ファックス
ワイバーンを持って帰ると村は騒然となった。
理由は2つ。
1つは安全だと思われていた森にこんなモンスターが生息していたと言うこと。
元々バビロニア大陸には居なかったため生態がよくわかっていなかったということが大きいのだろう。
まさかポニーサイズのくせにカメレオンのような樹上生活をしているなんて誰も思ってもいないことだった。
2つ目は俺達が高級食材を獲ってきたということ。
元の世界でもセンザンコウやオオサンショウウオのように希少価値が高いゲテモノは高級食材となる。
それと同じでバビロニア大陸には生息しておらず、聖王大陸では神の使いにして、またごく一部の選ばれし聖騎士の騎竜として扱われるワイバーンはめったに市場に出回らない高級食材らしい。
ただ今回ドラゴンたちは大量に飛来しているので間違いなく値崩れを起こしていると思う。
とはいえ仮にも高級食材、こんな小さな村に当初の約束通り買い取るほどの資金はなかった。
そもそも今いったいいくらで取引されているかもわからないし。
なので俺達と村長は「滞在中に俺達が食べる分を除き肉は村のもの、革や鱗は俺達の取り分だが鞣す作業は村人が行う。ついでに宿代、食費はただ!」で話をまとめた。
かなり俺達にプラスな契約かと思ったがもし肉が半値になっていたとしても村には十分利益が出るらしい。
俺達としてもまるまる持って帰ることは困難だし、本来の目的は探索であるので鞣して革を作ったり干し肉にしたりの作業をしている時間もない。
なので俺達は村の人達の協力に感謝し探索にうちこむことにした。
したかった、の、だが…
ワイバーン、多すぎだろ…
村の近くにはさすがにいないが少し奥に入ると木の上に普通に潜んでいる。
探索を再開して今は正午を過ぎたくらいの時間だがあれからさらに3頭のワイバーンを狩った。
「しっかしロゼッタちゃんいると楽だわ。」
先程仕留めたワイバーンを引きづりながらマサヨシが言う。
「あ、あ、あう、あう、ぁぅぅ。」
ロゼッタはいつものようにおろおろしながら首をぶんぶん振って否定する。
だがマサヨシの言う通りこんなに簡単にワイバーンが倒せるのはロゼッタのお陰である。
ロゼッタの使う黒魔法はワイバーンにほぼ一撃で致命傷を与える。
なんでもワイバーンは光属性で闇属性の黒魔法は弱点属性になっているらしい。
というか人間界で生まれたほぼ全ての生き物が光属性だ。闇属性の生き物はダンジョンや魔界で生まれ、魔族や魔物と呼ばれる。
神話時代の人間界では光、闇どちらの属性も生まれたが今では闇属性の生き物は人間界から駆逐され光属性のものばかりとなっている。
なので魔族に与えるダメージが小さく、逆に人間族に大ダメージを与える黒魔法は禁術とされるらしい。
魔法や生物の持つ属性には他にも四元素と言われる火、水、風、土といった属性もある。ワイバーンも正確には光➕風属性だ。
純粋に四元素のみの生き物は精霊と言われるらしい。ただ精霊は物質的肉体を持たないので生物と呼べるかは微妙だとか。
そんな説明を得意気なマサヨシから受ける。
く、悔しくなんかないんだからな!
内心バカにしていた相手から一般常識を教わる。
…悔しくない、惨めなだけだ……
OK、認めよう。俺は無知だ。でも馬鹿ではない。馬鹿とは学ぶ気、考える気のないやつのことだ。
ーその通りだと思うけれどそんな風に考えてまで守るほどの自尊心なんてあなたにはないと思うわ。ー
うぐっ。
マリエルさんからきついお言葉がかけられる。
やめて、メンタルはもうぼろぼろだからポッキリ折れちゃう。
ーあら? 紙みたいにペラペラなのだから『ポッキリ』折れることなんてないのだと思ってもいたわ。ー
マリエルさんきついっす、優しさをください。
ー『優しい』のは『あまい』と違うのよ?ー
まあ、そうなんだけど…
ーいつまでも私がついていてあげられる訳でもないのだから早く真人間になってほしいものだわ。ー
あー、確かにいつまでもこの身体に入ってるわけにもいかないしな。早いところ元の身体も探すか。
普通に考えたら始めいたダンジョンにありそうだが魔物に喰われたり腐ったりしてそうな気もする。
…考えたくないなぁ。
とはいえいつまでもマリエルの身体を間借り(ほぼ乗っ取ってる気もするが…)しているわけにもいかない。
マリエルも早く出ていってほしいだろうし。
ー別にそういうわけではないのだけれど。ー
? どういうことだ?
