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48)受験勉強


 冬が深まり、ウィンディリア王立学園の入学試験日が近付いてきた。

 アリアンヌは何とか受かりそうという夏の学力から、まあ大丈夫だろう程度まで学力がついてきている。

 フォルトゥーナと俺で毎回勉強を見ているしね。

 エルドールなんて、暇を見つけてはアリアンヌの為にわかりやすいように要点を纏めていたし。

 これで学力が上がらないはずがない。

 けれどアリアンヌに限っては油断大敵という事で、今日も図書室で勉強会を開いている。


 俺とエルドールとフォルトゥーナ、それにライリーとトリアンにアリアンヌ。

 いつものメンバーに、今回はジャスとレイチェルも一緒だ。


 ジャスとレイチェルは夏に露店を手伝ってもらってから、ちょこちょこ家に遊びに来てもらってる。

 レイチェルはアリアンヌと仲良しだし、俺はジャスにオリジナルアクセサリーの販売をお願いしたりしている。


 それで、アリアンヌの勉強をみているときに、二人も一緒にいることが増えたんだけど……。

 

 レイチェルはアリアンヌと違って、礼儀作法も勉強も余裕でウィンディリア王立学園に受かると思う。

 なんで完全に平民なレイチェルのほうが、なぜ公爵家に勤めているアリアンヌよりも出来るのか。

 持って生まれた才能なのか。

 レイチェルがいまもアリアンヌが間違えた神様の名前を訂正してあげている。

 普通、逆になりそうなのに。


「今更神様の名前を間違うかー?」

「あうぅ、混乱するのですよぅ……」

「うんうん、ボクもその気持ちはわかるよ。神様の名前自体は覚えれても、どの月の神様かわからなくなっちゃうんだよね?」

「まぁ、アリアンヌ、そうですの?」

「はい〜。神様の名前もいっぱいで、月の名前もいっぱいなのですよ〜」


 神様の名前は確かに多いよね。

 似たような名前の神様もいるし。

 信仰心熱いわけでもなければ、本来なら俺もスルーしたい。

 でも魔法を扱うのに最初に学んだのが各神様に祈る呪文だったから、覚えるしかなかったんだよね。

 

「アリアンヌ、月の名前は多くはありません。十二ヶ月しかないのですから、落ち着いて見直すと良いでしょう」


 エルドールが言いながら、アリアンヌがテーブルに広げた単語帳をめくる。

 自分で作ってあげた単語帳だからか、エルドールは神様の名前と月が書かれている部分を一度で開いた。


「このページから、十二枚分が神様と月の関連です。今アリアンヌが間違えたのは、三の月のスヌーヤと、一の月のヌーヤです」

 

 説明するエルドールにジャスも頷く。


「去年の俺達の入学試験でも出たから、多分今年も出るだろうな」

「覚えるのってそんなに難しいかー?」

「そういうライリー様は全部いえるのです?」

「愚問だな」


 くくっとライリーが笑う。

 まぁ、十二の月の神様を言えなかったら、貴族としてちょっと恥ずかしいよね。

 すべての呪文に関する神様の名前といわれたら、俺も怪しいけど。


「スヌーヤが初めと終わりの神様で三の月で、ヌーヤが一の月で時間を司って……」

「「「「違うから」」」」

 

 口調こそ違えど、全員の突込みが入った。


「アリアンヌちゃん、ヌーヤが一の月なのは合ってるけど、時間を司ってるのはスヌーヤなんだよ」

「さっきもリプアが二の月とか間違っていたよな」

「リプアはよく聞く女神だろう? 何と間違ったんだろう」

「ピテルでしたね。ピテルは五の月ですよ」


 口々に訂正する俺達に、アリアンヌは涙目で呻いている。

 あーこれ、本当に心配だな。

 領地の名前は覚えれているし、読み書きも計算もある程度出来るようになったし。

 何故いまだに十二の月の神様を間違えれるのか。

 基本の『き』、くらいの基礎勉強だ。


「どうしたらアリアンヌちゃんが混乱せずに覚えれるんだろ」

「色々覚えようとしすぎて、混ざってくっついて覚えちまった感じだね」

「あぁ、あれだよ」

 

 ライリーが、思い出したというようにアリアンヌに向き直る。


「領地覚える時にラングリースが言ってたじゃん? ヴァイマール領なら『ヴァ』、ジャックベリー領なら『ジャ』で頭文字で覚えていけって」

「覚えているのですよ〜。領地の名前は多分大丈夫なのです〜」

「それの応用でさ? 俺達の誕生日と結びつければよくね?」

「っ、それなら覚えれそうな気がするのですっ」

「ちゃーんと俺達の誕生日は覚えているかー?」

「もちろんです、ラングリース様が二の月、フォルトゥーナ様が十二の月なのです〜」

「俺は、『俺達』と言ったんだけど?」

「……え、えっとぉ、ライリー様は、えっと……」


 アリアンヌ、ライリーの誕生日を忘れてるな?

