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24)入学式

 

 春が訪れた。

 冬に十二歳の誕生日を迎えた俺は、晴れてウィンディリア王立学園に通うことになった。


 エルドールに制服のネクタイを締めてもらうと、自然と背筋が伸びる。

 やっぱり制服っていうのは、気持ちが切り替わるよね。

 

 ウィンディリア王立学園の制服は、男女共に黒を基調としている。

 初等科、中等科、高等科に分かれており、それぞれ制服のデザインが変わっている。

 初等科の制服は男女共にほぼ同じで、スカートかズボンかの違いだけだ。

 セーラー襟のブレザーで、襟の先に各家の紋章を刻んだメダルが揺れている。

 平民の場合はこのメダルが無く、貴族の制服よりも装飾が質素だ。

 けれど貴族の家に仕えている使用人の場合は、胸元に各家の紋章を刻んだバッジを身につけている。

 胸元は大きく開いていて、中に白いシャツを合わせ、首元にネクタイを結ぶ。

 女の子は中の白いシャツをフリルいっぱいのものを選ぶことが多いかな。

 襟を大きくして、セーラー襟に重ねたりね。

 俺は極力質素にお願いしたので、フリルはかなり控えめだ。


 玄関前で待つ高速魔導馬車に、エルドールと共に乗り込む。

 すぅっと滑らかに馬車が走り出した。

 

「エルドールと同じ制服でもよかったのにな」

「お戯れを。平民の制服を着ることなど冗談でも仰らないで下さい」

「デザインがゴテゴテしていて、着づらいのだよ」


 フリルは減らしてもらったけれど、もともとの制服が装飾過多なのだ。

 特にボタンに飾られた細かい鎖の装飾が一つずつ外さないと脱ぎ着出来ない。

 エルドールが着ている平民用の制服は、細かな刺繍はあるものの、ボタンとボタンを繋ぐような鎖は無い。

 

「ラングリース様が平民と間違われては、大変ですから。どうか我慢してください」

「わかってる。無理やり鎖をはずしたりはしないよ」


 ウィンディリア王立学園では、平民も貴族も一緒に学ぶ事になる。

 クラスは当然違うけれど、平民が貴族に混じるとどうなるか。

 国が認めていても、気位の高いご子息ご令嬢の餌食になるのは目に見えているというものだ。

 学園内では身分関係なく平等がうたわれてはいるけれどね。

 公爵家の俺を平民と間違えて罵れば家同士の問題に発展する事は想像に難くない。

 うっかり平民がタメ口をきいてしまったりとかね。

 わざわざ自分からトラブルを抱え込む必要はないだろう。


 ……体形的にまず間違えられることは無いけどな!


