉の友達から聞いたそうだ。


そんなこんなで一応助かったが、あれは二度と御免である。


「とにかく嫌なモンはイヤだ。もう二度とあんな怖い目にあいたくない」


「そんな事いうなよ。俺たちって友達じゃん」


へらへらと笑いながら顔を近づけてくる。

あまりにその顔がムカつくのでデコピンをしたらデコピンをした指が逆に痛くなった。


遙はデコピンを意に介さず、話を続ける。


「まぁ、そう言うなって。俺もあれ以来懲りたからもう深夜まで街中あてもなく、フラフラ歩くなんてマネしないよ」


「・・・・・・どうだか」


疑いの視線を向けると、「本当だって」と笑いながら背中を思いっきりどつかれた。

まぁ、どちらにしてもだ。


「いやだ、いかない。」


「またまた、そんな事言っちゃって」


揉み手をしながら、さらに半歩近づく。


「ちなみに今日の放課後のご予定は」


「家に帰ってクリアしたゲームのレベル上げを・・・・・」


「ほう、それは、それは・・・・・もうしかして、暇でございますか?」


「それなりに・・・楽しいよ」


「へぇ、楽しいんだぁ」


「もう一度聞きますが、暇ですかぁ?」


薄ら笑いを浮かべながら、ねちねちと付きまとう。


「分かった。付き合うから、そのねっちこいのやめろ」


「話分かるじゃん。んじゃ、今日の放課後、校門前でな」


遙は自分の要望が通り、気が済むと満足げに自分の教室へと戻っていった。



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