聴取
誤字脱字見つけ次第直します
あの時、かなめは謎の黒いもやに呑まれた。
ここでの重要な疑問は黒いもやの正体と呑まれた時のかなめの精神状態だ。
そのことを聞くために俺は保健室まできた。
そして、かなめはあの時のことをゆっくりと言葉短く、だけど重要な部分を的確に語りだした。
「あの時、私は怨みで桐生さんに決闘を申し込んだ。でも、1対1なら絶対に勝てないと思った。だから、兄と作戦を立てて2対2のタッグバトルにすることにした」
そう語るかなめの表情はどこか暗いように見える。
俺は黙って先を促すとかなめは話を続ける。
「前日…つまり昨日の夜、私は作戦のことをずっと考えていて夜道を歩いてた。魔力差を少しでも埋めるために他の作戦を考えてた。そしたら前に黒いコートを着た背の長い男の人が立っていた」
「黒いコートの人は知り合いですか?」
「違う、私はその人を知らない」
「そうですか、ではなぜその人はかなめ先輩の前に?」
「その男は私にこう言ってきたんだ。「力が欲しいか?」って」
「かなめ先輩は欲しいって答えたんですね?」
俺が聞くとかなめは小さく首を縦に振った。
リア先生は俺たちの会話を腕を組んだまま静かに聴いている。
「そしたらその男は緑の液体が入った注射器を私に2つ渡してきた」
「注射器?」
「そう。男はこれを注射することで力を手に入れられるって言ったから私はその場で注射した。そしたら力が湧き出るような感じがしたんだ」
「響也先輩もそれを?」
「兄さんはその時は家でもう寝てた。だから私は寝てる兄さんに注射器を打った。でも了承をもらってないから量は半分にしてる」
なるほど、だから響也先輩は黒いもやに呑まれるのがかなめ先輩よりも遅かったってわけか。
それに黒いもやもどうやらその注射器の中にあった液体とみて間違いなさそうだ…。
俺はそうまとめるともう1つの疑問をかなめにぶつける。
「凛がキュクロプスに捉えられてから、かなめ先輩は急に性格が変わったようになった。あの時のことを覚えていますか?」
「覚えている」
かなめはその疑問を小さく首肯した。
覚えていることを確認したので本題に入る。
「その時のことを詳しく聞いてもいいですか?」
俺が聞くとかなめは少しの間、目をつぶっていた。
そして、少し時間がたつと話すことを決めたのか、目を開いてゆっくり語りだす。
「最初、桐生さんと対面した時、私は悟った。負けると。なぜなら、上がったはずの私たちでも魔力差は圧倒的っとわかってしまったから。強者の前に立った時の恐怖と同じ感じがしたから。でも、その時心の中で異物みたいなものが私に囁いた。怨みはどうした?っと」
たしかにあの時、かなめは復讐するという決意みたいなものがあった。
それは、純粋な復讐心からきているものと思っていたけど、そこにも黒いもやが関係していそうだ。
「私はその時から復讐の事で頭が一杯だった。でも最初は理性がまだ残っていたからよかったけど、ある時、急に壊したい、復讐したいという衝動に支配された」
「それが、凛がキュクロプスに捕まった時だと?」
「そう」
これはどうやら、嫌な事件の感じがする。
裏で何かが動いてる。
このままだと、学校に被害者が大勢でる。
いま、学校に被害を受けさせるのはちとキツイ。
ヴリトラに復讐するためにはこの学校が必要だからな。
早めにそいつらを潰しくべきか?
