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皆で食べるお昼ご飯

「おい、奥沢京子いるか。」


遙が大量の惣菜パンを抱えて教室にやってきた。

賑やかだった教室は一瞬にして沈黙し、昼食をとっていた生徒全員が教室のドアにもたれかかる遙に視線を向ける。

その視線に遙は不思議そうに首を傾げるが、大して気にした素振りを見せない。

奥沢京子はまたかとでも言うように顔顰めた後に逸す。


「おい無視する事はないだろ」


と奥沢京子の前の席を向きなおし、大量の惣菜パンを奥沢京子の机に置く。

奥沢京子は興味なさそうにしながらも気になってしょうがないらしく、遙と机の上の惣菜パンの山をチラチラと見る。

その視線に気づいて、遙は楽しそうに説明する。


「これか、これな。今朝、姉ちゃんからお前の昼飯用意するの面倒くさいから代わりにお前が用意してくれって電話があってな。なんなら俺の分の昼飯代も出すっていうから買い過ぎちまってさ」


と遙が言い終わる前に奥沢京子は腕を枕にして寝たふり。いつもの完全無視の姿勢に入った。

遙はどうするのかと見てみると、遙は無視するなと机をガタガタと揺らすが、奥沢京子は完全無視を決め込み反応が全くない。

いつも通りなら遙が諦め、こちらに八つ当たりをしに来るのだが、今日は少し違った。


「いやぁ、お前の髪ってよく見ると綺麗になったよな」


遙は机を揺らすのをやめ、不敵な笑みを浮かべながら奥沢京子の長い髪を手に載せ、指でいやらしく撫で始める。

あまりの気持ち悪さにさすがの奥沢京子も触れられた瞬間、ビクリと肩を揺らす。

その反応がいたく気に入ったようで遙は不敵な笑みをより深め、恋人の髪に触れるかのように優しく愛おしそうに撫でる。

 

「いやぁ、前はボロボロだったのに一週間でこうも髪って変わるもんなのか。やっぱ、トリートメントとかそういうやつのおかげな訳?」


傍から見れば完全変質者。

周りでそれとなく様子を見ている奴らはもちろん、自分も少し引いている。

奥沢京子も顔こそ見えないが時折びくびくと震えている。

しかしながら、完全無視という姿勢をとっている以上その姿勢を崩すのが癪なようで、腕で振りほどいたりできないようだ。

遙の口角がどんどん吊り上っていく。そして遙は紳士の様な笑顔見せて言った。


「お前の髪、しゃぶっていい?」


「——————————————————っ!!!!」


奥沢京子が凄まじい勢いで体を起こし、遙から髪を振りほどく。

周りの盗み聞きしていた奴らもドン引きしたようで、無関心を装っていた表情がひきつっている。


「やっと顔を上げたか」


奥沢京子が遙を警戒するように睨む。


「ほら、お前の昼飯でもあるんだからさっさと食べろよ」


とにらみつける奥沢京子を意に介さず、惣菜パンの山からコロッケパンを取り出し奥沢京子の手元に置く。

奥沢京子はコロッケパンと遙の顔を交互に見る。

察するにこのまま無視を決め込めば遙に髪を舐められる。しかし、まともに反応するのも癪で、どうしようか悩んでいるのだろう。

しばらくして奥沢京子の中で決着がついたようだ。

苦々しい顔をしながら奥沢京子が答える。


「い、いらないです」


「はぁ?」


遙が怪訝な顔をする。


「わ、わた、私さっき水道水を、たらふく飲ん、できたのでお腹がいっぱいです」


「お前何言ってんの、水道水飲んで腹が膨れる訳ないだろ」


「いえ、ふ、膨れます、膨れました。なので、大丈夫です。あなただけで食べてください」


「あなただけで食べてくださいって、お前なあ」


「ど、どうせ、あの女の差し金で食べた分だけ後で払えって言うんですよね」


普段は僕に溜息をつかせる側の遙が大きく溜息をついた。


「あの女って姉ちゃん、茜の事か?俺の姉ちゃんがそこまですると思うか」


「ええ、彼女なら、す、すると思います。何せ彼女のせいで私は喫茶店で働くことになったのですから」


「彼女のせいってなぁ、俺の姉ちゃんは確かに残虐非道で無慈悲だけどお前が思っているほど酷くはねぇよ。さらに昼飯代までふっかけることなんて事はしないぞ。ん?なんか俺おかしい事言ってない?」


