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燃えろ闘魂 火花散る勝負の見えたデスマッチ 1

私は酷く無愛想だ。

 私が周りに酷い態度をとっているのは自分でも分かる。

 不器用な彼らが私を気にかけてくれているのは、人との付き合いが下手な私でも分かる。

でも、それが私の負担となって重くのしかかる。

 何故私に優しくしてくれるのか、どうして見ず知らずの私を気にかけてくれるのか。

 その理由はただ彼らがお人好しという言葉で簡単に説明できるが、私には理解に苦しむと言うか、自分の中で消化できないと言うか。

 単に、彼らの好意に私が答えられないのも、無愛想なのも、私が人付き合いが苦手だという事に尽きるのかもしれない。

 だから、私は何かにつけて言い訳をつけて私に昼ご飯を用意してくれたり、行き場のない私を匿ってくれたり、いじめてくる集団から守ってくれる彼らに、何の感謝も、何の行動もとる事ができない。


 彼らに近づく一歩が踏み出せない。


でも、そういった意味で今日のライブは彼らに一歩近づく事ができたいい機会だったのかもしれない。

いや、もちろん怖ったし、出来ればあんな体験二度と御免ではあるが。

でも、本当にあのライブの後、私は始めて彼らに私の怒りという感情を伝えられた。

結局、喧嘩みたいな形になってしまったが、その後遙とは拳と拳ではなく拳とデコピンで自分の感情というか思いを伝え、一歩くらいは近づけた気がした。

まぁ、でも一方的に殴ってしまった悠里や誠とかいう青年には申し訳ないと思う。あとで謝っておこう。私に謝るという行為ができるのならば。




楽屋での一件を終えた私達はライブの打ち上げという事で今プロレス会場にいた。

何故プロレス会場なのかと言うと、それは単に誠の突然の思いつきによるものだ。

なんでも私が絶対に行ったことない場所にしようとの事でプロレスなった。

ちなみに前のバンドの打ち上げは夢の国のワンダーランドだったらしく、プリンセス城の前で撮った3人の記念写真を見せられた。


そういった経緯で私達はプロレス会場の最後部でプロレスを観戦している。

今丁度行っている試合は大天空翔と毒島どくろとかいうプロレスラーの試合だ。

大天空翔は身長190を超え全身筋肉の引き締まった良い体をしており、茶髪がかった髪に、すこし童顔な甘いマスクはアイドルを思わせる。現に会場内で響く声援は大天空翔がほとんどだ。

対する毒島どくろは身長160後半ほどの平均より低い身長に、少し鍛えました程度の筋肉で、髪は気付いたら伸びていたとしか言いようのない無造作な長髪。顔はお世辞ながら良いとは言えない。後、一応ヒール、悪役らしいが顔の怖さだけなら拓真の方が怖いと拓真の顔を見ながら思っていると「何、見てんだコラ」と言われた。

試合の流れは圧倒的に大天空翔が有利。毒島どくろは大天空の足を踏んで張り手や審判の目を盗んで反則技など姑息な手段で抵抗しているものの全く効果はなく、野次の嵐の真っ只中だ。

