いるんだろ? 出てこいよ。
冠『黒檀』から『柏槙』に変えました。
また修正するかもですが取り合えずこの話は大体こんな感じですかね?
人間界とダンジョンを隔てた先、沈まない赤い月に照らされた大地…魔界。
死霊を統べる不死の王ユリウスの急速な弱体は魔界に大きな衝撃をもたらした。
程なくして衝撃は動揺に変わった。
魔族が魔界に国を起こしてから今日まで魔皇軍筆頭、第一師団団長として君臨してきた男がまさに今際の時を迎えている。
神に隷属していた人類を救い神話を終わらせた神殺しの英雄、初代魔皇により柏槙の冠を以て魔王となったただ一人魔族でない魔王、一夜にして国を滅ぼしその民すべてをグールに変えた天災の死霊術師。
確実に神話時代以降の1万年の礎となっていた男の崩壊はこの時代の終焉を意味する。
時代が、世界が変革を迎える。
賢い者は暗躍を初め、愚かな者は喜劇を踊る。
そしてユリウスの消滅の一報を以て動揺は魔界の混乱へ、そして世界の争乱へと発展する。
☆☆☆
人間界、イシュタリア地方。バビロニア大陸北方に位置するここは人間界で唯一の魔族領となっている。
「クルル様?」
気がつけばメイドが不安げに声をかけてきた。
クルル・バーニング、魔皇軍第八師団団長にして魔皇国イシュタリア領主。
しかし、その肩書きは言われなければわからない。
金色の髪に白磁の巻き角、魔族特有の褐色の肌。少し憂いの帯びた瞳は髪と同じ金色だが金貨のような嫌らしさはなく貴き光に彩られている。
少女から女へ移り変わる、まるで朝露に濡れた蕾が澄んだ朝日を浴び今まさに大輪の華を咲かせようとしているかの如き美しさを内包した可憐さはどんな画家の名画を以てしても描き標せず、どんな詩人の百条の言の葉を以てしても言い尽くせない。と、メイドのアリアは痛感じていた。
しかしこの可憐さを後世に伝えないのは人類にとっていや、世界にとって大きな損害。しかし今まで数多な画家や詩人を招いてクルル様の可憐さを表現させようとしてきたが誰一人としてその千分の一も表現できるものはいなかった、いやここはアプローチの仕方を変えてみるか、楽士を招きフルオーケストラいや足りないな少なくともその5倍いや10倍は用意させないとこの美しさは表現しきれない‼ しかしクルル様の本質は気高く一輪で咲く野花のような可憐さであってしかし泥臭さや野性味はなく清廉な高貴さのみで構成されだ存在であってしかし……
アリアの妄想は止まらない。わかってもらえたと思うがこのメイド残念な子である。彼女の名誉のために言っておくがクルルと出会う前は幾人かの貴族に求婚された美人系である。しかし今はただの残念な子、いやかなり残念な子と成り果てているが。
アリアは元々人間界にいたごくごく普通の人間族である。しかし奴隷ではない。この館に奴隷はいない、というよりもイシュタリアに奴隷はいない、少なくともクルルは奴隷制度を許可していない。
魔族でありながらクルルは驚くほど善政を敷いていた。
それは最早わかりあうことの出来ない憧れの人の本当の理想。
クルルは魔皇の庶子だった。母はそれなりに裕福な商人の娘だが身分は平民。
その事によりクルルは血統主義の貴族派からも実力主義の成り上がり達からも疎まれ孤立させられていた。
そんなクルルを拾い上げたのがユリウスだった。
クルルはユリウスを祖父のように慕い、いつの日か彼の目指した種族の垣根を越え人々が手を取り合える国を彼と並んで支えることを夢見ていた。
クルルはそれをイシュタリアに造り上げた。
ユリウスの企てようとしていたクーデターから逃げだして。
ユリウスは初代魔皇を敬愛し皇家に忠誠を捧げていたが彼にとって大切だったのはその血筋だけだった。
マリエルの父である初代魔皇の血筋だけ。
