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大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―  作者: 住之江京


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12.地属性で土は操れるか

 【大陸一の賢者】には戦闘能力はない。勇者と四天王の戦いなどに巻き込まれれば、塵も残さず死に至る。

 先日は【地の勇者】ドリスの人を殺す強化魔法で心肺停止していた所へ、風の四天王の竜巻を喰らわされた。賢者にとっては魔法で作られた竜巻も物理攻撃に過ぎないので、強化されていた防御力はかすり傷程のダメージも通さない。強化魔法によって本当に死に掛けていた所で、ようやく気付いたドリスが魔法解除をして、どうにか事なきを得た次第である。


「俺が死なないような方法にしよう」

「そうですねぇ」


 賢者の提案に、ドリスも諸手を挙げて賛同する。


「属性魔法の基本。土を作る、土を操る。作るのは前にやったから、操る方で行こう」

「山を落とすのも前にやりましたよ?」

「あれは操るっていうより、単純な物量だからねぇ」


 難しいことはできませんよ、というドリスに、賢者は笑って片手を振った。


「大丈夫大丈夫。右から左に物を運ぶだけだから」



 二人連れ立って地下秘密基地から地上への階段を上がると、賢者は足先で幅が掌ほど、長さが歩いて四歩ほどの四角い枠を作り、


「ここを足首まで入るくらいの深さで溝を掘ってみて」


 とドリスに頼んだ。

 ドリスが言われた通りに穴を掘ると、「この端の部分をなだらかな坂にして」「溝の両サイドの壁に、回転する筒型のゴーレムを並べて」「片面の筒は右回り、反対の筒は左回りに、できるだけ高速で回転させて」などと次々に指示を出す。

 最後に、


「坂と反対側の端に、溝にちょうど入るくらいの丸い石を入れてみて」


 と言うと、溝から離れるように少し下がった。


「行きますよー」


 ドリスが石を落とす。


 ギャリッ


 と音が響き、次の瞬間、石は溝の坂の側から弾き飛ばされて、ドリスの足で二、三十歩程先の地面を跳ねていた。


「わぁっ、なんですこれ! 思ったより飛びましたけど!」

「この溝の間を転がる間、石は左右のローラーでガンガン加速されて、ローラーの回転速度よりも遥かに速い勢いで発射されるんだよ。仕組みはずっとアナログだけど、レールガンって言っていいのかな」


 へー、等と半ば聞き流しながらドリスは溝の長さを伸ばし、石をどんどん放り込んでいく。溝が長ければ長いほど、初速と飛距離も伸びてゆく。


「これを君の限界となる、山二つの距離で引いてみようと思う」

「やりましょう!!」


 かくして大工事が始まった。


***


 ちょっとしたピクニック気分だった。

 賢者の体力で山越えはつらいが、地面を滑らせて動く歩道にすれば、座っていても移動はできる。


 実験用に作った物はわかりやすいよう上面を開いて溝状にしたが、必ずしもそうする必要はなく、暗渠状態にして上下にローラーを付けても良い。この点でも加速力は実験用の装置以上となる。元々地下を通っているので、山にぶつかって止まるようなこともない。


 また、穴は掘ればそのままだし、ゴーレムは自動操縦なら、設置後はどれだけ離れても動作する。

 最終的に完成したレール式投石ラインは、山二つを遥かに超え、ドリスの感覚では山四つ程の距離となっていた。


「ここからだと、撃った弾がどうなったのか見えませんねぇ」


 二人がその問題に気付いたのは、工事が完了した後の事だった。進路上にある山も無視して地下トンネルを掘ったのは良いが、視界は遮られるし、仮にこの山を移動した所で、賢者が片手で持てるサイズの石を視認できる距離でもない。


「まぁ結果は後で見に行くしかないね」


 賢者も少し残念そうに答える。

 ともかく、まずは何発か発射してみることだ。


 石の砲弾では【地属性無効】の城壁を突破できないので、まずは街の鍛冶屋で注文した鉄の弾を十発ほど撃って、それから本命の石の弾を発射することになる。

 石の方は硬く作れば何とでもなるだろうが、鉄は地属性で強化することもできないため、こちらが途中で壊れてしまわないかは心配だ。


「あ、これに精霊を閉じ込めて強化することはできる?」

「うーん、やってみましょうか……えいっ、あ、できました!」


 賢者の目では知覚できない精霊が即座に鉄の弾に押し込まれ、精霊弾が完成する。


「それでは、五秒間隔で全弾発射!」

「発射しまーす!!」


 勢いよく吸い込まれていく砲弾達を見送った後、賢者とドリスは板状の石に乗って、のんびり飛んで帰宅した。


***


 帰路にてドリスが調べた限りでは、暗渠の中で砕けたり止まったりした弾は一つもなく、すべて問題なく発射はされているようだった。

 しかし、風の四天王城の壁面、砲弾がぶつかるだろう予定の位置には、砕けた鉄塊も、弾かれた石弾も落ちてはいない。


「貫通はしたみたいだね」

「穴とかないですよ?」

「綺麗に貫通したから穴が小さくなって、帰って来るまでに修復されちゃったんだろうね」


 石弾が落ちていないということは、鉄弾の開けた穴を通って抜けたということなのだろうが、肝心の四天王に当たったのか、当たったものがダメージを通したのかもわからない。


 結局、最終的には当事者に確認するしかない。

 効果の有無を確かめるため、ドリスが風の四天王本人に直接確認しに行った所、「全然まったく一欠片も効きませんでしたので絶対に二度とやらない方が良いですわ」との回答を受け、そうして、この計画は終了となった。

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