魔法少女における変身シーンは都合によりカットされましたまる
「ふーん、なるほどね」
今までの経緯を茜の入れたコーヒーを飲みながら伝えた。
ミルクが入った薄いブラウン色のコーヒーは、酸味がなく柔らかで緊張がすこし解ける様だった。
茜はコーヒーカップを布巾で拭きながら、しみじみと呟く。
「それで悲鳴が聞こえたから、見も知らずの他人の家に突っ込んでいって、あの子を助けた訳だ。いやぁ、なんかドラマみたいな展開だね。これ私を騙すためのドッキリとかじゃないよね」
「ちげぇよ」
茜がからかいまじりに話すと、遙がぶっきらぼうに答える。
あれから茜の誤解を解くのが大変だった。
まず不名誉甚だしい誤解をし、ニマニマと笑みを浮かべる茜に対して、半裸の奥沢京子と言い争うに至った経緯を懇切丁寧に一生懸命説明した。
必死の説明のかいがあってか、とりあえず、如何わしいことしていたわけではないとなんとなく、分かってくれたらしい。
だが、それ以外については、茜は理解しているのか理解していないのかよく分からない含んだ笑みを浮かべながら、黙って奥沢京子を茜の住居スペースである二階へ連れて行った。そして、二階にあがって30分ほど経過した後、茜は着替えた奥沢京子を連れてまた一階に戻ってきた。
奥沢京子は二階で一通り手当てや服を着替えさてもらったらしいのだが、その服装が奇抜と言うか個性的と言うか。
奥沢京子が着替えさせられた服装は黒と白を基調としたフリルが沢山ついた服、いわゆるゴスロリだった。
また、あのホラー映画に出てきそうな長い髪は頭の両脇でまとめられツインテールになっていた。
また、見るのも痛々しかったあの腫れあがった左目には眼帯をしており、手当の一環としてやったものなのだろうが、奥沢京子の雰囲気と相まってゴスロリの一部のようにも見えた。
ちなみにその後は、「あぁ、分かった。大丈夫、大丈夫、お姉さん君たち信じているから」と訳知り顔で全く話を聞かない茜になんとか今までの状況を説明して、今に至る。
「まぁ、それでだ。君たちが見ず知らずの女の子を助け出したのは、実にすばらしい。君達の正義心に敬意を表するね。でも、なんで私の店に連れて来たんだい」
茜はカップを拭きながらカウンターの端に座る奥沢京子をチラリと見る。
奥沢京子は自分たちの視線を気にした素振りはなく、黙々とナポリタンを食べていた。よく見ると頬や鼻にケッチャップがついている。よほどお腹が減っていたのだろう、パスタを白飯でもかきこむかのように無我夢中で食べていた。
そんな奥沢京子を見て「よく食うね」と茜がしみじみと呟く。
今でこそあんな風にパスタを食べているが、出された当初はビクビクしながら「私はたべない」と意地を張っていたが、お腹がバイクのエンジン音のように鳴った後はこのように黙々と食べている。
「それよか、あの格好は何なんだよ」
遙は顔を顰め、奥沢京子の服装に話を逸らすと
「えっ?あぁ、趣味だよ、趣味。」
と茜があっけらかんと言った。
趣味とは何ぞやとつっこもうとすると、茜に文句あるかとひと睨みされ、自分も遙も何も言えずに口を閉じる。
「話を逸らすんじゃないよ。それでなんで連れてきたんだい。ほらお姉さんに言ってみないさいな」
話を戻された遙は気まずそうにコーヒーを一口すする。
そして、しばらく長い間を持たせた後に重い口を開いた。
「こいつを、奥沢京子をここに匿ってくれないか」
喫茶店が静まり返る。
ナポリタンをかき込んでいた奥沢京子も食べる手を辞めて、まじまじと遙を見る。
「奥沢京子っていうと・・・この子」
茜が不思議そうな顔をしながら奥沢京子を指さす。
「・・・・・・・そうだ」
「また、唐突だな」
茜が苦笑いを浮かべながら呟く。
「一応、聞くけど彼女を警察なり学校に保護してもらうのはダメなのかい」
「俺たちもそうしようと思ったけどあいつが絶対嫌だって・・・」
「そうか」
茜が考え込むように顎に手を添える。
「ちなみに、別にあたしの所じゃなくても実家とかが・・・・・あぁ、だめだね」
茜が両親つまり、遙の家を提案しようとしたが途中で諦める。