まぁ、さしてプロレスは興味もないが、なんだろう一応勧善懲悪のような感じなのだろうけど一方的にやられているのは見ていて非常に気分が悪い。

なので、誰にも気づかれないようにふらっと抜け出し、エントランスに数少ないお給金で飲み物を買いに行く。

自動販売機にはちょうど同じく飲み物を買いに来た誠がいた。

誠は私に気づくと爽やかな笑みを浮かべ手を振ってきた。

「やあ奇遇だね、京子ちゃん。どうだいプロレスは。京子ちゃんが絶対にきた事ない場所だと思って連れてきたんだけど、楽しんでいるかな」

正直、楽しいか楽しくないかで聞かれたら楽しくない。でも、つまらない訳じゃなく、別に見ても良いかな程度。

だが、せっかく連れてきてもらって言う訳にいかないし、何より声をかけてくれた彼になんと言って返せばいいのか分らない。

結果、何も返せず形だけなら無視するという形になってしまう。

だが、それを気にした素振りもなく話を続ける。

「しかし、ライブの時は本当に怖かったでしょう。自分達色々やってみたいから、たまにああいうパフォーマンスとかやっちゃうんだよね。」

とアハハと爽やかに笑うが、私からすれば笑いごとではない。

今でもあの爆音が耳に響いているし、謎の赤い液体のどろっとした感触が肌に残っている。思い出したらムカムカしてきた。

「でもね、京子ちゃん」

一しきり笑った後、声が真面目なトーンに変わる。

「結果的に僕はあれで良かったと思うんだ。だって、あのおかげで僕は始めて君に正面からぶつかれた気がする。それが全てではないけど、それが殴り合いだって、君と触れ合えたことを僕は嬉しく思うよ。だから、なんていうか、ごめんというか、そうだな、ありがとうかな。君に一歩近づけて」

と目尻に少し皺の入るクシャッとした人懐っこい笑顔で微笑んだ。

 「・・・・・・・・ぇえ、はい」

 不器用な私は曖昧な返事しかできなくて、自分で自分が嫌いになる。

 誠はこんなにも気遣ってくれる。誠だけじゃない遙も悠里も他の皆も。

でも、未だに私は何故こんなにも彼らが優しくしくれるのかが分からない。

「あぁ、もしかしてまだ僕の事を信用してなかったりするのかい」

そん、まだ完全に信用できませんみたいな考えが表情に出ていたのか、誠が少し顔を曇らせる。

「確かに君にあんな事をしておいて完全に信用してくれなんて言うのはおかしいもんね。むしろ逆に嫌われてもいいくらい。でもね、僕はともかく遙や悠里君、茜さんの事は本当に信用してもいいと思う。遙たちは本当に君の事を大切に思っているよ」

 遙達が私の事をいつも気遣ってくれて、大切に思ってくれているのは一緒にいればわかる。分かるけど、でも

「・・・・・えぇ、それは分かっています。それでも何故彼らが私にこんなにも優してくれるのかが分からないんです」

「それってつまり君を助ける理由がほしいって事かい」

私は人の厚意に理由を求める事を申し訳なく思いながらも無言頷く。

「そうか、理由かぁ。遙達がが君にやさしくするのは単なる善意で他に意味とか理由とかないと思うんだけど。それじゃぁ、君は完全には納得しきれないんだよね」

 「・・・・・・・えぇ」

「だよねぇ、そうだよね。まぁ、もし他に理由があるのだとしたら思いつかない事もないんだけど。聞きたいかい」

 私はまたも無言で頷く。

 すると誠は少し困ったような顔を見せた後、躊躇いがちに話し出した。

「もし君を助ける理由が善意とか単なるお節介焼き以外にあるのだとしたら。悠里君は分からないけど、遙と茜さんの過去に理由があるのかもしれないね」

遙と茜の過去。そういえば遙と茜が兄弟だという事以外、彼らの親の事やどんな風に育ったかは聞いた事がなかった。

 「こういう話は他人がおいそれと話すことじゃないんだろうけど。そうだな、うん。程度の違いはあれ、茜さんは昔、君と同じように親から暴力を振るわれていたんだよ。」

 「あの茜さんが、ですか」

「うん、そう。今の茜さんからは想像できないだろうけどね。茜さんも遙も決して親の事を口にしないけど、ご両親は大きい病院の院長さんでね。子どもに病院の跡を継がせたくて、それはもう教育熱心だったらしんだ。そう、熱を注ぎ過ぎた結果、行き過ぎて勉強に関係のないものは全て捨てさせたり、友達も満足につくらせもらえなかったり、挙句の果てには勉強で満足な結果を出せなかったら体罰を振るわれたりしたそうなんだ」

あの茜が、決して誰にも屈しなそうな茜が、私と同じように両親に暴力を振るわれていたなんて。

 「暴力といってもビンタとかだったらしんだけど。とにかく、常に行動を制限されて、親にはプレッシャーをかけられて、学校と塾と家をグルグル周る毎日。本人から直接聞いたわけじゃないけど、本当に息苦しかったんだろうね。遙も遙で、自由を奪われて、苦しそうな毎日を送る姉を見るのが辛かったんだろうさ。」

