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ユリウス。

 ちゃららーん。ご飯を食べたらやる気がわいてきました。

 …噛みきれないほど固くて飲み込めないほど臭い肉だったのに信じられません。ファンタジーって不思議。

 毒とかはなかったですが『マモノ肉』は調理が必要な食べ物だとわかりました。しっかりアク取りして徹底的煮込んで香辛料ぶち込む…カレーかな?

 取り敢えず食べきれなかった肉は持っていくことにします。多分生で食べることになると思いますが、ぶっちゃけ食べたくないですが!


 全裸で片手に得体知れない生肉を持つ幼女(←俺)


 …デジャヴュ?


 ……えー、異世界の皆さんこんにちは。これがこの話の主人公兼ヒロインです。

 まぁヒーロー不在だし、中身オスだが。


 ふと気がついたのですが俺、全然先に進めていません。なんでしょう? この洞窟にはボス倒さないと出れない呪いとかあるのでしょうか?

 …俺が進んでないだけですね。すみません、こっからはちゃっちゃと歩きます。


 …正直どうでもいいこと考えてないとワケわかんなすぎて不安になるんだよなぁ。


 弟2号元気かな? まともなもの食べてるかな? あー、少しくらいか料理も教えておくべきだったかな、しまったな。「困ったことあったらいつでも相談しろ」なんて偉そうなこと言ってたけどな、もう少し厳しさも与えてちゃんと自立させるべきだったかな。

 …いや、なんだかんだ言って俺が『兄貴』をしたいだけだな。縛りすぎちゃってたなぁ。

 弟1号は、…まぁ、大丈夫だろ? 俺と顔会わせないようにしてたけど毎年盆や彼岸の前にこっそり家の墓ぴっかぴかにしてたもんな。ばれてないとでも思ってんのかな? 思ってそうだな、あいつ抜けてるし。でもまぁ奥さんのいるし母さんのことは任しても大丈夫だな。

 親父は生きてんのかな? 生きてんなら1度くらい母さんに謝りに行けって感じだな。ぶん殴れないからぶん殴らないでやるってのに。


 …あー、ダメだな。なんか遺言みたくなってきた。冷静になると悲観的になってくるはこの状況。…俺死ぬんかな? 嫌だなぁ、せめて日本で死にたいよ。


 …つうか俺の身体はどうなったんだ? 死んだん? それともマリエルちゃん入れ替わって入ってるん?


 …わからん、わからんからもう適当に生きる!


 開き直り肩で風を切りながら進む。なんて男らしいわけでも、物陰に隠れながら慎重に進む。ほど集中力があるわけでもない俺はため息でもつきながらとぼとぼと進む。


「はぁっ…っっっ‼」

 不意におぞましい何かの気配を感じ吐き出しかけたため息を無理矢理止める。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいっ、なんかいる、なんかいる! なんかいる‼


 この先の少し開けた空間に虫なんかとは比べ物にならないほどヤバいなにかがいる。


 どこもかしこもつるっつるだが存在しない身の毛がよだつ恐怖を感じ、洞窟に全裸でいるから当たり前だが肌を刺すほどの寒気がある。

 恐怖に心は縮こまり、寒気に思考は固まる。

 考えがおかしいことになっているのはわかるが落ち着こうとしても落ち着けない。いや、落ち着こうとして落ち着けないということがわかったということは落ち着いているということだろうか?

 わからない。

 まるで絡まった時限爆弾のコードを酒のキレたアル中が酔っぱらって解こうとしているかのような、混乱しているか冷静なのか、素面なのか酩酊なのか、何が何だかまるでわけがわからない思考状態。


