表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/21

3.地属性で造形はできるか

「土で槍とか作るのはできるだろ?」

「できますね」


 【大陸一の賢者】の言葉に、【地の勇者】ドリスは机上で鉛筆程の土杭を作りだす。


「壁も作れるよな」

「はい、作れます」


 土杭を板の形に作り直す。


「剣とか、刃物は?」

「あー、缶切りは作ったことありますね」


 板を簡易な缶切りの形に組み替える。

 表面は鋭く磨かれており、ブリキ缶くらいなら開けることは可能だろう。


「なんで缶切り?」

「旅立つ時に家から缶詰持って来たんですけど、缶切り忘れたんですよ。あ、今こいつ馬鹿だなーって思いました? 思いませんでした?」


 結構応用は効くんだな、と、賢者は満足げに頷いた。


「地属性使いでも、固体による造型という面に特化したものは、応用も利かせやすい」


 賢者は地属性に関する自分の中の知識を掘り返していた。さらに言えば、機械の類を作るタイプなら、科学信仰の文化圏でも強さが解りやすい。ネジを作るだけでもそれなりの技術は必要となる。全てを一枚岩で造形できるのであれば、ネジなど作る必要はないのだが。


「あー、うちの村にも地属性魔法で農具とか作る阿呆はいましたね。普通に地面の方を耕した方が早いだろって思いましたが」


 実際やって見せたら、次の日からそいつのグループにシカトされましたが。と、ドリスは頷く。

 報復として、相手の畑に人骨の形をした白い石を幾つか埋めた件については割愛したが。畑の主が仲間連中から遠巻きにされ、疑いが晴れた後もそのまま関係が疎遠になった様は大変見ものだった。


「そう、十分な力があるなら、下手に小細工はいらない。そのままぶつけるほうが早いし強い」


 ハンマーを作るより、山をそのまま落とす方が効率的だ。刃物を作るよりは、ただ尖らせて槍にした方が効率的だ。


「ですねぇ」


 脳筋地属性使いのドリスは納得して何度も頷いた。


「とはいえ、元々俺は『メントスでは腹は膨れないという定説があるから、丼一杯によそって食べた』とかいう、地属性(メントス)の特性とはまるで関係ない、圧倒的物量による蹂躙なんてのは好きじゃない。『メントスとコーラを胃の中で混ぜて腹を満たした』みたいな、地属性(メントス)だからこそできる解決策こそが美しいと思う」

「えぇと、何言ってんだかわかりませんが」

「ってことで、なんかすごい武器を作ろう!!」

「なるほど、わかりました!!」


 かくして、賢者による設計と、勇者による試作が始まった。


***


 蛇腹剣は危ない。それが第一の発見であった。


 連弩車は普通に魔法で礫を撃つのと変わらないし、数も威力も直接魔法を撃った方が強い。それが第二の発見だった。


 火薬も磁力も使えないのでバネ式で作ったパイルバンカーは、言うほど大した威力もなく、振り回したらすぐに壊れた。


「なら逆転の発想で、普通の落下式の重機にしようか。拘束して頭の上に長い杭を造形して、ずどん、みたいな」

「試してみましょう!」

「室内だと天井低いし、現実的じゃないかぁ」

「試すだけ! ね、試してみましょうよ! その辺の魔物とかに!」


 基本的にロマン武器は物量で代用できるし、ロスが少ない分、そのまま力をぶつける方が威力も高い。それが、第三の発見と言えた。


***


 その日、魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナが外出先から戻ると、自宅が二つに増えていた。


「……」


 周囲に勇者がいないか警戒しつつ、城の尖塔にある非常口から外に出た時には、自宅――風の四天王城は、もちろん、一つしかなかった。


「…………えっ」


 それが二つに増えている。

 大きさも、造形も、色合いも、汚れ具合も、瓜二つの城が。


 意味はわからない。わからないが、原因はわかる。

 地の勇者だろう。


 やったー物件が増えた、などと無邪気に喜べるような状況でないのは、間違いない。


「これは、あれですわね。どちらかが偽物で、間違った方に入ると死ぬ奴ですわね」


 ヴェゼルフォルナの全身から冷汗が噴き出し、【地属性以外完全無効】の効果により弾かれて散ってゆく。

 自分の家の見分けがつかない。かといって、【地属性無効】の効果がかかったこの城以外の場所では、寝ている間に家ごと潰されて死ぬ恐怖がある。

 先日土砂の排出孔を増築したこの城であれば、寝ている間に土に圧し潰されて死ぬこともない。

 この世で唯一安全な寝床。それが、(十中八九)即死トラップになっている。


 体感では永遠に近い程の時間を悩んだ後、ヴェゼルフォルナは一度その場を去り――一抱え程もある鳥と共に戻ってきた。土のような褐色に黒い斑点。


「ピーチク! ピーチクパーチク!!」


 頭に刃のような冠羽を持つそれは、ただの鳥ではない。鳥型のモンスターだ。


「お行きなさい、ドロヒバリ!」

「ピチクリピ!!」


 放たれた鳥は落ちるより早く飛び、


「ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ」


 歌に乗せて泥を吐く。

 片方の城には泥は貼りつき、もう片方の城の上では、泥は弾けて、砂になる。


「よくやりましたわ!! 特別褒章については追って連絡いたします!」


 敬礼を返して飛び去る鳥を見送ると、ヴェゼルフォルナは偽の城を竜巻で破壊しながら、自分の城へと帰還した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