饗宴の宴 その後
その後、誠さん達のライブは無事に終わった。
遙のジャイアントスイングは今までになく盛り上がったらしく奥沢京子を僕にぶん投げ、ステージに残った遙はその後、誠さんに赤いペンキをぶちまけられ何度も客席に投げられた。
そして現在、僕たちは誠さん達の楽屋に招かれた。
楽屋のドアをノックすると開いてるよと声がかかったのでドアノブを回し、中に入る。
楽屋には誠さんを始めとするメンバーに最後までステージにいた遙がいた。遙は例の如く真っ赤に染まりタオルで懸命に顔を拭いていた。
「やぁ、今日は来てくれてありがとう。色々びっくりしただろうけど楽しんでもらえたかな」
あのどぎついメイクを落とし、いつもの優しい笑顔で手を差し伸べる。
「えぇ、あぁ、とてもびっくりしましたけど、誠さん本当に歌が上手なんですね。聞き惚れちゃいましたよ」
本人を目の前に怖かったなどと言えないので適当にお茶を濁して、誠の握手に応える。実際、歌が上手かったのは本当の事だし。
「それは良かったよぉ。君たちに気に入ってもらえるか怖かったんだ。」
とまたも優しい笑顔で微笑むが、本当の所この笑顔は本物なのかと疑いたくなる。あの世紀末な誠を見た後ではどうも信用ならないが、どちらも誠の一面ではないかと思う。
「ちなみに京子ちゃんはどうだったかな。無理やりな手段だったけど君にどうしても聞いてもらいたかったんだ」
一応、自分に付いてきた奥沢京子に近づき問いかける。だが、奥沢京子は顔を伏せ、何も応えない。
「京子ちゃん大丈夫。僕的には最高のステージに仕上がったんだけど」
誠が奥沢京子の顔を下から心配そうにのぞき込む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ろう」
すると奥沢京子がボソリと呟いた。さらに誠が顔を近づけると
「何が最高だったよ。このクソ野郎がぁぁぁああ」
怒鳴り声と共に奥沢京子が物凄い勢いで誠の顔面に自分の頭を振り落とす。
奥沢京子の頭突きはちょうど誠の顔面の中央に入ったらしく、柔らかい音と固い音が混ざった音が響く。
頭突きをくらった誠は声を上げる事もなく鼻血を出しながら倒れ伏す。
「こんのぉおお、よく分からん儀式に巻き込みやがって、怖かったんだからね。怖かったんだからね。超怖かったぁぁあああ」
奥沢京子は休むことなく、倒れた誠に向かって往復ビンタの追撃を加える。
誠にビンタをする奥沢京子は半泣きでよく見ると鼻水も出ている。
実際、本当に怖かったんだろうな、とかキレて同然だよな、など同感はする。
だが、それよりもだ。普段は大場達の嫌がらせにもされるがまま、遙のセクハラにも仏頂面で無視を決め込む奥沢京子がこんなに大胆な行動をとっている事に驚き、対処に戸惑う。
「おいおい、ちょっと落ち着け。誠がほとんど悪いが、まず落ち着け」
見るに見かけた拓真が奥沢京子の肩を掴むが
「うるせぇ、お前も同罪じゃぁぁあああ。この野郎!!」
奥沢京子はその手を振り払い、振り向きざまに拓真の股間を蹴りあげる。
股間を蹴りあげられた拓真は声にならないうめき声を漏らしながら地面に膝をつく。
拓真が倒れた今、影の薄い信二に頼るべく信二を探すが信二はいつの間にか消えていた。
誠は鼻血を出しながら倒れ伏し、拓真は股間を押さえ白目を向く、この惨状を作り上げながらも奥沢京子の怒りは収まらない。
「怖かったんだからぁぁ、怖かったんだからぁぁ」
もはや半泣きではなく声を上げ大号泣しながら、倒れ伏した拓真をバシバシと平手うちをする。
もはや茫然と立ち尽くすしかない。
「おい、奥沢京子いい加減にしろ」
動転しながらも今度は遙が止めに入り、奥沢京子を羽交い絞めにしようとする。
しかし、奥沢京子は遙の手をすり抜け、遙の正面に立ち平手打ちの構えを取る。
