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トロピカルフラッシュ これが私の素敵な1日 リンゴ編

パンチ、パンチ、パンチ!!

現状況を的確に表すとこうなる。

私こと奥沢京子は父親である奥沢健人にマウントを取られ、殴られている。


どうやら今日も散々飲んできたようだ。父親から酷いお酒の臭いがする。それこそお酒を浴びるほど飲むと言うが、実際に浴びて来たのではないかというくらいにお酒の匂いを漂わせている。臭さで鼻が曲がりそうである。くしゃい。


「おめぇらは、いつも俺を小馬鹿にしたような目で見やがって、俺の事を舐めてんだろ?あぁ!?」

舐めているなんて私の父親は面白い事を言う。誰がお前の脂ぎった肌を舐めるというのか。というのは言わず心の中に納めておく。実際、言う度胸もなければ言う余裕もない。


「おめぇは俺の子供だっていうのに可愛げがまったくねぇ。本当あいつそっくりでイヤな女だな」

女の子に面と向かって可愛げがねぇと言う最低。実際、この父親の子共なのだから仕方がないのかもしれない。それでも、やはり癪に障るので視線で物理的に射抜く事を試みる。ギラギラ。


「なんだ、また泣くのか。ハハハ、おめぇもアイツと一緒で泣いたらなんでも片付くと思ってやがる。てめぇら、揃いも揃ってふざけんじゃねぇ!!」


私の髪を引っ張って、引きずるように投げ飛ばされる。その際にブチブチと頭からイヤな音がする。きっと髪の毛が抜けた音だろう、この調子で髪を引っ張られれば前髪が後退し始めた父親のようになってしまう、それだけは避けなければ。


「ほら立ちやがれ、いつまでそこで寝てる気だ。今日という今日は許さねえからな。おめぇの日ごろの態度もその馬鹿にしたような目つきも。おめぇはもうちょっと親に感謝する事を覚えやがれ」

タンスの角に頭をぶつけて蹲っている私の髪を掴んで顔上げさせるなり頬を殴る。


全く女性の顔に拳を振るうなんて紳士にあるまじき行為だ。まぁ、紳士的行いを父親に求める方が悪いか。

殴り飛ばされて、倒れ込んだ先には鼻から血を出して私と同じように蹲っている母親がいた。

母親は倒れ込んできた私を朧げな瞳で見つめて、声には出さず口の動きだけゴメンネと呟いた。


いやいや、悪いのは全て父親だから母親は謝らなくていいよ。もし非があるとしたら、こんな亭主を選んだ事なのだろうけど。いやでも、この父親と結婚しなかったら私生まれていない。しかし、母親と父親が結婚したからこそ私はこんな目に合っている訳で・・・・。ああ、これがジレンマというやつか。

と心の中で笑っているとがら空きのお腹を蹴り飛ばされた。


あぁ、なんか意識が朦朧としてきた。

「なんだ、てめぇ!!これだけ蹴られてまだ反省してねぇのか!?せっかく、生んでやったのによぉ!」

いやいや、反省しているか反省していないか、その酔いの回った頭でどう見極めているのだろうか。なんて事をぶつくさ頭の中で文句をたれる。ここで口に出せばどうなるかはご察し下さい。