 私は思わず言葉を失っていると、誠が笑いながら続けた。

 「まぁ、ビックリするよね。でも大丈夫だよ。今の二人を見たらわかる通り、紆余曲折あったけど茜さんは親元を飛び出して、あの喫茶店を継いで元気にしてるし、遙はその両親と大喧嘩して自由気ままにしているしさ。だから、その・・・なんだろうね。もし君を助ける理由があるとしたら、茜さんや遙は昔の自分達を見ている気分だったんだろうさ。だから、思わず君を助けずにはいられなかったんだろうね。」

誠はそう言いながら自分の分の他にもう一本ジュースを買い、私に手渡す。

「まぁ、多分そんな事がなくても二人は君を助けるだろうけどね。話は長くなったけど、とりあえずそうだね、とにかくプロレスの試合楽しんでいってよ。割と女性のファンも多いし、大声出すのってストレスの発散になって結構いいんだよ。」

 と誠は最後に女性殺しのウィンクをして、先に自分の席に戻っていった。

 別に自分は悲劇のヒロインを気取るつもりもないし、自分を可哀想だと思っても欲しくない。

 ただ、なんて言葉にすればいいのか。遙も茜も私と同じような目に会いながらも、それを微塵も見せずに、いやきっと気にすらかけずに、毎日を過ごしている。

 私の中になんとも言えない気持ちが渦巻きながら自分の席に戻る。

 自分の席に戻ると、遙がこの会場で一番声をあげているんではないかという位の声援を大天空翔に送っている。そしてそのまた隣にいる悠里がこれまた迷惑そうに耳を押さえている。

いつもの二人。さっきの話を聞いた今、私はどんな顔すればいいのか。

「お前もしかしてどっかに行ってた。」

と私が席を外していた事に遙が今頃気付く。

うん、そうだよ。なんて返せばいいのだろうが、声が出てこない。

結果、無視になり、遙がまた怒らせてしまった。

そう思っていたが、遙は私の額に拳を近づけ、バチンとデコピンをした。

「無視すんな」

状況が理解できずに動揺していると、もう一度考えている事が吹っ飛ぶほど加減のない強烈なデコピンをされたので、

「何すんのよ」

と反射的に遙にビンタをしてしまった。

すると遙は怒るでもなく痛がるでもなく、ニヤリと笑った

「そうそう、それでいいんだよ」

「なにそれ、気持ち悪い」

「お前に無視されるより、お前に殴られた方が何倍も良い」

「はぁ、何それ。意味わかんない」

「ハッハッハッ、気持ち悪くて結構、むしろもっと気持ち悪がれ」

「キモ、キモ、マジキモい」

遙が抱き着こうとしてきたので、抱き着かれる前に平手打ちをして阻止する。

「あのぉ、ほら周りのお客さんに迷惑だから、ね」

と楽屋での続きが始まりそうになると、悠里がやんわりと止めに入る。

さすがに大勢の前で暴れる訳にはいかないので、遙にやり返したいと言う気持ちを抑え、遙から顔を逸らし席に座る。

すると、遙が性懲りもなくデコピンをしてきた。

「ちょっと、いい加減にしなさいよ」

 と遙を睨むと


「ほら、何してやがる。楽屋で大暴れした時みたいに大きな声出して声援送ってやれよ。さっきだしたばっかなんだから声出しやすいだろ」


目に入ったのは彼の笑顔だった。とびっきりの笑顔、少年の様な笑顔、

 ヘラヘラと笑ってはいるが、遙のこんな笑顔を見るのは初めてかもしれない。いつもこんな笑顔を私に向けていてくれたのに、気づかなかっただけかもしれない。

 こんな笑顔を向けられられたのはいつぶりだろうか。冷え切った体が中からじんわりと温まっていくように、私の心の底の何かがじんわり溶けていく。

「ほら、せっかく来たんだ。誰でもいいから応援してけよ。俺のおすすめは大天空翔だがな」

彼は私の手を取り、立ち上がらせる。


声援しろと言われても、なんと声援すればいいのか分らない。

それにもう試合も終盤の終盤、大天空翔がコーナーリングに上り、マットに倒れ伏した毒島どくろにとどめを刺そうとしている。

 こんな中でなんと声援を送れと言うのか、早くとどめを刺せ、毒島をやっちまえ、色々思い浮かぶが、もし私らしい声援というものがあるなら————————————————



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