だから貴族に毒され、人間界侵攻に消極的になった皇家を捨ててクルルを担ぎ上げようとした。
その事に気付いたクルルはわずかに許された手勢でイシュタリアへと進攻し彼から逃げた。
そして造り上げたのはちっぽけで歪な理想郷。
一見すれば恨みを捨て種族の垣根を越えた社会のように見える。
しかし今イシュタリアに残っている者たちは元は奴隷、職に溢れた者、差別を受け迫害されていた者といったゼロどころかマイナスにいた者たちだ。彼らはクルルから平等に与えられた自由と権利をただ喜んでいるだけだ。
守るものを持っていた者たちは死んでいった、逃げる先のあった者たちは逃げていった。
ユリウスにこの理想郷を見てもらいたかった。
たとえそれがまやかしだとしても。
たとえそれが彼の想い人の理想だったとしても…
今のユリウスはマリエルの目指したゴールにのみ囚われている。
わかって欲しかった、彼の過ちに。気づいて欲しかった、彼女の願いに。
彼の造り上げようとした理想郷はこれである。
マリエルの願った理想郷はこれでない。
ボクの想いが届かなくとも…
嘘だ、本当にわかって欲しかったのはボクの想い… 本当に気づいて欲しかったのもボクの想い……
『魔族であるボクは人間族であった貴方を尊敬していました。』
「クルル様?」
アリアの声で我に帰る。
「お紅茶、冷めてしまいましたね。新しいものをご用意致します。」
手にしていたティーカップはすっかり冷えている。
「ありがとう、大丈夫。」
そう言ってクルルはカップに口をつける。
苦い。
「ちょっと行ってくる。」
そしてアリアに背を向ける。
彼と共に弔う為になんとしてもあれだけは回収したい、あれが政治の道具にされることは許されない、マリエルがユリウスに贈った『夜色の外套』だけは。
☆☆☆
やっと念願の衣類を手に入れました! 早速装備してみます。
…あら不思議、カーテンにくるまった子供の出来上がり! はぁ、早くまともな服が欲しい。
仕事じゃなけりゃ服なんて着れれば何でもいい。なんて思ってた時代もありましたけど。
…これあかんでしょ?
昔、会社の飲み会で同僚が「女性の裸体を引き立てる最高のトッピングは『眼鏡』と『靴下』どっちだと思う?」って言ってたけど、『マント』どうですか、お兄さん?
身体のラインは全く見えないが腰どころか首まで伸びてるスリット。手脚を出せば全部見えちゃうから抵抗できないこの状況。どうだMY SON? あっ、いねぇや。
…あー、そろそろいいかな? いるんだろ? MY SONじゃねぇぞ、俺というかこの身体にいるやつ。
俺は語りかけるように頭の中で声をかける。
…
返事がない。
…えっ? こういうのって脳内で会話できるものじゃないの?
主人公が自分の中の別人と声に出して会話し端から不審者に見られ、『脳内で会話できるから』と別人から突っ込まれるのは漫画とかでよくある展開だし…
…
だんまりなのか届いてないのか。ただこの身体の中に俺以外の誰かがいるのは間違いない。最期の時、俺はユリウスの名を呼んでいない。
「いるんだろ? 出てこいよ。」
声に出して聞いてみる。
耳鳴りがしそうなほどの静寂に包まれててた洞窟の中、澄んだ声は思ったより響く。
「へぇー、気付いてたんだ。完全に気配は消してたつもりなんだけどなぁ。」
さっき通った道から突然人が現れる。
…と、と、と、とうぜんですよ、き、きづいていましたよ、え、え、ええ。
ブックマークありがとうございます。
ネーミングセンスが無さすぎるせいで名前決めるのがつらいです。
修正ですが言葉足らずを埋めて元の文章はなるだけ残すつもりです。後で書こうと思ってたのとか付けまくったせいで原形無くなりましたが…
なんでしょう? 失敗を誤魔化そうとしてる子供の気分?
まぁその通りなんですがね、精進します。