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7)魔宝石

 アリアンヌに必ずネックレスを直すと約束した俺は、授業の合間を縫って図書室へ通った。

 意外だったのは、鉱石関連の本がジャックベリー公爵家の図書室には多いということ。

 読んでいくうちに、理由は分かったけれどね。


 ジャックベリー公爵家は、質の良い鉱石が多く取れる領地らしい。

 金銀銅はそれほどでもないのだが、魔鉱石の産出量が高いとか。

 魔鉱石は、魔宝石の原石で、いま流通している魔導製品はほぼこの魔宝石を原動力にしている。

 身近なものだと魔導洗濯機や魔導馬車もそうだ。

 ただし、魔導洗濯機と魔導馬車では使う魔宝石の質が段違い。

 魔導洗濯機は小指の先ほどの魔宝石で良いのに対し、魔導馬車となると親指大の石が必要になる。


 そしてそのレベルの魔宝石を削りだすのに必要な魔鉱石を得られる鉱山を所持しているのが我がジャックベリー公爵家。

 現代日本なら、石油が採れるようなものだ。

 いろいろとゲーム内で妹が強引に王子の婚約者になったりなんだり、無茶が通ったのも頷けるというか。


 ……なのに、妹は宝石刑に処されるんだよな。


 魔鉱石も採れる公爵家の娘が、王子の不興程度で。

 謎である。


 こんな事なら、王子ルートもやっておけばよかった。

 スチルは山ほど見せられたけれど、そこに到るまでのルートはほぼ不明。

 ヒロインを苛め抜いただけ、だと理由が弱すぎると思う。

 公爵家の娘が伯爵家のヒロインを苛めたところで大した問題ではないというか。

 いや、もちろん虐めは良くないし、俺もそれを肯定する気はない。

 ゲーム内のフォルトゥーナは情け容赦なくヒロインを苛めてたし、正直胸糞悪いレベルだったし。


 けれど、宝石刑にされるほどの事ではないというか。

 何をやって妹が命を奪われるほどの大罪になったのか。

 

 ……考えても分からないんだけどな。


 ふるっと頭を振って、本に視線を戻す。

 蔵書が多すぎて見つけるのに時間がかかったけれど、魔宝石の加工について載っている本だ。

 加工には魔力が必要らしい。

 名前に魔と付くぐらいだから、まぁ、想像の範囲内。

 魔力を操りながら、魔鉱石を魔宝石へと変えていくらしい。

 加工する魔鉱石の大きさによって、必要となる魔力も変わり、使用用途によって魔力の使い方も変わる。

 そして魔宝石の修理には魔力と魔鉱石が求められる。


 俺はまだまだ子供だけれど、魔力ならそれなりにあるほうだと思う。

 以前、俺の魔法教師であるジョシュア先生が「やはり公爵家ですね。魔力量が高い」と言っていたから。


 問題は……。


 アリアンヌのネックレスを懐から取り出してみる。

 魔宝石部分は五mm程度。

 本当に極小さいから、魔力はそれほど必要ないだろう。

 けれど逆に、不慣れな俺が適度に微力な魔力を扱えるかというと、正直自信がない。


 それと、魔鉱石。

 直す魔宝石と相性のいい魔鉱石が必要だとか。

 大抵はその魔宝石と同じ産地の魔鉱石が合うらしい。


 アリアンヌのネックレスに使われている魔宝石と相性のいい魔鉱石。

 つまり、魔宝石の産地を知らなければならない。

 十中八九ジャックベリー家の鉱山のどれかだとは思うけれど。


 お母様の形見、っていってたよな。

 そうすると、アリアンヌは産地なんて知らない可能性のほうが高いか?

 そもそも、アクセサリーを購入する時に魔宝石の産地なんて確認しないような気もする。


 とりあえず、アリアンヌに聞くだけ聞いてみるか。

 ……逃げられなければだけどな!












 俺がアリアンヌを探しに出ると、彼女は中庭の木陰でエルドールといた。

 エルドールは約束どおり、毎日彼女と食事を取っている。

 きっと今も、食事の後に違いない。

 

 ……俺といる時と違って、随分、笑顔なんですが?


 アリアンヌが箒を握り締め、心底嬉しそうにエルドールに話しかけている。

 話している内容までは聞こえないけれど、無表情なエルドールの顔がどことなく微笑んでいる気すらする。


 ……ふぅん。


「アリアンヌ!」


 なんとなく、俺は丁度死角の位置からアリアンヌを呼び止めた。

 どこからともなく聞こえた俺の声に、アリアンヌは思いっきり驚いて箒を落っことす。

 すかさずエルドールが箒を受け止めた。


 持っていたのがお皿だったら、確実に割っていたな。

 いや、エルドールがいるから、何枚皿を持っていようと即座に受け止めれるか?

