答えろや中野!
「ごめんね、ボク能力『暗視』持ってないんだ。少し眩しいと思うけど我慢してね。」
突然現れた少女の掌にソフトボール大の火の玉が浮かんでいる。
目がしぱしぱする。
あとで知ることとなるがこの時少女は結構すごいことをしていた。火魔法でありながら破壊力はなくこの洞窟の中を照らすのに必要十分な光量。風が吹こうが揺らがない火。
「目は慣れたかな? はじめまして、ボクはクルル。クルル・バーニング、魔王だよ。」
魔王!?
びっくりしてクルルをまじまじ眺めてみる。服装はシンプルながら生地の質も体型に合わせてつくられた仕立ても完璧で見るからに高そう。小麦色の肌はシンプルな服と合わさり元気一杯! って感じをもたらし健康体の放つ甘酸っぱい色香が鼻腔をくすぐる。パーマがかったボブショートの金髪は軽やかな印象を与え、白い2本の巻き角は…巻き角!?
おー、角だ。魔王っぽい、羊みてぇ。
「いやー、そんなまじまじと見られるとボク恥ずかしいんだけど」
クルルは前髪をいじりながら伏せ目がちに視線をそらす。
ヤベッ、可愛い。お姉様と呼んでいいですか?
って危ない、危ない。危うくなんか大変な方向に道を踏み外すところだった。くっ、魔王クルル。恐ろしい子。
「えっと、そろそろお話ししても大丈夫かな?」
「すまん、あまりに可愛いので見とれていたようだ。」
「あははっ、キミみたいな可愛い子に『可愛い』って言ってもらえるなんて嬉しいな。」
いえ、俺こそお姉さ、げふんっクルルに可愛いって言ってもらえたことで期待しちゃうよ? なんてったって俺、未だに自分の顔見てないもん。服は手に入った、次は鏡! 美幼女の俺を愛でさせろ‼
「ねぇ、キミの名前教えてもらってもいいかな?」
そういや、クルルが先に名乗ってくれたのに俺未だに名乗ってねぇ! 魔王に対して失礼だ、手打ちにしてやる! とかならなくてよかったよ。しかし、名前、名前かぁ…
「マリエル(?)だ。」
「!?」
!? 何それその反応、俺間違えた? 選択肢間違えた? でも今この名前なんだよね?
「うーん…別人、だよなぁ。…まぁいいや、ボクどうしてもそれが必要なんだ。謝礼は、…こんなことになってるなんて思っても見なかったから何も持ってきてないんだよな。……よし! もしキミが助けが必要な時がきたらこの魔王、クルル様がいつでもどこでも飛んでいって助けてしんぜよう! だから、そのマント渡してくれないかな?」
すみません、無理です。渡したら大変なことになります。でも断ったらもっと大変なことになると思います。…素直に渡して痴女がばれるのと、殺されてから痴女がばれるのってどっちがましかな? くそう、マリエルちゃんが痴女だったせいでこんな目に…
「渡すつもりはないわ。」
突然俺が喋りだす。
「へー。どういうことかな?」
クルルの笑顔が怖い。殺意のこもった笑顔ってこんな表情なんだぁ、…本当にどういうことだよ? 俺の中の、なかの、…中野!
「…」
答えろや中野!
…
「…えっとですね、今のは確かに俺が言ったんですけど俺が言った訳じゃないと言いますか、俺のなかの中野、じゃねぇ。俺のなかの誰かが言ったと言いますか、むしろ俺がその誰かの中にいると言いますか…」
超しどろもどろ。ボスに会ってしどろもどろで言い訳をする主人公、それが俺‼ カッコ悪いか? でもな、カッコ悪くたって雑魚は雑魚なりに必死で生きるしかないんだよ!
「んー…、よくわからないけどさっきの人はキミの中にいる別人さんってことでいいのかな?」
はい、いいです。俺は首を縦に振る。
「じゃあ、キミに質問。キミの本当の名前は?」
クルルは元の元気で明るい感じに戻っている。よかった。
「仁科征陽だ。仁科が姓、征陽が名前だ。よかったら征陽と呼んでくれ。」
「わかった。でユキアキはダンジョンで何をしていたの?」
少し考えてから正直に答える。
「わからない。」
「わからない?」
「電車に乗っていたはずだが気が付いたらこの身体でここにいた。」
「…変なこと聞くけど、ユキアキって別の世界から来た人だったりする?」
「! …そうだと思うがそんなことってあり得るのか?」
別の世界から来た、まさに俺の考えていたことだ。
「自然発生なら『異邦人』って言われてるんだけど、極稀にいるよ。」
『異邦人』、極稀でも俺と同じ境遇の人達がいる。
この事が俺を少しだけほっとさせる。
「待て、自然発生ならってことは人為的に連れてこられることもあるのか?」
なんでそんなことを、許せない!
「…あるよ。出来る人がほとんどいないから事例は殆ど無いけど魔術師によって召喚されて来ることがある。」
「どうして!」
俺は激情を押さえきれず、声を荒らげる。
「『異邦人』は高い潜在能力を秘めているから生け贄にするために召喚することがあるんだ。…多分ユキアキはこっちで、失敗してその身体に入ってしまったんだと思う。」
生け贄? 失敗?
…
「ごめんなさい。」
「どうしてクルルが謝るんだ?」
気が付くと魔王が頭を下げている。
「きっと、いや間違いなくユキアキを召喚したのはユリウスで彼はボクの同僚で恩人だ。だからボクに謝らせて、ごめんなさい。」
クルルは頭を下げたまま言う。
ポンポン
クルルの柔らかい金髪を頭を抱えるようにして軽く撫でる。
「クルルは悪くないよ。」
クルルは悪くない。無理矢理召喚されたことに腹はたったが何故かユリウスを恨む気にもなれない。
「あの、さ。」
腹の下から声がする。しまった、撫ですぎた。
「ああ、すまん。」
そう言ってクルルから手を離す。正直かなり名残惜しい。
「いや、それは別にいいんだけど。償いって訳じゃないんだけど、もしよかったらこの世界のことがわかるまででもボクのうちにこない?」
キャラがぶれっぶれ、もう本当すみません。