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暗夜に捧げる紅蓮の祈り ~dirty my first kiss~ 爽やかバジルを添えて 2

「それでは聞いてください。「君が振り向かないなら殺す」」


誠が曲のタイトルを言うと同時にスポットライトが真っ赤に染まり、後ろに控える拓真と信二がベースとドラムを激しいリズムで奏で始める。

 ステージは目を潰すような真っ赤な激しい点滅を繰り返す。

ベースの拓真は地響きを起こすような低い重低音をかき鳴らし、信二は貧弱な体からは想像もできない迫力でドラムを叩きリズムを刻む。中央にいる誠は痙攣しているように体をビクビクとくねらせながら、丁寧にギターを演奏していく。

そして前奏が終わりを迎えると誠はギターから手を離し紙袋の両端を手で掴み


「——————————————————」


およその人間の口から発せられたものとは思えない奇声。

怪物や怪鳥を思わせる甲高いような、それでいてドスの聞いた奇声を上げながら頭の紙袋を両側から引き破る。

紙袋から出てきたのは悪魔を思わせるような赤と青を基調とする強烈なメイクを施された顔。そして怒髪天を突くような垂直に伸びた紙。

紙袋を破いた瞬間の誠と目があった瞬間、本能的な防衛反応が働き、この場から思わず逃げ出しそうになった。しかし、隣にいた茜に無理やり止められた。

 それほどまでの末恐ろしい形相と声。今まで穏やかなバラードを歌っていた同一人物とは思えない。

 この様相に観客はどのような反応をしているのかと周囲を見渡すと、先程までアイドルもかくやと言わんばかりに黄色い歓声を上げていた女子の観客は人が変わったかのように頭を振り乱し、先程まで響いていた黄色歓声から、今までどこに潜んでいたのか不明な世紀末集団の野太い声がライブハウスに響く。

 誠は奥沢京子が中にいるであろう包帯でできた繭を乱暴に掴み、奇声を上げながら引きちぎっていく。包帯が一枚ずつ破れていくごとに観客から歓声が涌き、ついに奥沢京子の顔が見えた。

 

「これが俺の歌を拒んだ クソ女だぁぁぁぁぁぁああああああああ」


 誠の全力の雄叫び、心からのシャウト。すでに沸点を迎えていたライブハウスは限界を超え、さらなる次元へと到達する。

 魔界なのではないかという異常なテンションと雄叫びに包まれる。

 

 突然よく分からない状況に放り込まれ、地の底を振るわせるような爆音とこの世と思えぬ奇声が聞こえる中、身動きもとれず何も見えない、やっとの事視界が開けたらと思ったら一番に目に飛び込むのは悪魔の顔と世紀末のような光景。よほど怖かったのだろう。今までどんな事があっても表情一つ変えなかった奥沢京子が恐怖で顔を滲ませている。それも一つの舞台装置になり一層観客の興奮を増長させる。

 

 この周囲の異様な空気に飲み込まれ萎縮し、恐れ慄いた自分は助けを求め、遙を見ると遙も周囲に負けずと頭をガクンガクンと振っている。

反対側の茜に助けを求めると茜はいつもの様にクールな面持ちでライブを眺めている。そんな自分の視線に気づいたのか茜は僕の耳元で「初めてのライブは不安で怖いかも知んないけど。ノリで乗り切りな」というあまり役に立たない助言をくれた後、こちらを見向きもしなくなった。