そんなことを考えていると、ずっと静かに聴いていたリア先生がかなめに質問した。
「その、衝動に呑まれた貴方はどうやって元に戻れたの?」
かなめが少し苦い顔をしながら小さい声で呟いた。
「私にも、わかりません。でもあの時、私は暗い闇の中にいた。そこで上から光が見えて声が聞こえてきたんです。兄さんの声が。その声に手を伸ばすと気づいたら戻れてたんです」
やはり、響也の声が聞こえたのだろう。
まあ、戻れたことはよかったとして…
「かなめ先輩。まだその異物みたいなものは残っていますか?」
「…ええ、まだ少しだけど確実に残ってる」
かなめを視ると黒いもやが少しだけマナにかかっていた。
どうやら、その異物が黒いもやの原因だと考えていいだろう。
俺はそこまで考えてリア先生にも聞いてみた。
「リア先生。かなめ先輩に何か異常がありましたか?」
リア先生は少し考えるように押し黙ってからゆっくり口を開く。
「そうね、回復魔法をかけた時、少しばかり違和感を感じたわ」
「違和感ですか?」
俺が首をひねると横でかなめも同じように首をひねっている。
「なんというか、引っかかる感じがしたのよ。それが多分かなめさんのいう異物だと思う。でもそれがどういうものなのかまだ、精密な検査ができていなからなんともいえないわ」
「そうですか…」
「精密な検査で結果が出れば報告するわ。なんたって九条君は当事者だもの」
「ありがとうございます」
「でも、これは他の人には秘密よ?」
っとリア先生は少しばかり顔を近づけウインクしながら言ってくる。
少しドキッとしてしまうのは仕方ない。
「わかりました」
目が胸に行きそうなのを必死で堪え、返事をする。
というか、見せてきてるんだから見ていいのか?
ここら辺って男の永遠の謎だとおもう。
「では、俺はこの辺で」
俺は立ち上がると保健室から出ようとドアに向かって歩き始める。
ドアの取っ手をつかんで開けようと後ろからかなめが俺を呼ぶ。
「九条大地」
「ん?」
後ろを振り返るとかなめがこちらを向いて立っている。
「…」
中々話さない。
よく見ると少し頬が赤かった。
「助けてくれてあ、ありがとう…」
左下を見ながら最後にいくにつれどんどん声がしぼんでいく。
恥ずかしいのか、顔はさっきより赤くなっている。
「はい」
お礼を言われてこっちも気恥ずかしくなったので、少し照れ隠しではにかみながら返事をし、俺は保健室をでた。
保健室をでて、帰るために下駄箱に向かって、またあの長い廊下を歩いていた。
もちろん校長室の前はダッシュで駆け抜けた。
もちろんバレて雫さんに殴られた。
頭を掻きながら歩いて行くと下駄箱が見えてくる。
そして、下駄箱に1人の立っているのも見えてきた。
その立ち姿はまるで、ジョジ○立ちのように見えたが影でそう見えただけだった。
…どんな影だよ。
近くにつれどんどん顔がはっきりと見えてくる。
見えてきた顔は響也先輩だった。
「こんなところでどうしたんですか、響也先輩」
一応、知り合いなので声をかけてみる。
「お前を待っていた」
「俺を?」
思い当たる理由がないので、つい首をかしげてしまう。
響也は真剣な眼差しでこちらを見て話し出す。
「あの時、なんでかなめを助けた?」
「は?」
意味がわからん。
今絶対アホ面してるわ、俺。
「言い方を変えよう、あの状況では助ける必要がない。決闘だからな。お前が助けてもメリットがあったとは思えない。なのにお前はかなめを助けた。なんでなんだ?」
…そういうことか。
まあ、要するにメリットもないのに助ける必要があったのかってことか。
はぁ、めんどくさい。
俺はため息混じりで言った。
敬語をやめ、少し呆れぎみに答える。
「助けるのに理由とかいるのか?」
「……」
響也は真意を探ろうとしているのか疑いのような眼差しを向ける。
「それともこの街ではそれが普通なのか?」
「…ああ」
「だからか…、言っとくが俺をこの街の奴らと一緒にするな」
そんな奴らと一緒にされることに言いようのない怒りが湧く。
少し声のトーンが低くなってしまう。
「…すまない。今までそんな奴をあまり見たことなくてな」
少し罰が悪そうに謝罪してきた。どうやら信じてくれたようだ。
「いえ、こちらもすいません」
「いいんだ、かなめを助けてくれたことには感謝している。何か出来ることがあったらいつでも言ってくれ。」
まあ、年上に繋がりができるのは大きいことなので遠慮なく、これからお世話になれる時はお世話になろう。
「わかりました。よろしくお願いします」
俺はそういい、靴を履き替え校門まで歩く。
校門を出ようとしたとき、さっきの響也の言葉を思いだす。
「メリットがあるから助ける…か」
メリットがないなら見捨てるってことだよな。この街の奴らは…
リーダー格らしき男と大勢の侮蔑の視線の記憶が頭を掠める。
今、鏡をみたらさぞかし機嫌の悪い自分の顔が映るだろう。
俺は舌打ちをして吐き捨てるように呟く。
「ちっ、ヘドが出る」
そうして俺は家までの帰路に着いた。