「それをあなたが言っても信用できません」


会話を打ち切るかのように顔を逸らす。


遙はもう一度大きな溜息をついた後、パンの山からもう一つ惣菜パンを取り出し、袋を開ける。そして袋を開け取り出したパンを自分が食べるのではなく、奥沢京子の閉じた口にむりやりねじ込んだ。


「っんぐぅ!!」


突然口に焼きそばパンを突っ込まれた奥沢京子は驚き、パンを押し込む手を跳ねのけようとするが遙の怪力によってさらに押し込まれる。

そうして、口の中にパンを半分ほどねじ込んだ後に、遙は手を離した。

奥沢京子は口一杯に詰め込まれたパンを取り出し、咳き込みながら遙を睨む。


「これは一体なんのつもりですか」


「何のつもりもそのパン、お前が口をつけたんだからお前が責任をとって食べろよ」


遙は興味なさげに、また新しくパンの山から自分の分を取り出し、食べる。


「あんた勝手に押しつけてきたんじゃない」


「俺が勝手に押し付けたからどうしろと?お前の涎が付きまくったパンを俺が食えとでも?」


「んじゃ、どうすればいいのよ」


「どうすればって、食うしかないだろ」


奥沢京子は自分の涎まみれのパンを見る。


「大丈夫だよ、安心して食え。別に姉ちゃんが吹っかけてきたら俺が代わりに払ってやるからよ」


「それであんたに何のメリットがあるっていうのを」


「メリットなんてもんしらねぇよ。いいから黙って食えよ。お前の涎がついたのなんかお前以外に食うやついないだろ」


遙は袋から出したばかりのパンを丸呑みするかのように口に詰め込み、無理やり会話を打ち切る。

奥沢京子も観念したようで、つまむように食べていく。



奥沢京子が啄むようにちびちびと食べていたパンがなくなりかけた頃、奥沢京子は若干どもりながら話しかける。


「・・・・あんたは誰かと一緒に食べないの」


山のようにあったパンも残り少なくなってきた時に奥沢京子が独り言のようにぼそりとつぶやいた。

遙は食べていたパンを紙パックのジュースで流し込んだ後、口を開く。


「なんでそんな事聞くんだよ」


「・・・・だって、こんな私と昼飯食べているんだから他に一緒に食べる人いないのかな、と思って」


「はっ、馬鹿にするな。別にボッチって訳じゃねぇよ。」


「・・・・んじゃ、なんで私なんかと食べているのよ」


「そ、それはあれだ。姉ちゃんに頼まれてお前の面倒を見るように言われたからだよ」


「別にそんな気遣い無用です。どうぞそのご友人と食べてください」


「本当にお前は面倒くさい奴だな。別にいいじゃねぇか。みんなで飯食った方がおいしいだろうが」


「あんたと一緒にお昼ご飯を食べると逆に不味くなるんですけど」


「あぁ、何も聞こえない」


ここで遙が何かを思い出しかのように周囲を見回す。そして、自分と目が合うと睨みつけてきた。


「お前、いつまでそこにいるつもりだよ。お前もこっち来いよ」


「いや、こっち来いと言われましても」

周囲をさりげなく見渡す。クラスメイトは普通に昼食をとっているようだが、意識は完全にこちらに向いている。友達と談笑しているようで完全に横目でこっちを見ているもの、黙々と昼食を食べているようで箸で何もすくえていないもの、興味津々なのがまるわかりである。


「早く来い。こいつと二人きりにさせんなよ」


「いや、させんなよって自分で奥沢さんのところにいっておいて」


この状況下で一緒に奥沢京子と昼食なぞとろうものなら、クラスの立ち位置がおかしくなるのは目に見えている。しかし、遙の刺すような視線が痛い。

その視線に耐えきれず、諦めて弁当と自分の椅子を持って奥沢京子の席へと向かう。

奥沢京子に社交辞令として手を軽く上げ挨拶したが、睨みつけられた後、顔を窓へと逸らされた。


それ以降、昼食は奥沢京子と遙と一緒に食べる事になり、クラスメイトの視線を感じながら昼休みを過ごすことになった。

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