 試す予定はないけれどね。

 ゆっくり、二人の下に歩き出す。


「ららら、ラングリース様、お呼びでしょうかっ」


 おろおろ、おろおろ。

 エルドールに向けていたのとはうって変わって、動揺しまくったペリドット色の瞳は大きく見開かれている。


 ふーん、ふーん、ふーん……。


「ららら、って歌でも歌っているのか。私の名前はララララングリースではなくラングリースだ」

「は、はいっ、ラングリース様っ」

「随分楽しそうだったが。何を話していた?」

「えっ」

「えっ、と話していたのか」

「ちちち、違います、えーと、えーとっ」

「ラングリース様、本日の昼食について話していましたが、何かお気に触る事でもありましたでしょうか」


 エルドールがアリアンヌの前に進み出る。

 

 むぅ。


「特に何もない。聞いただけだ」

「そうでしたか。失礼しました」


 家の食事は美味しいからな。

 同じものを食べているわけではないにせよ、素材もシェフも一流だし。


 ちなみに住み込みの場合は朝昼晩使用人達にも食事が支給される。

 通いの場合は昼食のみだ。

 そしてアリアンヌの場合は通いだけれど、きっちりご飯を食べてもらう為に朝夕もこちらで食事を取るように手配した。

 ちょっぴり、他の使用人達よりもボリュームアップも執事のセバスチャンにお願いしておいたしね。

 会話も弾むに違いない。


「あ、あのっ。お婆さまも美味しいって、言ってましたっ」

「お婆様?」

「はいっ。お婆さまはお母様のお母様ですっ」


 いや、それはわかるよ、うん。

 父方か母方かとか、そういう意味じゃないんだが。


「パンが大好きで、いつも持って帰っているんです。町のパン屋さんも美味しいのですが、ジャックベリー家のお料理はやっぱり特別ですねっ」

「持って帰っている? きちんと食べていないのか?」


 エルドールがついていながらそれはないはずだけれど。

 俺と目が合ったエルドールも、大丈夫ですと言うように頷く。


「いいえ、ちがいますっ。とってもいっぱいなので、どうしても食べきれないのです……。なので持ち帰れるパンを、エルドール様がお土産に包んでくれたんです」


 エルドールもこくりと頷く。

 

「夕食はブルスケッタとクロワッサン、それにライ麦パンもありますからね。一人で食べきれる量ではないでしょう」

「そんなにあったのか?」

「はい」

「毎回か?」

「はい」


 ……いくらなんでも多すぎるぞセバスチャン!

 確かに俺が多めにしてくれとは頼んだけれども。


 パン三種類に料理が数種類は出るはずだから、男でも食べきるのはきついんじゃないか?

 いや、まてよ。

 持ち帰えれる事を前提か?

 セバスチャンが手配ミスはまず無いだろうし。


「あ、あのっ、持ち帰るのは、駄目だったでしょうか……?」


 アリアンヌが不安そうに俺を見上げていた。


「いや、問題ない。是非お婆様にも家の美味しいパンを振舞ってくれ。お父様にも」

「はうっ。お父様は、えっと……」

「お父様はパンは嫌いなのか」

「い、いえっ、あのっ、お父様はいないのです。お母様が亡くなる前に、事故で……。なのでお婆さまと二人で、美味しく頂きますねっ」


 思いっきり、頭を木の幹にぶつけたくなった。

 アリアンヌは祖母と二人暮らしだったのか。

 だからか?

 小さいのに住み込みでなく通いなのは。

 

「食べきれないようだったら、無理に食べなくてもいい。パンだけでなく、持ち帰れる料理なら持ち帰るといいだろう」

「わぁっ、ありがとうございます!」


 にこっ。

 いままで見た事のない、子供らしい笑顔で俺を見上げるアリアンヌ。

 うん、怯えられるより嬉しいな!


「ところでラングリース様。こちらのほうへ何かご用事があったのでは?」


 っと、そうだった。

 さすがエルドール。

 大事な事を忘れるところだった。


「アリアンヌ、聞きたいことがあって探していたんだ。あのネックレスの魔宝石の産地は分かるだろうか」

「魔宝石の産地、ですか……? いいえ、存じ上げません」

「そうか……」

「ラングリース様。アクセサリーに使う魔鉱石なら、この辺りではマーケンを産地とするものが主流と思われます。あの町の鉱山からはアクセサリーに向く鉱石がよく採れますから」


 鉱石の街、マーケン。

 図書室に置いてあった地図で見た覚えがある。

 確か、ジャックベリー家の北方に位置する街だったはず。

 魔導馬車を使えば数時間で着くと思う。

 鉱石の街の中で一番ここから近い街だし、一度、確認しに行くのもいいかもしれない。

 幸い、魔宝石と修理用の魔鉱石の相性は簡単だ。

 本によれば、並べてみればすぐに分かるようだからね。

 よし。

 マーケンに行こう!

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『悪役令嬢の兄になりまして』一迅社アイリスNeo様書籍情報
2018/5/2発売。

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