普通の男子校高校生がヒーローぽい事した結果
走り始めてどれくらいたったのだろうか。
体力の限界を迎え、道路脇に倒れ込むように座る。
遙と手を繋いでここまで走ってきた奥沢京子も同じ様で、息切れが激しい。
ここはどこだろうか。住宅地の様だが来たことのない場所だ。夕方というのに人の気配はなく、ひっそりと住宅地全体が眠っているかのように静かだ。
なんとか喋れるほど息を整えた後、奥沢京子に大丈夫かと声をかける。
返事をする余裕もないようで、激しい息遣いのみが返ってくる。
改めて全体を見ると、長い髪は顔の半分を覆って表情を隠し、制服は所々破れ、破けて露出した肌には青あざが見える。肌蹴た学校の制服からは白い下着も少し見えていているが、今はそんな事に気をとられている余裕はない。
あまりにも痛々しい姿に視線を逸らす。幸いにして人通りがないので自分達を不審に思う人はいないだろう。
念のために後ろを振り返るが、誰かが追ってくる気配もなく、怒号も聞こえない。
静かな住宅地に三人の息遣いだけが響く。
乱れた息も収まり、少し余裕ができると、不安が頭の中で爆発した。
「お前何がしたいんだよ!!」
「そんな事俺にだってわかんねぇよ」
遙も余裕がないようで、怒鳴り返してくる。
「よく分からないであんな事をしたのかよ」
遙の胸倉を掴む。
「それじゃ、あのままほっとけって言うのかよ」
力では遙にはかなわず、簡単に突き飛ばされる。
地面に腰を強く打ち、痛みに顔を顰める。
「てめぇ」
「なんだよ」
お互い冷静になれないまま遙とにらみ合いになる。
数十秒そのままにらみ合うと、遙が視線を逸らし,こちらに手を差し伸べてきた。
「すまない。今は睨みあっている場合じゃない」
大きく息を吸い、怒りで荒れた呼吸を直す。
不満はまだあるが、ひとまず頭を冷やす。
遙の手を掴んで起き上がる。
お尻についた砂を払い落としながら、とりあえず奥沢京子の様子をうかがう。
「それで、えっと奥沢さん、その大丈夫」
何に対して大丈夫なのかはあえてぼやかす。
奥沢京子は問い掛けには答えず、ただ俯く。
奥沢京子からさっきの状況なり色々と聞きたかったが、今はそっとしておいた方が良いのかもしれない。
一番の問題である奥沢京子については置いておいて
「それでこの後どうするよ。警察に連れて行くか。それとも学校に連絡するか」
「・・・・あぁ、どっちにも連絡した方がいいだろうな」
遙もそれが一番無難だと考えたらしく同意する。
警察に連絡すれば確実に大ごとになる。
もしかしたら自分達も何かしらの処罰を受けるかもしれない。何せ他人の家に乗り込んで奥沢京子の父親を殴り飛ばし、奥沢京子をここまで連れてきたのだから。
だが大事になるにしても、奥沢家の家庭内暴力に、痣だらけの奥沢京子、たかだか高校生の自分に手に負えない。
ブレザーのポケットから携帯電話を取り出し、警察に連絡しようとすると、今まで俯いていた奥沢京子が僕の腕を掴んだ。
「えっと、奥沢さんどうしたの」
驚きながらも尋ねるが。奥沢京子は何も答えず下を向いたまま首を激しく横に振るのみ。
「いや、あのね、今警察に連絡するから。思わず君を連れ出してきてしまったけど、僕達にはどうしようもできないから」
それでも返事はなく、首を横に振るばかり。
困って遙を見るが、肩を竦めるだけ。
「け、け・・・警察は止めてください」
奥沢京子がたどたどしく話す。
声はか細く震えていて聞こえづらいが、なんとか聞き取れる。
遙と顔を見合わせて、頭を捻る。
警察に連絡するなとはどういうことか。何故駄目なのか聞きたい所だが、奥沢京子の複雑な家庭事情も
あって躊躇う。
「なら学校に連絡してもいいかな、それならまだ穏やかにすむと思うんだけど」
警察に連絡にできないのなら次は学校だ。学校に連絡すれば警察に連絡するよりも多少穏やかに済むかもしれない。
それでも奥沢京子は首を横に振る。
「ならどうしようか。このまま君を放置するわけにもいかないし、君を家に帰すわけにもいかない・・・よね」
奥沢京子は俺の腕から手を離し、黙り込んでしまった。
大ごとにしたくはないが、家にも帰りたくないという事だろうか。
「遙、どうするよ」
遙に助けを求めるが遙は深く考え込んだまま黙ってしまう。
一介の高校生の自分に何ができるというのか。
奥沢京子を置いて逃げ出すこともできるが、ここまで関わっておいて、投げ出すのは平々凡々の良心を持つ僕には無理だ。。
間違いなく自分の領分を越えた問題に首を突っ込んでいる自覚はある。
実を言うと助けられる範囲で助けて、後は大人しくこの問題から引っ込んでいたい。
しかし、その範囲とはどこまでを指すのか、もしかしたらもう抜け出せない領域まで関わっているのかと考えると頭が痛い。
とにかく現状をまとめる。
奥沢京子は学校や警察に連絡する事を極度に嫌がっている。
その理由が何なのか分らない。
家庭内暴力に合いながらも両親を守りたいのか、それともさらに隠しておきたいことがあるのか。どちらにしても、奥沢京子が嫌がろうと自分は警察や学校に連絡した方が良いのかもしれない。
奥沢京子へは申し訳ないと思うが、穏便に済ますにはやはり学校に連絡するしかない。
そう決意し、携帯電話を取り出し学校へ連絡しようとすると、無い知恵を絞り出していた遙が奥沢京子の腕を掴む。
「よし決めた」
遙は自分の返事を待たずに、奥沢京子を立たせて歩きはじめる。
「決めたって何をだよ」
「これからどこにいくかだよ」
遙は振り返らずに先に進んでいく。
遙には奥沢京子を連れて行くアテがあるらしい。
警察や学校に連れていくのかと思ったが、そういった感じではない。
それ以外にどこがあるかと、現実的に行く場所を探した結果
「遙、まさかお前自分の家に連れて行くつもりなのか」
遙は鼻で笑って答える。
「はっ、まさか俺の両親が許さないよ」
「えっ、んじゃまさか俺の家に連れて行くつもりじゃ」
「そうしてもいいのなら、そうするがいいのか」
「い、いや、無理です」
遙の事なので僕の家に強制的に連れて行くとも考えたが、さすがにそれはないようだ。
なら一体遙は奥沢京子をどこに連れて行くつもりなのか。
一抹の不安を抱えながら遙の後をついていく。
全て書き終えてから誤字脱字、一人称の統一など修正したつもりですが、漏れが結構あるかもしれません。本当にすいません。それ以前の問題だったら、尚の事すいません。




