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15)盗賊団黄昏の空

「誘拐犯を、一匹残らず捕まえろ!」


 盗賊団『黄昏の空』を名乗った少年は、手下と思われる屈強な男達に命じる。

 黄昏の空ってことは、ジャス=レウルか?

 攻略キャラの一人で、盗賊団『黄昏の空』頭領の息子だ。

 ジャスは月明かりに照らされた髪は赤く、金色の瞳は好戦的で、自らも短剣を繰り出して盗賊団に嬉々として切り込んでいく。

 

 固唾を呑んで見守っていると、不意に、荷馬車に誰かが乗り込んできた。


「みんな、無事っ?」

「えっ、レイチェル?!」

「無事だねっ、早くここから逃げるよっ」


 坑道の中で別れたレイチェルが、勢いよく俺達の手を引く。


「って、あれ? ライくんは? キミはリースくんで間違いない、よね?」

「俺俺、俺だよ俺」


 戸惑うレイチェルに、ライリーがクククッと笑う。


「えっ。ライくんなの? ぜんぜん違うよね、でも声は一緒だし?」

「変化の術で変装してたんだよ。ちょっと諸事情でさ。だから全員無事。とりあえず逃げようぜ」


 エルドールとトリアンは変装していなかったけれど、俺とライリーは変装してたからね。

 分からなくても無理はない。


 ……俺の事は体型的にほぼ一発でばれてたけど、気にしない気にしない。


 何でレイチェルがここにいるのかとか、黄昏の空との繋がりとか。

 レイチェルに聞きたいことは色々あるけれど、とりあえずいまはここから離れよう。


「こっち!」


 荷馬車からこそっと降りて、レイチェルの手引きで岩陰に隠れる。

 少し離れた場所では、盗賊団と誘拐犯が激しいバトルを繰り広げている。

 盗賊団のほうが数が多く、明らかに優勢だ。

 もう少しで決着がつくだろう。


 ずっと麻袋に入れられて荷台で揺らされていたから分からなかったけれど、ここは荒地だったようだ。

 砂漠とまでは言わないけれど、草木が少ない。

 足元の地面も渇いた砂で、土地自体が痩せているんじゃないかな。

 岩山が多いから、隠れたりはしやすいけれど。

 マーケンの町からはどのぐらい離れているんだろう。

 

「うぉっ、ガキ共がいねぇ!」


 ふいに誘拐犯が叫んだ。

 空の荷馬車に呆然としている。

 その直後に盗賊団の一人が誘拐犯を押し倒し、そのまま縛り上げた。


「うんうん、人質を盾に取るのは定番だからね」


 俺の隣でレイチェルがご機嫌に頷いている。

 そうか、だから俺達を荷馬車から離したのか。

 魔法の使えない俺はほんと、ただの肉団子だからね。


「終わったようですね」


 誘拐犯が全員、盗賊団に縛り上げられた。

 猿轡もきっちり噛まされているのをみると、ちょっと可哀想だけれど、自業自得。

 蹴られた腹は正直まだ痛むからね。

 あまり同情は出来ない。


「よーしっ、全員荷台にブチ込め! 王都に突き出してやるぜっ!」


 意気揚々と、ジャスが部下に指示をする。

 王都に突き出す?

 盗賊が?

 え、それ、盗賊団も捕まらない?


「大丈夫なんだよ? ジャス達はね、王国に認められた盗賊団なんだから」

「ウィンディリア公認の盗賊団ってやつだな。その土地の自警を任されるかわりに、ある程度の窃盗行為も見逃されてるやつ」

 

 ……マジか。

 公認しちゃっていいのか、盗賊団を。

 でも確か、黄昏の空は義賊系だったと思う。

 殺しはしないし人身売買もしない。

 真っ当な盗賊団だったと思う。

 ……盗賊団な時点で、真っ当という言葉もどうかとは思うけれど。


 部下達に誘拐犯を荷馬車に乗せさせたジャスが、周囲をきょろきょろと見渡す。

 そんな彼にぱっとレイチェルが岩陰から飛び出して、ジャスに駆け寄った。


「ジャスっ、ありがとー!」

「おうっ、間に合ってよかったぜ」


 へへんっと、金色の瞳を嬉しそうに細めるジャス。

 俺達もいそいそと岩陰からジャス達に歩み寄る。

 エルドールがスッと一歩前に進み出た。


「この度は助けて頂き、ありがとうございます」


 深々と頭を下げるエルドールに習って、俺も慌てて頭を下げる。

 そうだった。

 盗賊団だろうとなんだろうと、助けてもらったのにお礼を言っていなかったよ。


「いやいや、お礼言うのはこっち。レイチェルの親父助けてくれたんだって? 俺達、みーんなレイチェルの親父さんには世話になってるからさ」

 

 へへっと照れくさそうに頬をかくジャスは、瀕死の重態の時にたまたま通りがかったレイチェル親子に命を救われたのだとか。

 レイチェルのお父様は随分と治癒魔法に長けているんだな。

 正直、貴族に仕えていてもおかしくないぐらいの腕前じゃないだろうか。

 

「なぁなぁ、レイチェル? お前なんで、俺達が捕まったの分かったんだ?」

 

 ライリーの言葉にハッとする。

 そうだ。

 鉱山の中のみんなは?

 鉱山魔術師は?

 

「ライくん達が穴に落ちちゃったあと、ボクは言われたとおりに鉱山のみんなと合流したんだよ。

 でもすぐに、鉱山の中に轟音が響き渡ったでしょ?