 俺に目線で助けを求めても、もうライリーにばれてるからね?


「アリアンヌ、ライリー様は九の月ですわ。ジャス様は五の月でしたわね」

「フォルトゥーナ様が俺の誕生日をご存知だなんて」


 驚くジャスに、フォルトゥーナはふんわりと微笑む。

 多分フォルトゥーナは歳の近い貴族の子女子息の誕生月を覚えているんじゃないかな。

 お茶会もだけど、誕生パーティーによく招かれたりもするしね。

 俺は仲良くないと覚えていないんだけどね。

 つまりほとんど覚えていないんだけどな!


「じゃ、じゃあ、ライリー様が九の月でアイマで、豊穣を司り、フォルトゥーナ様はリプアで美の女神で、あ、覚えれそうです〜」


 魔宝石のはめ込まれたペンを必死に握り、アリアンヌが一生懸命にノートに書き込んでいく。

 

「アリアンヌ、何度も言っていますが、ペンを握り締めてはいけません。余分な力が入り、手が疲れてしまいます」


 万年筆を小さな手でぎゅうっと握るアリアンヌに、エルドールが自身の万年筆で持ち方の見本を見せる。

 フォークやナイフを握るような感じでアリアンヌは万年筆を持っちゃうんだよね。

 かえって書き辛いように思うんだけど。


「アリアンヌちゃん、ガラスペンを使ってみる?」

「ほぇ?」


 レイチェルが鞄から細長い木箱を取り出し、中に収められていたガラスペンを取り出す。

 レイチェルの瞳のようなパロットクリソベリルカラーの魔宝石と、紺色の魔宝石が埋め込まれていて、所々捻りの入ったデザインは繊細で美しい。


「美しいガラスペンですね」

「でしょ? フォルトゥーナ様から見てもやっぱり綺麗なんだね。ボクの宝物なの」


 フォルトゥーナに褒められてちょっと照れつつ、レイチェルはアリアンヌにガラスペンを持たせる。

 ガラスペンの重みが丁度良いのか、いい具合に角度がついて、万年筆よりもマシな持ち方になった。

 

「書きやすそうかな」

「うんうん、楽なのです〜」


 すいすいとノートに書き写していくアリアンヌは、かなり嬉しそうだ。

 

「エルドール、ガラスペンの在庫はあっただろうか」

「すぐに手配させていただきます」


 エルドールは一礼して図書室を出て行く。

 在庫がなくても、すぐに取り寄せてくれるだろう。

 多分普通のガラスペンなら沢山ありそうだけれど、言わなくても魔法のガラスペンを持ってきてくれるはず。

 アリアンヌの場合、普通のガラスペンだとインクを零しそうだからね。

 魔宝石のはめ込まれたタイプなら、インクをつけずとも魔宝石の魔力が切れるまで使い続けれるし。


「そのガラスペンちょっと貸してくんない? アリアンヌには代わりに俺のガラスペン貸すから」

「ライリー様のガラスペンも綺麗だね」


 トリアンが予備のガラスペンをアリアンヌに渡し、レイチェルのガラスペンをライリーが手にとる。

 ライリーのピンクがかった赤い瞳が、じっとレイチェルのガラスペンを見る。

 その様子を、ジャスがなんだか落ちつかない様子でそわそわと金の瞳を彷徨わした。

 なんだ?


「ふぅん……」


 ライリーはガラスペンをそっとなぞり、指先で器用にくるっと回した。


「なぁ、レイチェル。このガラスペン、誰に貰った?」

「それはね、お母さんの形見なんだよ」

「えっ。お母様、亡くなっていたのか?」


 驚く俺と同じように、フォルトゥーナも小さな口に手を当てて、息を飲む。

 余りにもあっさりと言うものだから、まるで他人事のようだ。


「あ、ラングリース様目がまん丸。うんうん、実はそう。ボクが小さいときにね。すっごく優しいお母さんだったんだよ?」

「さぞ、お辛かったでしょうね……」

「あっ、フォルトゥーナ様、そんな悲しそうな顔しないで? 確かにお母さんが亡くなっちゃった時はいっぱい泣いたんだけどね?

 ボクにはお父さんが居るし、ジャスも居るし! みんなもいるしっ」

 

 わったわったと手を振りながら慌てるレイチェルからは、悲しい気配は感じられない。

 悲しくないわけはないのだろうけれど、自分の中で、きちんと大切な思い出として胸にしまっているのだろう。


「そうか。変な事を聞いて悪かったな。これ返すわ」

「ううん、気にしない」

「そのガラスペン、普段も使っているのか?」

「普段は万年筆かな? たまに使いたくなって使うけど」

「ならさ、学園では使わないほうがいいかもな」

「えっ、ガラスペンの使用が禁止だったのかな?」

「いや、このデザインかなり綺麗じゃん? 学園だと結構イイ性格の貴族居るしさ。貴族でなくとも変な奴に絡まれたくないだろ」


 確かにね。

 レイチェルは平民だから、貴族に目をつけられるとやっかいだよね。

 通常魔宝石は万年筆やガラスペンには一つだけついているデザインが多いけれど、レイチェルのガラスペンには二個ついている。

 よくよく見れば、持ち手の部分にもガラスに細かな模様が掘り込まれていて、繊細で美麗だ。

 平民の持ち物を妬んで取り上げる貴族も居るかもしれないし、分不相応だと因縁つけられないとも限らないし。

 俺やライリーが側にいればすぐに止めるけどね。

 形見というかけがえのない品物なら、最初から見せないほうが無難だよね。

 

