遠い昔 2
私は夢を見る。
それは昔の記憶。
それは父親が初めて私に躾でなく、純粋な暴力を振るった日の事。
暴力は決して許される事ではないが、それは起こるべくして起きたのかもしれない。
父親は会社を突然クビになった。
父親がクビになった理由は会社の不景気に伴う業績不振の為の人員整理というよくあるものだった。
仕事人間で会社に全てを捧げてきた父親は人生の生きがいの半分を失い、その喪失感で放心状態だった。
後に母親に聞くと、自殺寸前まで父親は追いつめられていたらしい。
だが、父親は私達家族の為になんとか立ち直り、新しい職を見つけた。
いままでの仕事の正反対の仕事だったが、父親は懸命に働いた。
働いて、働いて、中途採用で右も左もわからず、自分より年下の上司に叱られながらも頑張った。
頑張って、頑張って、頑張りすぎて、ストレスをため込んで。
それでも40過ぎての新しい仕事は中々慣れなくて。
そして父親はいつの間にか酒に逃げるようになった。
仕事で嫌な事があるたびに酒の量はどんどんと増えていく。
いつの間にか自分では抜け出せないほどに酒におぼれていった。
最初に振るった家族の暴力は些細なものだった。
夫婦喧嘩のいさかいで母親に手を出してしまったのだ。
その時父親は泣きながら叩いてしまった母親の頬を撫で、母親が許しても永遠と謝っていた。
だが、それでも酒は止まらない。
日に日に、酒は増え、暴力がエスカレートする父親。
最初は母親だけだったのが、ついには私にまで向けられる。
父親が母親に暴力を振るうようになってから、私は家庭に負い目を感じ友達と距離を置くようになっていた。
そのため、友達と遊ぶ事ができない私は、一人図書館から本を借りて読むことが唯一の趣味だった。
その時も私はちょうど夜中本を読んでいた。そう本を読んでいただけだった。
私が息を殺して、身を隠すように静かに本を読んでいると、酒を飲んでつまずいた父親が私にぶつかったのだ。
私はすぐに謝った。
しかし、父親はどこか気に入らなかったらしい。
鬼のような形相で、容赦なく私の頬を叩いたのだ。
私を叩いた瞬間、父親は母親の時と同様、すぐに血相を変えて、私に謝った。
父さんがどうかしていた。怪我はないか。痛かったろうと泣きながら謝った。
私は泣きながら謝る父親を逆に申し訳なく思って、結局許した、いや、許さざるを負えなかった。
結局、母親の時と同様に父親は酒を飲むのをやめられず、日を追うごとに父親の暴力はエスカレートし、ついには謝罪の1つもなくなった。
そして、最終的には暴力が日常となった。