 下のほうからゴゴゴゴゴゴッ、って。

 ボク、いてもたってもいられなくて、ボクだけ先に、入った入り口から外に出てきたんだよ」

「轟音……あの時か」


 トロッコが暴走して、止めれなかった時。

 あの時は焦っていて音なんて気にもしていなかったけれど、坑道の中を走り抜ければ反響してかなりの騒音が出ていたに違いない。

 

「外に出たボクは急いで北側の入り口に走ったんだ。

 そしたら、丁度、みんなが出てくるところだった。

 声をかけようとしたら、誘拐犯がいたから、ボクは身を隠したんだよ」


 なるほど……。

 レイチェルが無謀にも飛び出してきたりしなくて良かった。

 じゃなかったら、レイチェルも捕まっていたに違いない。

 子供にも情け容赦なかった誘拐犯達が、女の子だからって見逃してくれるとも思えないしね。

 

「誘拐犯がみんなを連れ去った方角を確認して、ボクは助けを探したんだ」

「丁度、俺達が魔鉱石を買いにマーケンに立ち寄ってたんだよな」


 レイチェルの言葉にうんうんとジャスは頷く。

 偶然に感謝だ。


「鉱夫の皆様はご無事でしょうか」

「うん、エルくん。みんな無事なんだよ。エルくんの家の鉱山魔術師凄いね? たった一人で鉱山の落盤を止めたり岩を消し去ってくれたんだよ」

「そうでしたか。安心いたしました」

「でも……」

「でも?」


 レイチェルが、チラッと俺を見る。

 なんだ?


「ジョシュアさん? リースくんの事を聞いて、ものすっごく、怒ってたんだよ……」

「げっ」


 貴族にあるまじき擬音を発してしまった。

 俺の魔法教師であるジョシュア先生は、凄腕だ。

 それは間違いない。

 けれどそれ以上に神経質なのだ。

 仕事に対してビシッとしているというか、し過ぎているというか。

 公爵家の三男である俺にも情け容赦なく厳しいのだ。

 家庭教師は、ある程度の身分違いは保障されている。

 どういう事かというと、ジョシュア先生は伯爵家の出身で、公爵家の俺よりも身分的には下だ。

 そのままでは、俺が黙れといえば黙らなければならないし、叱る等はもってのほかになる。

 けれど家庭教師であるのに指導できないのではどうしようもない。

 なので、家庭教師は教える子供達よりも上の身分として扱われるのだ。


「……ライ」

「無駄だぜ? 変化の術でもすぐにばれるだろ」


 俺が何を言いたいのか即座に理解したライリーが、絶望的な言葉を返してくる。

 あぁ、そうでしょうとも。

 レイチェルにだって一瞬でばれたんだから、ジョシュア先生にばれないはずが無い。

 

「エル」

「お助けできかねます」

「どうにかならないか?」

「残念ながら。すぐ後にいらしていますので」

「え」


 咄嗟に振り返る。

 いた。

 マジでいた!

 ジョシュア先生の後ろには魔導馬車が控えている。

 鉱山のみなを助けたあと、即座に魔導馬車であとを追って来たんだろう。

 待っててくれてよかったのに!


「ジョシュア先生……」

「なんですか。その絶望的な顔は。もっと喜んでいただけても良いと思いますが。緊急の呼び出しに即座に応じたわたくしへの対応がそれとは、まったく嘆かわしい限りです」


 眼鏡を外し、涙を拭うふりをするジョシュア先生。

 でも少しも悲しそうじゃないぞっ。


「がんばれよー」


 他人事のように言うなよライリー!

 

「あぁ、安心してくださいね? 貴方もトリアンさんも、みんなまとめて面倒を見て差し上げますから」

「は?」


 クククッと、悪戯っぽく笑っていたライリーが固まった。

 トリアンはぶんぶんと首を振って拒否している。


「ご実家のほうへはわたくしが連絡を入れておきましょう。もともと、三日間泊まる予定だったのでしょう? ならば今日から二日間、みっちり、わたくしが面倒を見て差し上げます」


 フフフフフと笑うジョシュア先生。

 一体俺達は何をやらされるんだ?

 厳しくて嫌で嫌で逃げ回っていた過去を思い出す。

 授業をサボったあとは、必ず倍の宿題やらなにやらやらされたのだ。

 騒ぎを起こした俺達に、一体どんなみっちりが待っているのやら。


「リースくんたちって、お貴族様だったのかな?」

「今頃かよ」


 ことりと首を傾げるレイチェルに、ジャスが苦笑する。

 あれだけ散々魔法を使っていれば、ばれない方がおかしいよな。

 誘拐犯にいつ目をつけられたのか。

 なぜあの出口に待ち伏せされたのか。

 理由は分からないけれど、目立ちまくったのが悪かったんだろう。


「……もう、あえないのかな……ううん、会えないのでしょうか?」


 丁寧に言い直したレイチェルの、パロットクリソベリル色の瞳が寂しげに霞む。

 

 あぁ、そうか。

 俺達が貴族だと、もうこんな風に喋る事も、会うこともままならないのか。

 気軽に遊びにおいでと誘う事もできない。

 平民の彼女達が公爵家に遊びに来たとしても、まず通してもらえないだろうから。


「また来るよ、俺達は。なっ、ラングリース!」

「命の恩人だしね」


 偽名をやめたライリーに、俺は大きく頷いた。


「ならば、レイチェルさんとジャスさんの面倒も、わたくしがみましょう」

「「それだけはやめてっ!!」」


 フフフと笑うジョシュア先生に、全員の悲鳴が重なった。


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