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7.地属性でゴーレムは作れるか

 【地の勇者】ドリスは粘土細工で鮭を咥えた熊を作っていた。

 鼻歌交じりに毛並みを刻み、耳の形を整える。

 ナイフの先で瞳を入れると、軽く頷き、熊の頭に右手を乗せる。


「無歪めば有へと転じ、有歪めば新たな理を為す。【気狂い傀儡(マッドドール)】」


 魔術の行使と共に、熊は後足で立ち上がる。

 そのまま、(おもむろ)にシャドーボクシングを始めた。


「これ、鮭の方は動かないの?」


 熊を四方から観察しながら、【大陸一の賢者】は尋ねる。


「動きますよ。ほら、リリース!」


 ドリスの指示に従って熊が鮭を放り捨てると、土床に落ちた鮭は元気よく跳ね回り始めた。


「地面に触れてないと、魔力が供給できないんですよ」

「なるほどなー」


 土人形(クレイゴーレム)石人形(ストーンゴーレム)を操ることができれば、戦略の幅が広がる。単純な力押しから、単純な物量押しまで、目白押しだ。


 相手が【地属性以外完全無効】の風の四天王でも、地属性ゴーレムによる肉弾戦なら、物理攻撃ではなく地属性攻撃と認識されるだろう――という、常ながら見切り発車の計画だった。

 しかし、攻撃が通る通らない以前に、有線でなければ動かせないというのでは、籠城されればどうにもならない。


「壊しちゃう前の普通のお城なら石造りで、【死刺の絨毯(デスカーペット)】なんかも使えましたし」


 初めから賢者に頼っていれば。ドリスは大きく嘆息する。


「君の魔術っていちいち名前が物騒だよね」

「強そうな名前の方が、強そうじゃないですか」


 頭悪そうな主張だな。賢者は内心に呟いた。

 女性に年齢を聞くものではないが、そういうネーミングの好きな年頃なのだろう。


「なんです? 馬鹿にしてます?」

「してないよ」


 そんなことより、まずは仕様の検証だ。


 賢者が鮭を拾い上げると、鮭は背骨を捻った姿勢で動きを止めた。頭の先を土床につけると軽く跳ねて、床から離れた途端にまた止まる。


「なるほど」


 踵で床の土を少し削って摘み、鮭に振りかける。鮭は一瞬身じろぎし、再び停止した。


「ふんふん」


 床に上着を脱いで床に広げ、鮭を転がす。土床からラインを伸ばすような形で砂をかけると、鮭は元気よく跳ね始めた。

 要は、地面と繋がった土に触れていればいいのだ。


「さっき熊にリリースって命令してたけど、これ音声操作なの? 今跳ねてるのは自動だよね」

「基本は命令に従って自動で動きますよ。逐一命令変更すれば、手動操作もできますけど」

「分裂しろって命令してみて」

「分裂しろ!」


 鮭は三枚おろしになった。

 自分に出来る範囲で努力をするのは好感が持てる。賢者は、ゴーレムへの評価を一段階上げた。


「命令変更って制限とかあるの? 声の聞こえる範囲とか、目視してないと駄目とか」

「えー、試したことないですけど、魔力だけ届けばどうとでもなりますよ」

「どのくらいまで届くの?」

「山二つ分です」


 山二つを越えた距離、ということらしい。

 自動操縦については距離も術者の生死も関係なく、土に触れてさえいれば半永久的に動作する。それが一般的なゴーレムの性能なのか、勇者の魔法が特別なのか賢者には判断できなかったが。


 ともあれ、仕様がわかれば、出来ること、出来ないことはわかる。


「とりあえず、城の床一面に土を撒いて、土床にしよう」

「…………ああっ! さすがは賢者様です!!」


 土がなければ魔力が途切れる。

 ならば、土を持ってくるか、作るかすれば良いのだ。


***


 風の障壁に無言のまま群れを成すゴーレム達に、魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナは追い詰められていた。

 生気のない瞳でヴェゼルフォルナを見つめるゴーレムに対し、彼女もやはり無言で応じる。ただ、その瞳は生き生きと躍動するかのように、泳いでいる。


 ヴェゼルフォルナは知らないことだったが、賢者が現代知識たる【不気味の谷現象】を存分に活かして造形したゴーレム達は、正に想定通りの成果を上げた。制作監督の賢者、技術担当の勇者共に漠然とした不安感に怯えつつ送り出した。それは作戦遂行に対する不安ではなく、単に、本能に訴えるそれだ。


 そんなゴーレム達が、四天王の間の入り口に張られた障壁の前に集まり、無表情でがつんがつんと体当たりをし続ける。


 所詮ゴーレム、動きが素早いわけでもなければ、勇者ほどの腕力を持つわけでもない。

 ただ、ひたすらに不気味であった。

 水晶板(タブレット)で城内の様子を確認すると、その不気味なゴーレムで部屋と言い、廊下と言い、鮨詰めだった。


 ちょいちょい全壊する城ということで、警備も召使いも置けずに一人暮らしをしているヴェゼルフォルナだったが、こういった状況が起こると、部下や従業員が無駄死にするようなことにならず、本当に良かったと安心する。

 出来れば自分もこんな場所にはいたくないのだが、地属性無効のこの城から出れば、寝ている間に寝床の建物ごと潰されて、おしまいだ。


「……? 一生寝ないで、空を飛んで逃げ続けるというのも手なのでは?」


 神経が参ると、心が荒む。心が荒むと考えがやさぐれる。


「そうですわ。これを片付けたら旅に出ましょう。他の四天王の所を回るのも良いですわね、フフフ……」


 ヴェゼルフォルナは【竜巻鋸(ブラストカッター)】を構えて結界を解く。

 雪崩れ込むゴーレム達を土塊に還しながら、城内をさまよい始める。

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