とかやっている間にまた髪を引っ張られ頬を何度も叩かれる。嗚呼、痛い。



そうして父親は何度か私に暴力を振るった後、疲れたのか私に背を向けて酒を飲みなおし始めた。

部屋が一気に静まり返り、聞こえるのは父親が酒を飲む音だけ、部屋にはボロボロの私と疲れ果てた母。

母親は這いつくばりながら私の側まで近寄ってきた。


「今、お父さんお酒飲んで気がつかないから、早く二階に行きなさい」

母親は震える声で私にそう伝える。そして、母親は私の背中を押しながら父親に気付かれない様にそっと居間の引き戸開け廊下に私を連れ出す。


「お母さんも一緒に行こうよ」

私は震える声でそう伝えると

「私はいいの。まだお父さんお酒飲むだろうし、私が付き添わないと何しでかすか分からないから」

母親は優しく微笑みながらそう言った。


 母親は私を廊下に置いて、また居間へと戻っていく。私は二階の自分の部屋に戻ろうにも母親が心配で戻れない。私は一人、電気のついてない暗い廊下で立ち尽くす。

「おい、つまみ。なんかつまみねぇのか」


 父親の呂律の回っていない声が聞こえる。

 「今、お漬物しかないですけど大丈夫ですか」

 母親の声。


 「漬物だぁ、そんなもんが酒のつまみになるかぁ。他に何かねぇのか」

 「今、冷蔵庫に何も入ってなくて、買ってこないと何もありませんよ」

 母親の申し訳なそうに言うと、父親が乱暴に酒瓶を置く音がした。


 「冷蔵庫になにもないだぁ、おめぇそれでも主婦か。あぁ」

 「本当にすいません」

 「すいませんじゃねぇだろ。バカがぁ、俺が一生懸命外で働いているっていうのにお前は家事もしないで、なにやっているんだ。遊んでいたのか、あぁ」


 父親の怒鳴り声の後、平手打ちの大きな音が居間から響く。

父親は数年前に失業した無職であり、現状、我が家の稼ぎ頭は母親になる。

遊んでいるのは父親の方だろと言いたいが、私にはその事を言う度胸も勇気もない。


「すいません。本当にすいません」

「すいませんじゃねぇだろって、俺が働いているときに遊んでいたのかって聞いてるんだよ」

今度は人を殴った時の鈍い音が響き、その後に居間の引き戸が大きく揺れた。


「お前たちは親子そろって、俺の事を馬鹿にしやがって」

またもや鈍い音がし、その後に母親の悲痛の声が聞こえてくる。

母親が引き戸に当たった影響か、すこし引き戸が少し開いた。すると母親が父親に馬乗りになられて殴られている姿が覗いて見えた。


私は恐怖で足が竦み、悲鳴を漏らしそうになる口を手で抑える。

父親に殴られている母親は私に気付き、殴られながらも私の方を見て、声に出さず逃げなさいと言う。

私は逃げ出そうにも足が竦んで動けない。それに母親がこれ以上殴られている姿は見たくない。私は勇気を持って母親を助けようと引き戸に手を伸ばすと、母親を殴っていた父と目があった。さっき散々殴られ、恐怖が麻痺していたにも関わらず、父親と目があった事でまたも震えだしそうな恐怖が戻ってきた。

父親は私を見つけ、怒鳴り出す。


「お前そこで何してるんだ。さっきの話は終わってねぇぞ」

引き戸を乱暴に開け、私に掴みかかろうとする。私は膝が震えて逃げ出せない。父親に殴られると思った瞬間、母親が父親の腰にしがみつき、父親を止める。

「早く二階に行きなさい。」

母親は悲鳴にも似た声で私に逃げるように叫ぶ。父親は母親を怒鳴りながら母親の顔を叩くが、それでも母親は離さない。


私は震える手足を懸命に動かし、父親が暴れる居間から逃げ出す。真っ先に二階に上り、自分の部屋の押し入れに入り込む。逃げる途中で母親が壁に激しくぶつかる音が耳に響く。

手足が震える、恐怖で痺れる。

押し入れに逃げ込み、顔を埋めるようにして座り込む。押し入れの中にいても父親の怒鳴り声と母親の悲鳴が聞こえてくる。


聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!こんな怖い音なんて聞きたくない!!

目を瞑り、耳を防いでも聞こえてくる怖い音。逃げられない恐怖、嵐のように振るわれる父親の暴力。

母親と父親が結婚しなければ私は生れない。それがイヤだと言ったが、こんなに怖い思いをするくらいならやっぱり生まれ来なければよかったのかもしれない。


私は震えながら一夜を過ごした。


サブタイトルは借りです

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