僕なりの小さな一歩 そして栄光のDead Endへ
自分は何故これほどまでにも臆病なのか
学校から喫茶店へと向かう道で一人考える。
いつも引っ付いてくる遙は昼の騒ぎが原因で、職員室で怒られている。
一応、非が大場達にもあり、自分も遙が有利になるように教師に状況説明をしたので反省文を書かされることはないだろう。まぁ、大場には凄い睨まれたが。
ともかくだ。何故自分はこんなにも臆病なのか。
奥沢京子と関わって何度も考えさせられた事だ。簡単に言ってしまえば今の誰にも咎められず、誰にも虐げられず、誰の注目にも浴びない、今の地味な状況を壊したくないからだろう。
昔なら現状を守るために自分なりの努力はしただろう。しかし、遙が奥沢京子を庇うたびに自分の矮小さと自分の卑怯な一面に気付かされ心が痛む。
自分は変わりたいのかもしれない。でも、自分にはその勇気がない。
そうして、結局自分は何も変わりはしない
ただただ無意味な自己嫌悪を頭の中で繰り返して時間を無断にしているうちにいつの間にか喫茶店の近くまで来ていた。
気分を切り替え、今日もアルバイトもといお手伝いさんとして頑張るかと気合を入れると喫茶店の方から男の大きな声が聞こえた。
「だーかーらーよぉ、茜は今いねぇのかって聞いてんだよ。あぁん!?」
喫茶店の方を見るとガラの悪そうな男が奥沢京子に苛立ちながら話しかけている。
年は20代半ば。細見ながら筋肉質で、身長は遙よりも高く180後半辺りだろうか。髪は短く立ち上がらせており、微かに見える横顔は深夜に改造車を乗り回していそうな強面。服装はスキニージーンズ、背中に虎の描かれたスカジャン。町で声をかけられたら即座に逃げ出すガラの悪さ。現に思わず路地裏に隠れてしまった。
「おい、ねーちゃん聞こえてる?茜はいーるーのーかって聞いてんの?」
と路地裏に隠れコソコソ喫茶店を覗いている間にも怖いお兄さんは奥沢京子に威圧的に問いかける。
思わず助けを求めて周囲を見渡すが誰もない。後ろを振り向いても、いつも側にいる遙はいない。
あのアホで、脳筋で、いつも付きまとってくる行動力だけは無駄にある遙を頼ろうとしてしまった。今さらながら、あいつには助けてもらってばかりなのかもしれない。
喫茶店を見る。あの強面お兄さんは未だに奥沢京子に高圧的に話しかけている。
今、助けを求めにこの場を離れれば、奥沢京子とあの強面のお兄さんと二人きりの状況が続く。
奥沢京子はあの通り人との上手く関われない、僕以上のコミュ障だ。そんな奥沢京子をあのまま放置して大丈夫な訳がない。
しかも、今にも奥沢京子の襟首を掴みかからんとする勢いである。これは暢気に警察になんぞ連絡している暇はない。
しかしだ、
勇気が出ない。
我が身が可愛い
危ない事はしたくない
臆病な自分が顔を除かせる。
奥沢京子がピンチなのに、逃げ出す言い訳が湯水のように溢れ出る。
自分が出て行ったところで何もできない。奥沢京子を助けたのは遙で自分は最初から助けるつもりはなかった。あんな怖い人に絡まれる奥沢京子が悪い。そもそも奥沢京子に無視されるのに、自分に助ける義理はない。
言い訳をつけて自分を正当化して逃げ出したい。
それもそうだ、自分は正義の味方じゃない。困っている人がいたら必ず助けなければならない理由なんてない。なんでもかんでも、首をつっこもうとする遙の方が異常なんだから。
だから、だから、だから
逃げ出そう・・・・・・と結論を出せない。
こんなに言い訳があるのに、助ける義理なんてないのに。
