それぞれの思惑
いやー、長い間申し訳ありません。
私は強いと思っていた。
兄の影響で喧嘩を売られてはその都度倒してきたからだ。その数はもう数えるのも憂鬱になるくらいの量だろう。
断片的な記憶だが、初めて喧嘩を売られたのは五歳の頃だった。
当時七歳になったばかりの兄が、倒したチンピラだった。逆恨みに近いというか完全に逆恨みなのだが、その時の標的は兄ではなく妹である私だったのだ。
見かけからして十は上の男だったが、偶然か才能か。私はたった一発の魔法で倒してしまったのだ。
その時、初めて、そして最後に笑った兄を見た。
断片的な記憶はそこで終わり。
「お前ら、囲め囲め!」
「辺りは水辺だ! あいつは火の魔法を使うぞ!動く時は 水場を利用しろ!」
「今だけは共闘だ! 桐生海斗の妹をぶっ潰せ!」
「「「おおおおおおおおおおお!」」」
正直に言ってしまえば、私はあまり負けたことがない。いや、兄以外に負けたことがないと言った方が正しいのだろう。
「行け! 全員で押しつぶせ!」
だから、知らなかった。
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
「潰れるのは貴方達よ」
右手を上げると、無数の火柱が蜘蛛手状に踊り狂い、何十人と言った生徒が悲鳴と共に飲まれた。
名前はフレイムダンスといったところか。
集中している私には、その音が挑戦者を送り出す応援の大合唱に聞こえる。
もう一度言おう。
私は強い。
でも、それ以上に私はこんなにも負けず嫌いだという事に、初めて知ることができた。
「私は弱いことが許せない」
だからこそ、それを教えてもらったあいつに、今度は私が教えなければ行けない。
私の方が上だという事を。
「九条大地。私は貴方に勝つ」
「あーあ。光魔法ってあんまり攻撃力ないんだよね」
まあでもいっか。
光は聖なる力。そして光速の力。
バッチを射抜く、なんてのは簡単な事なのだ。
「どうしよっかなー」
少し大きめの石に座りながら、燦々と私を照らす太陽を見上げながら、これからのことについて考える。
相変わらず太陽は眩しいなー。なんてね。こんな事を考えても今は意味ないなー。
「……眩しいな。太陽」
明るい太陽の光はゆらゆら、ゆらゆら。
日向のように明るく、茜のように力強く。
そうなりたいと願うのは九条大地という幼馴染のせいだろう。
本当の私はどこまでいっても能天気やつだと自己分析している。それでも、一度決めたらそれは絶対に押し通す。そういう性格だ。
多分大地もなんとなくわかってるんじゃないかな。……私がめんどくさい女だって。
「でも、もう変えられないよ。決めた事だもん」
私は幼馴染の男の子が心配で心配で仕方がない。
「だからめんどくさい女を貫くよ」
誰がなんと言おうと、大地の隣は私のものだ。
大地が地球なら私は太陽。そしてあの女は月。
太陽と月は同じ時に同じ場所に行たらいけない。
「桐生凛。無理やり退場させてやる」
そうして私は大量に倒れている生徒達を背に歩き出した。桐生凛をこの生徒達と同じように倒すために。
抉れた木々や地面は戦いを象徴している。どこか物足りないと感じるかもしれないが、俺は別にそれが嫌いじゃ無い。
悲しさみたいなものがあって、それと同じくらい誇り高いものがあるような気がするからだ。
でも、一つだけ訂正させてくれ。
俺はそれが嫌いじゃ無いだけであって、それを作る当事者になるつもりなんてのは毛頭ない。
目立ちたくないんだ俺は。
「どうしてだろうな」
俺は相手に聞かせるようにしながら、自分に問いかけた。
目立ちたくなかった。それは当初の頃から変わっていない。
正直、この序列戦も逃げ回るという選択肢もあったのだが。
「どうしてなんだろうな。全く」
自分の心の声が幻聴となって聞こえたような気がするが、残念ながら幻聴ではない。
自分とは違った声は、すぐ前から聞こえてきている。
「正直、お前とは会いたくなかったんだよ。闘慈」
ため息混じりに言うと、爽やかな少年ーー狂坂闘慈は特徴的な左頬の傷をなぞりながらニッと笑った。
「いきなり振ってくれるなよ大地。俺はお前と会えて嬉しいんだぜ?」
「それはまたなんで」
「お前は強いからな」
俺の言葉を遮る即答だった。しかし、俺は闘慈の前で力を見せた事が無いはずだ。
それで強いと言われてもあまりピンとこない。
「俺が強いって、違う誰かと間違えてないか?」
「左頬の傷が疼くんだ。強敵がいるぞってな」
「その動物的な勘怖すぎるだろ」
ため息を堪えながら、こっそり闘慈を観察する。
ヘラヘラしているようで隙がない。
こいつに奇襲を仕掛ける奴は、一瞬で敗北の二文字を叩きつけられるだろう。
「と、言いたいところだったんだけどなー」
「なんだよ?」
「実際はお前の闘いぶりを一度見たことがあるんだよ」
「……それはどこでだ」
声に少し棘が混じってしまった。
俺はここにきて戦ったことなんて二度もない。かなめの時というのもありえるが、それはない。
俺は、周りを【視て】いたんだから分かる。あの時、俺たち以外に誰もいなかった。
だと、すれば一体どこで? いや、その戦いというのはいつの話なんだ?
……予想はなんとなくつく。でもその予想は、こっとうむけいなどうしても信じたくない事だ。
「それは言えねえな。俺に勝ったら教えてやらんくもねえけど」
「……そうか」
右手右足を軽く出し、半身になった闘慈に合わせるように俺も右手右足を出して半身になる。
「いいな。その顔。さっきまでのお前とはぜっんぜん違う。まるで獲物を狩るハンターみたいだ」
「御託はいい。さっさと倒して白状してもらう」
自分でもわかった。今の声に人としての温度はない。刃のように尖った声だ。
それはまぎれもない俺が本気だということを表している。
「………………っ!」
闘慈はそれと同時に何かを感じ取ったのか。
はたまた動物的な勘なのか。
その場をとてつもないスピードで後ずさった。
一瞬遅れて、闘慈のいた場所に俺の氷の刃が数本地面から突き出る。
「闘慈。お前には確かに隙がない。普通のやつならお前に勝てないだろう……普通のやつならな」
俺は普通の奴らとは、すこし違うぞ?