遙の両親には数回しか会ったことはないがとにかく厳格で、一時期遙が荒れた時期もあって関係が拗れいたことを思い出す。
「んじゃ、悠里君の家は。君のご両親なら許してくれるんじゃない」
「えっ、無理です。無理、無理」
自分の両親は遙の両親ほど厳しくはないが、それでも一応一般常識のある家である。
奥沢京子をしばらく家に置いてくれなんて言っても確実に聞き届けてはくれないだろう。
「なるほどね。回りまわって頼れる所が一人暮らし私の所しかなくて来たわけだ。」
茜が改めて状況を理解し、うんうんと首を縦に振っている。そして、しばらく考え込むように首を縦に振った後に首をカクンと横に曲げた。
「しかし、そんな事急に言われてもなぁ。ちょっとなぁ・・・」
「そんな事言わずにさ、あいつ他に行くところないんだよ」
「でもなぁ、そうは言っても他人を無料で泊められるほど余裕ががが・・・」
「姉ちゃん頼む。迷惑なのは知ってる。でもさ、頼めるところが他にはないんだよ」
床に膝をつけ、深々しく頭を下げた。
「おいおい、ちょっと待ちなよ、あんたそこまで・・・いや、そんなに頼まれてもなぁ」
茜は簡単には頷かない。いや、頷けない。
お客のいない伽藍としたこの喫茶店をみれば、経済的に余裕がないのは容易に想像できるし、下手をすれば面倒事だけでは済まないので簡単には頷けないだろう。
「勝手に決めないでくれますか」
今まで黙っていた奥沢京子が口を開いた。
「誰もあなたに助けてくれって言った覚えもありませんし、この店にご厄介にならせてくれと頼んだ覚えもありません。はっきり言って迷惑です」
奥沢京子がきっぱりと跳ね除ける。
「いや・・・だがなぁ」
「皆さんにこれ以上迷惑をかける気はありません。そして、このご恩は必ず返しますので、私にもう構わないで下さい」
「へぇ・・・って言っているけど遙はどうするのさ」
茜が興味深そうに遙に尋ねる。
「お前馬鹿じゃないのか。もう私に構うなって他にどこか行くあてはあるのかよ。また、あの家に戻るつもりか」
奥沢京子は苦々しく表情を歪めた後に、いつもの無表情に戻って言った。
「いえ、あの家にはもう戻るつもりはないし、戻る事はないでしょう。でも、なんとかするので気にしないでください」
「気にしないでくださいってお前な」
奥沢京子は意固地に突っぱね続ける。
「まぁ、確かにウチもただで一人養い口増やすとなると厳しいからね。遙の頼みでもさすがに聞けないかな」
茜が申し訳なさそうに言う。
「そういう事なので皆さんお世話になりました。皆さんへの借りは必ず返しますので」
といって奥沢京子は席を立ち店の入り口に向かって歩いていく。
遙は苦々しいなんともやりきれない表情を浮かべている。
そしてすがるように自分を見つめるが、自分も今の奥沢京子に何かできる訳でもなく、遙から目を逸らす。
奥沢京子が店の入り口に立ち、扉に手をかける。
「そういえばお客さん、お勘定終ってないよ。全部で1,100円ね」
奥沢京子が外に出てようとしたその時、茜が奥沢京子に声をかけた。
奥沢京子は開きかけた扉を閉め、茜の方へ振り返る。
「茜さん、さっきの奢りじゃなかったの?」
「ハハハ、さっきウチも厳しいって言っただろう。そんな人様に奢れる余裕はないよ。という訳であんた達もコーヒー代しっかり払ってね。」
空気を読んでここは茜の奢りだと思っていたが違ったようだ。
カウンターに置いてあるメニューからコーヒーの値段を調べる。モカ650円、ブルマン450円、アイス300円・・・。値段を確認しても自分はコーヒーに詳しくはないので、自分が何を飲んだのか分らない。
奥沢京子は恨みがましい表情でゆっくりと近づいてきた。
「そうね、私の認識が甘かった。情けでご飯食べさせてくれると思っていたけど、そんな人の情けなんて信じて、騙される方が悪い。」
「いやだな、そんな騙すだなんて。こっちは一言も私のおごりだなんていってないよ。まず、そんな事はいいや、お客さんお勘定。」
茜は奥沢京子に向けて手を差しだし、代金を要求する。
