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燃えろ闘魂 火花散る勝負の見えたデスマッチ 2

「かわせぇぇぇえ、毒島ぁああああああああああああ」


 プロレスラーになるべくしてなったとしか思えない大きく筋骨隆々の体に、女性に困らなそうな素敵な面構え。多くのファンを抱え、スターへの花道を歩き出したと言わんばかりの奴を私が応援するとでも思うのか。

私はそんなキラキラしているより泥に塗れて、必死にもがいている奴の方が好きだ。共感が持てる。そう、皆に愛される輝く大天空翔より、罵詈雑言を受けようとも勝とうともがく、毒島の方を応援したい。

私の声援が通ったのか、マットに倒れ伏し、今はもうフィニッシュを待つばかりだった毒島がコーナーリングから一回転してボディプレスをしてくる大天空翔を寸前でよける。

大天空翔のトドメを何とか躱した毒島は這いつくばりながらセコンドの元へと行き、謎の液体が入った一升瓶を受け取り、それを口に含んだ。

そうこうしている間にフィニッシュを躱され若干苛立ち気味の大天空翔が毒島に近づき、毒島の髪を掴み、立ち上げさせる。

そして顔を平手打ちしようと振りかぶった瞬間、毒島が口の中の液体を大天空翔に吹きかける。

毒々しい緑色の霧が大天空翔の顔に拭きかかり、大天空は目を押さえてもがき出す。

大天空から解放された毒島は即座に体制を立て直し、両手を天高く垂直に振りあげた。

「きぇえええええええええええ」

気合と共に振り上げた両手を手刀の構えで大天空翔の肩に振り下ろす。

振り下ろした手刀の衝撃音がリングに響き、大天空は肩を押さえ膝をつく。

毒島は攻撃の手を休めず、大天空翔から少し距離をとった後、ロープの反動を利用して凄まじい勢いのボマイエ、膝蹴りを大天空翔の顔面に叩き込む。

決して倒れないと思われた大天空翔が初めて毒島の攻撃でマットにうつ伏せに倒れる。

毒島は息も絶え絶えに大天空の幅広な背中に座り、顎を両手で掴む。

キャメルクラッチ。

エビぞりのように大天空の体を真逆に折り曲げる。

「おい、嘘だろ。あの大天空が」

遙が信じられないかのようにボソリと呟く。

今まさしくプロレス界のスターとして輝いている大天空が、体格もルックスも技術も一回り落ちる姑息なヒールに敗れようとしている。

大天空の苦痛な息遣いが漏れるたびに観客席からも悲鳴があがり、怒声の混じった野次が響く。

野次とブーイングの真っ只中、毒島はそれに臆することなく、むしろ歓声を浴びているかのように笑顔を浮かばせる。

審判が大天空に近づき、ギブアップの合図を待つ。

もうじき試合に決着がつく。決して勝てないと思えた、自分より一回り大きい相手に毒島が勝利を掴みとろうとしている。

私は思わず、自然に叫んでいた。

「そのまま、やっちまぇぇえええ。毒島ぁぁあああ」

私の歓声がまた届いたのだろうか。毒島は私がいる方の観客席に向けて片手で手を振った。

「あっ、馬鹿」

 だが、それが毒島にとって致命的なミスになった。

 片手になって力がすこし緩んだ瞬間、大天空が暴れ、毒島のキャメルクラッチから抜け出す。

 大天空の背中から振り下ろされた後の毒島は悲惨だった。

 怒りに満ちた大天空は仕返しと言わんばかりに、毒島に受けた攻撃をそのままやり返した後に、散々絞め技で痛めつけた。

 そして、大天空はコーナーリングに再び登り、フィニッシュを決めんと雄叫びをあげている。

大天空の復活に会場は盛り返し、大天空コールが鳴りやまない。

 大天空は空を飛ぶかのようにふわりと飛び上がり、そのまま華麗に空中で一回転した後、その筋骨隆々な体を毒島に叩きつけた。

 そのまま毒島は大天空の下敷きに押さえられたまま、スリーカウントを取られ、試合は大天空の勝利で幕を閉じた。

 観客席からは大天空の勝利を喜ぶ歓声ばかり、毒島の敗北を悲しむ声は聞こえない。

 敗北した毒島はリングの陰に隠れ、逃げるように会場から去っていく。


「ハッハッハッ、お前は毒島を応援していたようだが、大天空が勝ったな」

遙は自分の事の様に誇らしげに自慢してる。

「どうかしらね。フィニッシュ?の時に油断して片手を離さなければ、勝っていたのは毒島よ」

何の事もないはずなのに、自分も何故かムキになって返してしまう。

「違うね。大天空なら片手話さなくてもキャメルクラッチから抜け出していたね」

「ふっ、今ならなんとでも言えるわ。結果として、片手を離したから大天空とかいう奴はキャメルクラッチとかいう技から抜け出せたのよ。そもそも相手より一回り小さい相手に勝ったって当たり前でしょ」

「はぁ、なんだそれ。勝負に体格とか関係ないんだよ。男の勝負は真剣勝負、そこに理由とか言い訳とかないんだよ。てか、お前なんだって毒島を応援するんだよ。応援するなら大天空だろ、趣味悪」