 完全孤立。


「ああ、もうこの場から帰りたい。」


 だが自分の嘆きは誰にも届かず周囲の爆音にかき消される。

 そんな巣の周りを天敵に囲まれた草食動物のように震えながらライブを見守る。

 すぐ目の前で誠が歌っている。

誠の迫力は鬼気迫るもがあり、彼の普段の穏やか切れ長な目は、瞳孔も一緒に開いているのではないかと言わんばかり開き、彼の甘い声は見る影もなく怪物の咆哮を彷彿させる。

 そしてパフォーマンス。何をどうと説明すればいいのか分らないほど全身を激しく動かしている。お辞儀の様になんども頭を激しく倒したかと思えば、突然床にのたうちまわる。

 恐怖は限度を越すとそれは人を魅了する毒になるのかもしれないとよく分からない哲学に行きつきそうになる。

 最後にその歌っている歌詞。呪いの効果すらありそうな歌声で歌われるのは、自分を裏切った女への思い。


 君は僕に振り向かない 君は僕の好意に決して気付かない

 君は大好きな彼に夢中で 僕の愛を道端の石のように蹴飛ばす

 君は彼に報いる事が全てで 僕の愛に、僕の全てに応えてはくれない

 不平等な愛 不平等な理 どうしたらこの世界は壊れるの

さあ捧げよう 彼女を

彼女は生贄だ 愛に応えない彼女が悪い

さあ捧げよう 僕の愛を

僕の愛は生贄だ 僕の愛の価値をしらない彼女が悪い


彼女が死ぬ そうして僕の世界を作り直すのさ


 憎悪と嫌悪、そして彼女への未練。その全てがない交ぜに爆発する愛への怒り。

痛いほど伝わってきた。伝わりすぎて恐怖で膝が震えている。

 

壮絶な曲が続き2番まで演奏した後にようやく終わる。

誠は舞台そでへと一度消え、拓真が繋ぎを奏で始める。

すこし待つと誠が3つのバケツを持って戻ってきて、奥沢京子の前に置く。


「なあ、皆ぁ、世界は不平等だよな。この世界にはあらゆる格差がぁ、学力、経済、恋愛、容姿あらゆる格差がある。その中でも俺が一番辛いのは愛だ。僕は彼女を愛しているのに彼女は振り向いてくれない。彼女は彼に夢中だ。僕の何が悪い。容姿か学力か?いや、きっと全てだろう。僕は悲しい。悲しすぎる。でも、大丈夫。彼女を生贄に今僕らは愛を手にするんだ。彼女を糧に僕らは光を浴びる。何故、どうしてかって。そんなものは知らない。だって、このままやられたままじゃ嫌じゃない。だから、僕は彼女に怒りを彼女に愛を。彼女の犠牲で今僕らは一歩進むんだ。アハハハ、アハ————————。」


もはや何を言っているのか分らない。もしかして意味などないというか、意味を理解してはいけないのだろう。

ライブは沸点を通り越して完全に気化し魔界となったこの場所はなんでもありだ。

誠が例の魔物の様な奇声をあげれば、呼応するようにライブハウスのあちこちで各々オリジナリティに富んだ奇声があがる。

多分異様なテンションで皆頭がおかしくなっているのだろう。

現に自分の隣にいる遙も頭を振り過ぎて、フラフラと千鳥足になりながら奇声を上げている。

その中取り残された自分は被害が及びませんようにと縮こまる。

そうしている間にも誠の常軌を逸しすぎて日本語を喋れてないマイクパフォーマンスは続く。


「そう白い包帯でがんじがらめにされた彼女は言わば繭。春を待ち、翼を広げ飛びたつことを夢見る繭。彼女を真紅の血に染め、彼女を新たな次元へと昇華させるのだ」


誠が指を鳴らすと床が光り輝き出し奇妙な紋章を描き出す。魔方陣だろうか。

そしていつの間にかベースを舞台そでに置いた拓真が嫌そうなしかめっ面で奥沢京子を抱え、紋章が描かれた中心に置く。

すると今度は誠が奇妙な呪文を唱えながら魔方陣の周りをぐるぐるとまわり出す。

被害を最も受けている奥沢京子の顔を見ると、奇妙奇天烈な行動の連続に恐怖が頂点に達しているらしくもう泣きだしそうである。

一通り呪文を言い終えたのだろうか。誠はおもむろにバケツを手に取ると深呼吸を一度はさむ。

そして


「RED IMPACT」


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