助けないという選択肢を選べない自分がいた。
何故か。それは自分にも分からない。
自分の良心が失神するほど痛むからか?いや違う。
思い当たるにきっと遙に感化されてしまったんだろう。
自分の事ながらなんて面倒くさいやつから影響を受けてしまったんだろうか。
思わず笑いがこみ上げる。
でも仕方ないじゃないか。ただの筋肉バカが自分を犠牲にして女の子庇っていい所見せて、その反面自分の駄目さ加減を浮き彫りにされてしまっては。
ただの意気地なしではいられないじゃないか。
恐怖で震える足を必死に動かし喫茶店へと向かう。
近づけば近づくほど強面のお兄さんのヤバさが伝わる。
絶対にあれは毎日喧嘩に明け暮れ、夜中は首都高を飛ばしまくり、学校の便器を蹴って壊しまくる類の人だ。下手すれば半殺しにされるかもしれない。
それでも、
「・・・あ、あ、あの」
震える声で怖いお兄さんに話しかける。
「あぁんだってめぇ」
高い身長を屈め、自分より背の低い相手をわざわざ下から覗き込むように睨んでくる。おトイレが近い。
「あのぉ、か、彼女に、何か、ご、ごご、ごごご用でしょうか?」
「なんだぁおめぇこの姉ちゃんの知り合いかぁ」
どんどん顔が近づいて、もう顔が目と鼻の先。というか鼻がくっつきそうである。
「えっ、ええ、まぁ一応」
強面のお兄さんは鼻と鼻がぶつかる直前まで顔を近づけ、怖い笑顔でにこっと笑う。
「いやぁ、この姉ちゃんが何も言わないからよぉ、困ってたんだよぉ。助かったぜぇ」
「はは、はぁ、そうですかぁ・・・」
なんとなく自分も愛想笑い。
「それで要件なんだけどよぉ、茜はどこよぉ」
怖いお兄さんがすっと笑顔を消した。口からは微かにペパーミントの匂い。色んな意味でいますぐトイレに行きたい。
「えっと、き、喫茶店におりましぇんでした?」
「それがいねぇから聞いてんだろうがぁ!?」
このお兄さんいちいち怖い。
茜に用事らしいが、用件はなんだ。
どんな用件かは考えれ考えるほど嫌な方向に進んでいくの考えるのをやめた。
このまま恐怖に負けて馬鹿正直に茜がいそうな所、今の時間帯だと近くのスーパー、「オリンピック」を素直に言ってしまいそうだが、一応これでも男の子であるし、勇気を振り絞って話しかけた訳だから
「ち、ちなみに茜さんにどのようなご用件で」
強面お兄さんはチッと舌打ちをして顔を離す、そしてホッと胸を撫で下ろしかけたところで、凄まじい勢いで再び顔を近づける。
「それぉお、おめぇにわざわざ話さなきゃならねぇぇのかぁぁああ」
このお兄さんは何故こんなに怒ってるのか。怖い、超怖い。なんでこんなに短気なのか。
「なんだよぉ、この喫茶店新しいの入ったって聞いたらこんなんばっかなのかぁ」
お兄さんがじりじりにじり寄ってくる。怖い、腰が抜けそうなくらい怖い。
一触即発の空気。
もしかしたら最悪の事態が起こるのかもしれない。
もしこれがゲームならどこで選択肢を間違えたんだと、きっとこの先BAD ENDなんだと、嘆く前に、もし本当に半殺しにあうのならば、せめて奥沢京子だけは逃がさなくては。
後ろを振り向き、精一杯の笑顔で奥沢京子に向ける。
「奥沢さん僕に構わず逃げて」
完璧に死亡フラグをたててしまった気がする。
お兄さんの手が僕の襟首まで迫ってくる。それはとてもゆっくりと時が止まったように。
これが走馬灯なんだなと確信したその時、横から声がかかった。
「あれぇ、拓真君に悠里君じゃない。何をしてるんだぁい??」
横を振り向くといつものアロハシャツで玄さんがニコニコ笑っていた。