「あんたが一番ムカつくのよぉぉぉぉ」
奥沢京子の平手に備え咄嗟に防御の構えを取る遙。
しかし、奥沢京子は開いた手をそのまま握りしめ遙の防御の隙間を縫って殴りつける。
「おごぉぉ」
という叫び声を上げながら遙の顔がギャグ漫画のように歪む。しかし、さすがの筋肉馬鹿のおかげかそれとも喧嘩慣れしているせいか、すこし仰け反るだけに済む。
「てめぇ、この、なんで俺だけグーなんだよ」
「あんた一番ムカつくからに決まっているでしょ」
ともう一度拳を握って遙の顔をワンパンチ。
「二度も殴る奴があるか。お前めちゃくちゃ痛いんだぞ。」
「うるさい、うるさい、うるさぁああい、あほぉおお。お前投げ飛ばされる奴の気持ちがわかるのか。超怖いんだぞ」
ともう一度奥沢京子の拳が遙の顔面を捉える。
「お前なぁ、黙っておけば好き放題やりやがって」
遙が殴り返さんと拳を作り、振り上げる。
遙の拳を振り上げた瞬間、奥沢京子は短い悲鳴をあげ、顔を逸らす。
散々暴れまわっていただけに、突然そんな態度を取られると戸惑う。遙も思わず振り上げた拳を下げざるを得ない。
忘れていたわけではないが、奥沢京子は長い間家庭内暴力に合ってきた。そうした生活の中で拳は奥沢京子にとって特に恐怖の象徴なのだろう。だからといって、俺達を殴るのはいいのかと思わないでもないが。
「お前、女相手に拳を振るうってのかい。紳士的じゃないねぇ」
騒ぎに巻き込まれない様にいつの間にか部屋の隅にいた茜が遙を窘める。
遙は茜の言葉に何も言えずにただ俯いている。
「まぁ、ただ女を拳で殴るのはどうかと思うが、やりようはあるだろう」
と茜はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
遙は茜の言葉を意味について少し考えた後に、茜同様人の悪い笑みを浮かべる。
もう一度遙が拳を作り振り上げる。
恐る恐る遙を見ていた奥沢京子は痛みを堪えるように目を瞑る。
遙は振り上げた拳をそのまま奥沢京子の額に近づけ
バチン
という快音が楽屋に響く。
遙は殴るのはダメならばと、奥沢京子の額にデコピンをした。
奥沢京子は額を抑え、目尻に涙を浮かべている。
「さっきはよくもやってくれたな、おい」
と間髪入れずに奥沢京子の抑えた手の上からデコピンをしていく。
遙は何度も言うように筋肉馬鹿であるから、ただのデコピンでも非常に痛い。自分も本気のデコピンをされた事があるが、その時は1日中腫れが収まらなかった。
「くっ、このいい加減にしなさいよ」
遙のデコピンから額を手で守り逃げていた奥沢京子だが、手に受けても十分痛い遙のデコピンを受けている内に怒りが再燃し、今度は遙の脛を蹴り出す。
デコピンと脛蹴りの応酬が始まりだした。
「お前、脛はないだろう。顔も痛いが脛も滅茶苦茶痛いんだぞ。弁慶の泣き所って分かるか」
「うるさい、馬鹿。黙れ。いつもいつも私の側でぎゃんぎゃん騒ぎ立てて迷惑なのよ」
「はぁ、お前が無視するから悪いんだろう。お前無視されるのって辛いんだぞ。泣きたくなるんだぞ」
「知らないわよ。それに何よ。毎日毎日、訳分かんない量の菓子パン持ってきて、誰があんなに食べるのよ。しかも、私の好きなアンパンばっか先に食べて」
「そんな事知るか。伝えないお前が悪いんだろう。というか、まだまだ蹴りが甘いな。京子ちゃん」
最初は的確に遙の脛を蹴れていたが、遙は無駄に運動神経がいいので奥沢京子の蹴りを躱し、一方的に遙がデコピンを図式ができあがってきた。
「おいおい、そろそろいい加減して、止めたらどうよ」
バシバシと一方的に額にデコピンされる奥沢京子が不憫になってきたので、この妙な喧嘩を止めに入るために、まず奥沢京子を押さえに掛かろうとすると
「あんたもあんたで滅茶苦茶ムカつくのよ。馬鹿」
半泣き奥沢京子のいい拳が顔面に入った。