 ジャックベリー家のデブのラングリースの名は、入学前から貴族の間には完璧に広まっているからね。

 お茶会にあまり出ないとはいったってこの体形だ。

 一度見ればまず忘れないよな。


 高速魔導馬車が、大型魔導馬車を追い越してゆく。

 大型魔導馬車の窓から見える乗客は、ほとんどが皆、ウィンディリア王立学園の制服を着ていた。

 エルドールと同タイプの制服だから、平民なのだろう。

 王都へは、各領から定時の大型魔導馬車が出ている。

 大抵の平民はこの馬車に乗って学園に通うのだ。


 ただし、エルドールのように貴族に仕えている平民は、各貴族の家から個別の馬車に乗り、通っている。

 ウィンディリア王立学園に通える事は一種のステータスでもあるからね。

 制服やら入学資金やらは、仕える貴族の家が支払っている場合が多い。

 ジャックベリー家の使用人もほぼ大半がウィンディリア王立学園に通っているか、卒業者だ。

 毎日通わなくてもいいので、仕えながら学べるしね。


 大型魔導馬車がはるか遠くに見えなくなり、かわりに王都の城門が見えてくる。


 ここからでも、学園はもう見えるのな。


 貴族はもちろんの事、平民も通うウィンディリア王立学園は、城よりも大きい。

 細く高く塔の様に空を突き抜けている。


 入都手続きをしていると、ヴァイマール家の馬車が横に並んだ。

 窓際からライリーが軽く手を上げる。

 それに答えて、俺も軽く手を上げる。

 本当は今すぐ窓を開けて喋りたいぐらいなんだけれどね。

 周囲の目もあるから我慢我慢。


 王都の門をくぐり、学園まで馬車を走らせる。

 学園の前に降り立つと、改めてその大きさに目を見張る。

 見上げる学園の先端が遠く霞むよう。


 学園の使用人達に促されて、俺とエルドールは魔法陣が描かれた床の上に乗る。

 使用人が合図をすると、すぅっと魔方陣に光が走る。


 フィン……と静かに音を立て、魔方陣が描かれた床が上昇し始めた。

 地上がぐんぐん遠ざかり、空が近づく。

 白い小鳥達が舞い飛び、学園の最上階へ一瞬で着いた。

 既に何人もの新入生が講堂に集まっていた。


「ラングリース様、新入生の控え室はこちらの講堂になります」

「ありがとう、エルドール」


 案内してくれたエルドールとは、ここでお別れだ。

 これから一緒に学園に通えても、クラスが違うのが少し寂しい。


「何かありましたら、すぐにリングで呼んで下さい」


 俺とお揃いの魔通話リングを見せ、エルドールは自分のクラスへと去ってゆく。

 入れ違いにライリーが来た。

 いつも側に仕えているトリアンがいない。


「トリアンはもう自分のクラスへ?」

「あぁ。この場所はわかってたからさ。来るの二回目だしね」

「えっ、二回目?」

「そ。兄貴が入学する時に忍び込んだからさ……」

「あー……」


 二年前の事だった。

 ライリーの兄上が学園に入学するので、それにライリーはくっついて行ってしまったのだ。

 当然、本来は一緒に行く事などできない。

 けれどライリーはこっそりヴァイマール家の高速魔導馬車に忍び込み、そのまま兄上と学園へ。

 馬車の中で見つかってしまったけれど、途中で返すにも馬車がない。

 兄上達はライリーを連れたまま学園の入学式に挑んだとか何とか。

 行動派のライリーらしいというか、兄上ご愁傷様というか。


 話している間にも、次々と新入生達が講堂に入ってくる。

 平民は別の場所なのかな?

 皆、貴族の制服を着ている。


 しばらく話していると、不意に、天井が開きだした。

 左右にしまわれるようにドーム状の壁が消えてゆき、ガラス張りに変わる。

 頭上いっぱいに青空が広がった。


 講堂の前方に一段高く舞台があがり、教壇の上のランプに光が灯る。


「そろそろ始まるぜ。今回もアレがあるといいな」


 綺麗なんだぜと悪戯っぽく笑って、ライリーが姿勢を正す。

 ウィンディリア学園、学園長アダンブールが舞台に現れた。

 長いローブをまとい、杖を振る。

 ざわついていた周囲がぴたりと静まった。

 学園長の後には、教師陣が並んでいる。


 あ、攻略対象のベネディット先生もいるのか。

 

 ベネディットはウィンディリア王立学園の魔法教師の一人だ。

 ゲーム内では片眼鏡をかけて、紺色の髪を長く伸ばしていたけれど、いまは肩につく程度だ。

 神経質そうな雰囲気はそのままに、ちょっと若く感じる

 ゲーム開始時点が数年後だから、当然といえば当然かもしれない。


「新入生の諸君、入学おめでとう。諸君は本日より、晴れてウィンディリア王立学園の生徒となりました……」


 学園長の話が長いのは、どこの世界でも同じらしい。

 退屈でつまらないのも。

 だんだん眠たくなってくる。


「そろそろだぜ、しっかり見とけよ」


 ライリーが合図してくる。

 何があるのだろう?

 首を傾げた瞬間、学園長が杖を大きく振りかざす。


「新入生に、沢山の祝福を!」


 ガラス張りの天井から、沢山の光が降り注ぐ。

 きらきらと光の粒が踊るように講堂に舞い降りる。

 それに合わせて講堂に飾られていた花々から、花びらが次々と生まれて光と共に降り注いだ。


「な? 綺麗だろ」


 ウィンクするライリーに俺はこくこくと頷く。

 舞い散る花びらを一つ摘まむと、ふわりと香りを残して消え去った。


「これも魔法なのか」

「混合魔法だよ。光と風、それとあと一つはなんだろうな」

「わからないけれど、ずっと見ていたくなるね」


 来年はフォルトゥーナもこれを見るのだろうか。

 光と花びらに祝福されるフォルトゥーナは、綺麗だろうな。


 入学式が終わったあとは、オリエンテーションだ。

 クラスごとに、学園を見て回ることになっている。

 学園は見ての通り、広いからね。

 オリエンテーションをしても、しばらくの間は学園地図を手放さないようにしたほうがいいかもしれない。


 講堂の出口に張られたクラス分け名簿を見る。


 ふむふむ、ライリーは一緒か。

 あー、シュレディ=パフェリア侯爵令嬢もか。

 こちらから何もしなければ寄ってこないかな?

 

 そんな風に名簿を見ながら、俺はとある一点から必死に視線をそらす。

 だってそうでもしないともう、俺は正直叫びたい。

 

「ラングリースとライリーも同じクラスなんですね。これから一年、よろしくおねがいします」 

  

 っつ!


 叫ばなかった俺は、本当に頑張ったと思う。

 俺が必死に名簿から目をそらしていた名前。

 

 ハドル=インペリアル=ウィンディリア王子。


 妹を破滅に導く張本人が、目の前に立っていた。


2016/10/14

 いつも悪役令嬢の兄になりましてを読んで頂き、ありがとうございます。

 ずっと非公開にしておりましたが、


『方向音痴のわたしが異世界で迷宮に生まれ変わってしまった件』

 http://ncode.syosetu.com/n4824df/


 連載再開させていただきます。

 悪役令嬢の兄とはまた少し違う、方向音痴の女子大生が迷宮そのものに転生してしまったお話です。

 もしよかったら、こちらも読んでいただけると嬉しいです。


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『悪役令嬢の兄になりまして』一迅社アイリスNeo様書籍情報
2018/5/2発売。

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