 落ち着け、落ち着け…


「ふー、ふー…」

 呼吸は荒く、心臓はバクバクと暴れている。

 なのに足は地面に根が生えたかのように動かず、指先すらピクリともしない。


 気分は蛇に睨まれた蛙。いや、ヤマタノオロチに気づいてしまった蛙だ。大蛇が気付こうが気付くまいが身動ぎ一つでぷちりと潰されてしまう、そんな存在。


「…よしっ。」

 俺は意を決した。


 この先に何がいるのか、確かめなくてはいけない。でないと例え物理的に逃げれたとしても、何かわからない何かに怯えて精神的に囚われてしまう。


 ゆっくりと歩き出す。

 膝が笑い足元が覚束ない、脚が手が、身体が顎が、全身が震える。

 カタカタと奥歯が音をたてていることに気が付く。


 ギリッ。


 必死で奥歯を食い縛る。強く噛み締めすぎて歯でも欠けたのか鉄の味が口の中に広がる。

 だがそうでもしないと尋常じゃない悪寒に震えが止められない。


 ゆっくり、ゆっくり。慎重に、冷静に。俺は前に進む。


能力(スキル)『隠密 Lv:1』を取得しました。》


 声が響く。


 うるさい、静かにしろ!

 俺は心の中で叫ぶ。


 心臓が異常なほど大きく、そして速く高鳴る。

 一歩が異様なほど重く、そして緩慢に進む。


「…ごくっ。」

 自分の唾液を飲み込む音すら驚くほど大きく聞こえる。


 一歩進む。

 空気は粘性を増し身体に、肺にまとわりつく。


 また、一歩進む。

 冷気は鋭さを増し皮膚に、心に突き刺さる。


 時間、世界、身体。それらは皆、急激に遅くなるが、脈拍だけは急速に速くなっていく。


 一歩。

 また、一歩。

 …

 永遠とも思える一歩を繰り返し、重ねて進む。


 そして、覗きこんだ先に彼はいた。



名前:ユリウス

称号:??

種族:死霊

職業:??

装備:??、??、??

魔法:??、??、??

能力:??、??、??、??、??、??、??、

??、??



 その身に纏うは夜空を切り取った黒の外套(マント)

 頭上に冠せしは枯れ果てた柏槙(びゃくしん)の王冠。

 両手に携えるは朽ちた聖銀の大剣。

 死して骨となり、時を経て石と化したその身体は今まさに風を受け砂へと還ろうとしている。


 神話の時代の生きた遺物"死霊を統べる不死の王(エンシェントリッチ)"ユリウスは崩れ落ちそうな骸を晒しそこにいた。



 何故だろう?


『タスケテアゲタイ。』


 そんな風に思った。


 自然と足が進んだ。

 あんなにまとわりついていた空気は剥がれ落ち、突き刺さっていた冷気は抜け落ちた。


 音は消え、世界は止まり、時間さえも置き去りにしたかのような感覚の中、俺はゆっくりと歩を進める。

 死に損ないでもユリウスはエンシェントリッチ、指の1本動かさずに俺を殺せる、そして俺はどうあがいたってユリウスに傷をつけることすら叶わない。

 しかし不思議ともう恐怖を感じない。


 ユリウスとマリエル。


 完璧に計算され尽くしたかのような二人だけの空間は俺の歩みで小さくなる。


「…マリエル。」

 息も絶え絶えなユリウスが少女の名を呼び、俺を見る。肉の失われた髑髏(されこうべ)はその表情をうかがわせない。

 俺は少し微笑んでその骨の胸に手を当て、一つの魔法を唱える。


『治癒の火』


 弱々しく暖かな火がユリウスを包む。


 …ごめん……


 風を揺らすことなく、音になることなく。俺とユリウス、二人の口はシンクロしたかのようにただ動いた。



 そして火が消え、ユリウスは塵に還った。


「…ユリウス。」


 二人だけだった空間に異物が紛れ込んだ。


 それは声となり、涙となり俺の身体から溢れだしていた。

やっぱ何でもないです。

ユリウスの冠を黒檀から柏槙に変更しました。深い理由はないです。色的な理由で選んだ黒檀より象徴(蘇生)の柏槙の方が適当かと考えたからです。

修正してみました。読みやすくできたかは自信なし。素だと5行書くのに1時間近くかかるので次はいつになるのやら?

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