しかし、家から着の身着のまま逃げてきた奥沢京子がお金など持っている訳がない。
「あれぇ、お客さんお金ないの?困ったなぁ」
茜が奥沢京子の足元を見た上で楽しそうにニヤニヤと笑っている。
奥沢京子は茜の笑顔に気付くと鋭く睨みつけた。
そして、屈辱に顔を顰めながら地面に両膝をつき手をついて茜にむかって頭を下げる。
「お願いです。今はお金を持っていませんが、必ず返します。ですから、今は勘弁してください。」
「いやいや、そんな土下座なんてされても私困っちゃうな。そうか、なら仕方ないかなご両親呼んではらってもらうしかないかな。」
「それは勘弁して下さい」
「勘弁と言われましても、子どもがお金払えないのなら親に払ってもらうしかないよね。あっ、そうだ。後、今着ているゴスロリもあげた訳じゃなく貸しただけだから。レンタル料いただきますよ。何せそれ高かったからね。その手じゃ有名なブランドだから10万位したかなぁ」
奥沢京子は湧き上がる怒りを抑えるかのように微かに震えている
「コスプレにレンタル料なんて聞いたことはないわよ」
「いやだって、晴着とか高い服には普通レンタル料ってつくものじゃないか?それと一緒さ。このゴスロリだって結構高かったんだからお金をとるのは当たり前だよ。後、ゴスロリであってコスプレじゃないから」
「どうか勘弁して下さい」
「ダメ」
地面に額をぴったりとつけ再び茜に土下座をして頼み込むが、茜はそれを無残にも断る。
茜はそれでもなお土下座をして頼み込む奥沢京子の前にしゃがみこみ、奥沢京子の顔を両手で上げる。
「家に頼みこむのもダメ、警察や学校に連絡するのもダメなら、きっちり働いて稼いでもらうしかないよね。」
「姉ちゃんそれって・・・」
遙は嬉しそうに顔を綻ばせる。
茜は最後にもう一度奥沢京子に確認をとる。
「・・・・・仕方ないよね?」
奥沢京子は悔しそうに顔を顰めた後にしぶしぶ頷く。
茜は一変して明るい笑顔になり
「んじゃ、住み込みでバイトしてお勘定を払うという事で決定ね。」
狙ってやったのか、それともなりゆりでなったのか全く分からないが、最終的に奥沢京子はここで働くという条件でかくまってもらう事になったようだ。
「フフッフ、さっきも言った通りウチは現在のバイトちゃん以外に人手を増やす余裕なんてないからね、安月給だから覚悟しなよ。」
それでもなお奥沢京子は最後の悪あがきに反発する。
「働くとしても別に泊まり込む必要はないんじゃないんですか」
「いやだって、食べた分払ってもらうまでここにいてもらわないと逃げちゃうかもしれないでしょ」
「私は逃げないので」
「ダメ。だって初めて会った人をそう簡単に信用できる?それこそ今のあなたみたいに」
奥沢京子はぐうの音も出ない様で悔しそうに顔を顰めるばかり。
茜は畳み込むように続ける。
「ちなみに住み込みだから、部屋の賃貸料と朝と昼と晩のご飯の代金もつけてバイト代から引く事にするから。だから、返済が住むのは・・・・まぁ、半年もあればギリギリ返せるんじゃないかな」
茜は満面の笑みで悪魔のようなことを告げる。
「ほらほら、そこの男共もぼさっと突っ立っていないで、さっさと店の手伝いする」
茜が喫茶店の隅にあったモップを俺たちに投げ渡す。
「えっ、俺たちもバイトするんですか」
「当たり前だろ、奥沢ちゃんが働く事になったんだから、あんた達も働くに決まっているだろ」
「ちょっと待ってください、それって拒否権はないんですか」
「そうだ、姉貴。なんで俺たちもバイトする事になるんだよ」
「あらあら何を言うかね、君たちは。奥沢ちゃんを連れてきたのはあんた達で、形はどうであれ私が面倒みる事になったんだからね。その分あんた達も私に手伝うべきだろう。」
茜のとびっきりのウィンク。
「あっ、それとあくまで手伝いだから、バイトと違って給料出ないので。んじゃ、シフトは週7で」
「ちょっと、待ってください。そんなの横暴す」
「ハイハイ、細かい事はあと、あと。もうそろそろお客さん来るから準備するよ。」
こうして僕たちはサンタモニカで働くことになった。




