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時代錯誤と草食系男子

その後も奥沢京子との微妙な関係はしばらく続いた。

奥沢京子の複雑の背景に自分は何も踏み出せずに、ただ少し離れた所から眺める事しかできなかった。

 遙は自分とは違って積極的に話しかけるが奥沢京子に全て無視、もしくは躱され、ただ空回りしている。そのせいもあってか、もともとクラスでも浮いていた遙は、さらに周囲から浮き孤立するようになった。

 もう関わらなければいいのに。そんな冷たい事を簡単に言えればいいのだが、そう簡単に言えるわけがない。

そんな自分の良心と現実に挟まれ、もやもやした感情を抱いたまま一週間が経とうとしていた。




喫茶店の窓から西日が入り、どこか物悲しくなる夕方。

 喫茶店の床をモップで黙々と拭いていく。

床掃除は本来奥沢京子の役割だが、茜が言うには奥沢京子だけだと永遠に終わらないとのことで自分も何故か床掃除をさせられていた。

ちなみにその茜はというと喫茶店の奥で、モップと雑巾で野球の真似事をしていた遙を叱りつけていた。

おのずと奥沢京子と二人きりになるこの気まずい空間。

普段は執拗に話しかけてくる遙を疎ましく思っているのに、いざこう会話がないと気になる性分らしい。

よって、親睦もかねて話しかけてみる。

 

「いやぁ、今日は天気が良いね」


 「・・・・・・・・・・・・・」


無視。


「後、もう少しで終わりそうだね。頑張ろうか。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 


 無視。心が折れかける。


「あぁとぉ・・・えぇっと・・・・・あっ、なんだかんだでゴスロリ似合っているよね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


完全に心がへし折れる。

普段自分が遙にしてきた仕打ちの酷さを今ここで理解する。

今度から少し優しくしようと思う。

そんな訳で、心のへし折れた自分は奥沢京子から逃げるようにカウンターへと掃除しに行くと、いつの間にか戻っていた茜と目があった。


「ヘタレ」


開口一番、心にぐさり。


「いや、別に、そんなヘタレと言われるような事は」


「ヘタレ」


「ですから」


「ヘタレ」


「すいません」


茜の心底呆れたと言わんばかり大きなため息。


「お前たちは揃いも揃って、本当に情けないね」


「すいません」


何に対して自分は謝っているのか分らないがついつい謝ってしまう。


「意中の女とまともに話せないなんて、これだから童貞は」


「いや別に童貞とかそういのでは・・・」


「えっ、童貞じゃないの?」


「・・・・そうですけど」


茜がやっぱりね、と手で頭を押さえながらまた大きなため息。

なんだかとっても釈然としない。


「ねぇ、奥沢ちゃんが来てから何日経っていると思ってるの。一週間だよ。それなのに喫茶店で奥沢ちゃんとまともに会話したことあるかい?」


「でも、それは奥沢さんが無視するからでして」


「でも、だっても、もないよ。言い訳がなんて男らしくない。そういのは無理やりでも振り向かせるのが男ってもんだろうがよぉ」


「いや、そんな前時代的な」


無理難題を吹っ掛けられた。

あの完全拒絶の姿勢を崩さない奥沢京子にどう接すればというのか。それに男性が女性をリードするとか、まぁ理解できるが考えが古いというか・・・


「なにそれ?遠まわしにあたしの事をBBAって言いたい訳?」

日本刀でズバリと切りつけられた。いやそれは錯覚なのだが、そう思わせるほど茜の視線は鋭利だった。


「そういう訳じゃないです。すいません」


「ふぅん、まぁ、いいや。それで結局どうなのよ」


茜が話を戻す。


「どうなのよといいますと?」


「だーかーらー、奥沢ちゃんとは仲良くやっているのかって事。まぁ一目見りゃ分かるもんだけどさ。学校でもあんな感じなの。というか、奥沢ちゃん学校で何してるの。」


どう説明しようか考え込む。奥沢京子との進展がない事にぶつくさ文句を言われている今、素直に学校でもそうですと言えばさらに呆れられる事が目に見えて分かる。

しかし、誤魔化そうにも茜を誤魔化せる気がしない。ならば素直に答えるしかないだろう。


「奥沢さんとは学校でもあんな感じですね。奥沢さん、友達とかもいなくていつも一人で、まぁ、遙は話しかけたりしてるんですけど、無視されてばかりで。」


「・・・・・・・・・」


茜の反応が全くないので恐る恐る茜の顔を見ると、ゴミを見るような目でこちらを見ていた。


「なんですか、その顔は。こっちだって色々努力をしているんですよ。だから、その、こちらの・・・」


「はいはい、分かった。分かった。こっちの努力を少し考えろとか言うんだろ。お前たちがそんなに手詰まりならなんとかしてやるよ」


「なんとかというと、具体的には・・・・」


茜は顎に手を当て少し考えるような素振りをみせるが、すぐにカクンと頭を横に倒す。


「だめだ、分かんない。でも、なんか考えておくよ。」


「本当ですか・・・?」


「本当、本当。だから、期待しておけ」


茜が手をヒラヒラと振りながら喫茶店の奥へと消えていく。

奥の暗がりに消えていく前に何か思い出したかのように振り返る。


「あっ、そういえばさ。奥沢ちゃん学校で昼何食べてるの。前に聞いたら自分でなんとかしますとか言ってたんだけど」


「そうですねぇ・・・自分も詳しくは分からないですが、以前昼休みに学校の水道水をがぶ飲みしているのは見ました。まさか昼飯を水道水で誤魔化していると思いたくわないですが」


「ふーん」


茜は顎に手を当て少し考えた後に喫茶店の奥へと引っ込んでいった。

だが、去り際にもう一度振り返り


「薄情者」


と強烈な一言を浴びせられた。

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