エピローグ
【大陸一の賢者】は地下秘密基地の生活雑貨を地上に運び出しながら、落下した天空城の欠片の一つに視線をやった。
正確には欠片と、その周囲にできたクレーター。地下秘密基地は【地の勇者】ドリスの全身全霊の強化が込められているので、仮に直撃しても少し揺れる程度で済んだだろうが、食器棚が倒れていたら大事だ。
宇宙空間から隕石を操縦し、実質的な止めを刺した人工生命の末裔は、ドリスより一足先に戻ってくると、挨拶だけしてそのまま帰っていった。「ようやく創造の恩が返せた」とはドリスに言うべきこととも思ったが、彼女への挨拶は空中で済ませてきたらしい。
世代を重ね、流暢に語り、魔法も操るようになった人工生命に、賢者はドリスには伝えることもなく没にした、一つの魔術を教えた。流星魔術【流星乗り】。宇宙空間で捕まえた隕石を自ら操作する、人間には実現不可能な魔法だ。ローンチリング状に創造したゴーレム式レールガンによるマスドライバーで宇宙に飛ばされた人工生命は、強化された重力で正確に誘導され、目標を見事に的中した。
開ききっている瞼を、意識して瞬かせる。
「良かった」
実の所、単に「風の四天王を殺す」というだけであれば、賢者と会った初日のドリスでも、簡単にできることだった。
分厚い石の壁で城ごと六方を囲って、そのまま内部を石で埋め尽くせば圧殺できる。意思の中にいる、というのは少し違う気もするが。
何週間もかけて地属性魔法の応用を模索する必要も、ましてや、その全てを結集して最終決戦を行う必要も、全くなかった。
圧倒的な力があれば、属性相性や小細工なんて意味をなさない。そして、ドリスには当たり前のように、その力がある。
「最高に馬鹿みたいなジョークだった」
くだらない縛りをつけて、馬鹿みたいな手段で、それでも、当たり前に、殺す。
それくらい、ほんの些細なこととして、片手間みたいに死なせたい。
尊厳死を迎えられなかった人がいる。
尊厳死は無理でも、怨恨殺人ならまだ救いがあった。
怨恨殺人が無理なら、快楽殺人であってもまだマシだった。
取るに足らないものとして、魔族は人を殺す。
取るに足らないものとして殺されるより、もっと酷い死に方が、馬鹿げたジョークとして殺されることだろう。
四天王相手にそれができる人間だと、ドリスと初めて会った日の賢者は見出した。
「やっと終わった……やっと、進める」
ばたばたと、回転翼が立てる音が近づいてくる。
ゆっくり降下してくるツチノコプターに手を振りながら、賢者は今後の、ドリスと別れてからの予定を練り始めた。