ー…確認したいこともあるし、落ち着いたら話すわ。ー
んー…、よくわからんが頼む。
マリエルのことは気になるが現在俺は常識不足。ギルドの依頼にしてもどうしてこんなにワイバーンがいるのか謎。
…思わせ振りな感じで謎を増やさないでほしい。
ー失言だったわ、ごめんなさい。ー
目の前にいたらきっと頭も下げているだろう、そんな感じだ。
俺達は同じ身体にいる、だから本来伝わることのないマリエルの感情までも何となくだが伝わってくる。
ずるいな、そんな風に女性から謝られたらこれ以上追及できないじゃないか。
ーふふっ、じゃあ代わりに常識知らずのニシナに1つアドバイスをあげるわ。ー
アドバイス?
ーそう、アドバイス。
あまり知られていない能力だと思うのだけれど能力『時空術』と呼ばれるものがあるわ。ー
『時空術』?
よくわからんがとりあえずなんかすごそうな感じがする。
ー『治癒術』のように魔法に作用して特殊な効果をもたらす能力よ。『時空術』はその名の通り時間や空間に関係したものよ。ー
つまりワープが出来るようになるってことか?
ー『闇』や『光』の系統ならね。ー
すげぇ、それならロゼッタにイシュタリアの街に飛んでもらってちゃちゃっと相談してこれるな。
ー多分そこまでのことが出来るようになるほどのスキルポイントはないだろうから無理ね。ー
ダメじゃん!
なに? このぬか喜びさせられた感。
ー最後まで話を聞きなさい。
この『時空術』を使えば『土』の系統なら大地の下に一時的に道を作れ、『風』の系統なら離れた仲間達と会話ができ、『水』の系統なら離れた場所を覗け、そして『火』の系統なら分けた火を使って書状のやり取りをする事が出来るわ。ー
えっと… つまり?
ー敵の動きを見張っている前線基地なのだから情報をすぐにやり取りするためにイシュタリアの街から分けた火があるはずよ。ー
すまん、『火』の系統の「分けた火」とか「書状のやり取り」とかが今一つピンとこないんだが…
『土』は目的地まで真っ直ぐで安全な道が作れる、『風』はテレパシー、『水』は千里眼ってことだと思うが『火』はよくわからん。
ー例えば火の付いた蝋燭から付いていない蝋燭に火を分ける事が出来るでしょ? それと同じように『時空術』を使った火を分ける事が出来るわ。
そうして分けられた2つの火にはリンクが発生して片方で燃やした書状がもう片方に届くようになるの。ー
メール? いや、紙媒体だからファックスか。
ー…残念だけれど私にはあなたが何を言いたいのかさっぱりわからないわ。ー
あー、まぁそうか。この世界にない技術だもんな、伝わんないよな。
でも聞いた感じファックスってことでいいんだよな。
…ファックスって『火』だけショボくね?
ー…有効距離の広さならダントツなんだから。ー
…
ー…消費魔力の少なさも圧倒的なんだから。ー
…
ー…ただ常に火を絶やしてはいけないっていう事が大変なだけで……ー
…あー、うん、わかった。
マリエルさん『火』系統の『時空術』持ちだったんすね。
とりあえず前線基地行くなり人を送ってもらうなりしよう。
そう考えながら俺達は本日4回目となる村への帰還を果たした。