「じゃあ、使わずにお守りとして鞄にしまっとくんだよ」


 愛おしそうにガラスペンを撫でて、レイチェルは木箱にしまい、鞄に片付ける。

 ジャスがほっとしたように思えたのは気のせいだろうか。


「あの、アリアンヌさんにお伺いしたいのですが」


 トリアンが、おずおずと手を上げる。


「なんでしょう〜?」

「アリアンヌさんは、魔法は使えるのですか?」


 アリアンヌをみると、アリアンヌは小首をかしげている。

 おいおいおい、自分のことだろう。


「基本的な魔法は使えるだろう?」

「たぶん、使えるのですよ」

「まった。多分って何だよ。生活基礎魔法は当然として、軽い攻撃呪文か防除呪文、結界系は出来るんだろう?」

「えっとぉ……」


 アリアンヌは小首をかしげたままだ。

 まさか。


「アリアンヌ、正直に答えてくれ。基礎魔法は、分かっているのか? それすらも分からないのか?」

「よくわからないのですよ〜」


 ライリーがきつく目を閉じて、トリアンが「やっぱり」と呟いた。


「魔法を扱う上で、最初に神様の名前と属性で呪文を習うはずですよね。なのに、これほどに覚えていらっしゃらないとなると、そもそも魔法を覚えていないのではないかと思いました」


 いやいやまてまて。

 この期に及んでまさか魔法が使えないとか。

 そんなオチ、ないよな?

 無いって言ってくれ!


「アリアンヌ、以前私が魔鉱石に魔力を使っていたとき、アリアンヌも魔法を使おうとしただろう?

 それはつまり、魔法を扱えるということではないのか?」

「みなさまがむむむーっと意識を集中してらしたので、わたくしも真似てみたのですよ〜」


 ……つまりそれは、魔法を使えないのに、みんなの真似をしてみただけ、という事か?!


「実技の授業では、危険なので先生と二人で授業を受けることが多いですよね。

 なので、もしかしたらアリアンヌさんはきちんと授業を受けていないのではと思い当たったのです」

「エルドール、ウィンディリア王立学園の入学試験は、学力だけでも受かるかだろうか……」

「学力が著しく高ければ可能性はありますが、通常、魔法がまったく使えない状態では、難しいかと存じます」


 エルドールもかなり困惑しているようで、少し青ざめて見える。

 こんなに頑張って勉強しているのに、アリアンヌは落ちてしまうのか?!


「えっ、えっ? 勉強だけでは駄目なのです? みんな、魔法が使えるのです?」

「アリアンヌちゃん、落ち着いて? ボクは光系の魔法が向いてる感じだったけど、アリアンヌちゃんは何系かな。魔力自体はあるんだよね?」

「多分、あると思うのです〜。ランプは灯せるのですよ〜」

「ランプが灯せるという事は、光か火の属性は操れるって事か」

「光じゃないかな? ランプだと、火よりも光のイメージが強いんだよ」

「ランプが灯せるだけじゃ詰んだろ、これ」

「ライリー、投げ出すのはまだ早い。入学試験までに何とか使える魔法を増やそう」

「魔宝石に魔法を込めて使うって言う手段もあるし、それだとマーケンの街に戻れば魔宝石の入手は簡単だ」

「その方法だと、魔宝石に魔法を込める必要があるだろ。アリアンヌの扱いやすい系統の魔法じゃないと、危険が伴うぜ」

「わたくし、クレディル先生に授業と魔宝石への呪文封入をお願いしてみますわ」

「フォルトゥーナ、私もジョシュア先生に頼んでみよう。私たちと一緒に授業を受ければ、攻撃、防御、補助のどれか一つぐらいは間に合うのではないか」


 入学試験まで一ヶ月あるかないか。

 ぎりぎり無理かもしれない、いや、まず無理だろう。

 でも、ずっと頑張ってきたんだし、アリアンヌの為だけじゃなく、応援してきたみんなの為にも最後まで諦めたくない。

 魔宝石に魔法を込めるのと、アリアンヌに向いている魔法をどうにか取得してもらうのと。

 ぎりぎりまで足掻いてみせる。

 

2017/04/13

 全体的に、年齢を引き上げようと思います。

 +5歳程度の予定です。

 今月中に改稿できればと思うのですが……。

 改稿が終わりましたら、活動報告でもご報告させて頂きます。

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