「あなたこそ、ミーハーすぎて趣味を疑うわ。有利な奴を応援したってしょうがないでしょ」

「もうそこら辺にしたら」

遙と言い争っていると悠里が申し訳なさそうに割って入ってくる。

「お前はどっちを応援してるんだよ」

「あんたはどっち応援してたのよ」

「ぇぇ・・・」

私と遙に同時に聞かれ、困ったように顔を引きつかせる。

「そうだな・・・」

「「どっち」」

「えぇっと、毒島の方?」

「はぁ、なんでだよ。絶対に大天空だろうが」

遙が悠里の肩を掴み、揺さぶる。

「いや、ほらアニメなら主役みたいなの応援するけどさ。現実だと、あんな風にキラキラしている人応援する気にならないというかなんというか・・・」

「はぁ、なんだそれ」

悠里を突き離し、頭を抱える。

「もういい、お前らマジ卑屈。俺は絶対に大天空応援するもんね。」

と会場から出ていこうとするが、一旦立ち止まり

「結局勝ったの大天空だから。バーカー」

 と捨て台詞を吐いて完全に会場から出て行った。


結果的に私の応援していた毒島は負けてしまった。

最初はあまりプロレスなんて興味もなかったし、気乗りしなかった。

でも今は違う。

今日のプロレスの試合は私の感情を揺さぶるものがあった。

何がどうして私の感情を揺さぶったのかは分からないが、今でも私の心臓が高鳴っているのは分かる。


まぁ、なんにせよだ。

「あいつ、なんなのよ。本当にガキね」

「ああ、うん。でも、それがあいつの良いところでもあるし」

悠里がいつもの苦笑いを浮かべる。

「昔からあいつはそうなの?」

「そうだね。考えてみれば、あいつは昔からずっと変わってないや。でも、それにしても」

悠里が躊躇うように言葉を濁らせる。

「それにしても、何よ」

と聞くと、今度はいつもの苦笑いではなく、少し驚いたように、そして嬉しそうに口もとを抑えながら


「いや、なんか奥沢さんと普通に会話ができてるからさ。ちょっとおかしくてね」


「なっ、ちょっ、それは」

思わず言葉が詰まる。私はいつの間にか普通に会話をしていた。

私は恥ずかしいやら気まずいやらで顔が熱くなり、最終的に黙り込む。

悠里も言った後に何かしらフォローしてくれればいいのに、気づかないのか、それとも口下手なのか、何も言わない。

そのまま少し無言が続く。


結局、気まずくなって私から喋る事にした。

といっても、私が言えることなんてないし、それにライブ会場の楽屋で暴れまわった後だから、話すと言うより、謝罪な訳で

「楽屋ではごめんなさい」

「えっ、なんのこと」

何に対して謝っているのか分らないのか、悠里が首を傾げる。

遙の事は馬鹿だと思っていたが、こいつもこいつで馬鹿なのかもしれない。

「私、誠・・・さん達のライブであなたの事殴ったから」

私なりに深々と頭を下げる。

「あぁ、あれね。あれは痛かったなー」

と痛みを思い出すように、頬を撫でる。

散々父親に殴られ、暴力を振るう父親を世界で一番嫌っていた私が結果はどうあれ人をなぐってしまった。

改めて思い出すだけで私が振るった暴力に対して、後悔や罪の意識が螺旋のようにどんどんと深くなり、自己嫌悪に溺れてしまいそうになる。


誠は心配ないといったが、怒っているのではないかと恐る恐る悠里を見ると、悠里は笑っていた。それは苦笑いでなく、喫茶店の皆が私に向けてくれる優しい笑顔。

「ああ、気にしないでよ。痛かったけど、殴られて当然だし。遙のデコピンに比べれば痛くないし。そりゃ誰だって、あんな世紀末会場でジャイアントスイングされればキレるよ」

と珍しく悠里が抑え気味だが声をあげて笑う。

「でも、私、結局あなたに暴力振るちゃった訳だし」

恐る恐るそう言うと、悠里はとんでもないと首を横に振る。

「あれは暴力の内に入らないと思うよ。喧嘩になるのかな?いや、制裁と言ってもいいかもしれない。まぁ、なんにしても。」

「僕は嬉しかったよ。いや、殴られて嬉しいとか言うドM的な意味じゃなくてね。奥沢さんが感情むき出しで僕らを殴った時、ちゃんと感情あるんだなって分かったし。感情をぶつけてもらえる分だけ、奥沢さんに少し近づけた気がしたんだ。それは遙も一緒だと思う。結果として、若干トゲがあるもののこうして君と話せるようになった訳だしね」

こいつは自分がものすごいクサイ事言っている事を分かっているのだろうか。

誠にも同じような事を言われたが、聞いているこっちが恥ずかしくて、体が熱くなってくる。


そして最後に悠里はこれだけは言わねばと


「何より、僕らに『助けて』って言ってくれた時は、とても嬉しかったよ」


そう言って、彼は照れながら不器用に笑った。




区切り所が分からず長くなってしまいました。すいません。

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