…帰るか
能力『下位魔法』を『魔法術』に変更しました。
元の世界でマサヨシはごく普通の高校生だった。
特に部活が強いわけでも難関大学に大勢進学するわけでもないごく普通の学校で、真面目に授業を聞くわけでもなくボーッとし、必死に部活に打ち込むわけでもなくだらだらする。
普段は気の会う友人達と他人に迷惑をかけない程度にバカをして遊び、テスト前には赤点を避ける程度に慌てて勉強をする。
格別不良でも特別優等生でもないただの普通の学生。
そんな端から見たら非生産的で青春を浪費しているだけの、本人からしても刺激の足らない退屈で幸せな日常はある日足元から崩れることになる。
ある夜、時間は既に0時を回っていたがマサヨシはこっそり家を抜け出して近くのコンビニを目指していた。
たいした理由はない、ただ今日でるマンガ雑誌を立ち読みに行きたいだけだ。
アイツ生きてるかなぁ…
このときマサヨシの頭の中はマンガの続きのことしか考えていなかった。
先週号でマサヨシの好きなキャラが死亡フラグ立てまくったあげく敵の攻撃を受けたところで終わったのだ。
でもアイツ人気ないしなぁ…
マサヨシの好きなキャラはいわゆる噛ませ犬の三下キャラ。強いだけの主人公と違い人間味があってマサヨシは気に入っていた。
ただもう「なに! ○○が一撃でだと!?」って使われ方もマンネリになってるしなぁ…
友人達には「どうせ負けるんだし展開遅くなるから死ねよ。」と言われる始末。
キャラも増えすぎてるしなぁ…
どうせなら戦線離脱して空気になるより1話使ってかっこよく死んでほしい。
気になるなぁ…
そんなことを考えながら歩いていたマサヨシは外灯の下で突然落ちた。
比喩でもなく文字どおり。
アスファルトの道路がなくなりスコンと下へ。
落ちた先でマサヨシは片膝を着くように着地した。まわりにはかしずいているように映ったのだろう。
気がついたときにはマサヨシは歓声に包まれていた。
顔をあげたマサヨシの前には薄いピンク色の長い髪の上に王冠を乗せた一人の少女がいた。
名はエリミレッタ・ジル・アンケセーネ・ガルトリア。
ガルトリア王国、急逝した父王に代わりたった今戴冠したばかりの少女王がそこにいた。
きれいだ。
大人びているがどこかあどけなさも残るエリミレッタはテレビで見たどんなアイドルより可愛かった。しかし、その身を包む気品とか高貴さとかと呼ばれるものがマサヨシに「きれい」という感想をもたらした。
しばし時間を忘れて見とれていた。実際は数秒程度であったがマサヨシには永遠のように感じられた。
5秒にすら満たない永遠のあと、マサヨシは頭を垂れた。
なぜかはわからないがそうするべきと感じた。
そして異邦人マサヨシは勇者と呼ばれるようになった。
理由はすべて現れた場所とタイミング。
戴冠式、新王の目の前に新王がバビロニア大陸の平和とガルトリア王国の更なる発展を祈ったタイミングで光を浴びながら現れた。
浴びていた光は外灯のだと思うしタイミングは偶然だとマサヨシは思ったが、そんなことはともかくマサヨシは勇者になった。
皆が困ったのはこのあとだ。
ガルトリア王国はバビロニア大陸の西側、西方諸国と言われる多数の小国が存在し小競り合いを繰り返して引っ付いたり別れたりする地域にあるが、人間同士の争いに勇者が介入する風潮はない。
勇者とは魔皇軍と戦う人間族の希望である。
そしてガルトリア王国にダンジョンはあるが待てども魔皇軍が動く気配もない。
つまるところこの勇者にさせることがない。
勇者であることに疑いを持つものはマサヨシ本人しかいないがなんのためにやって来た勇者か誰もわからない。
仕方がないので周囲は相談の上とりあえず勇者マサヨシをイシュタリアに行かせることにした。
心優しいエリミレッタは反対した。
するべきこともわからないのでマサヨシはとりあえず勇者としてイシュタリアに行くことにした。
何でもいいから存在意義が欲しかったしエリミレッタの役にたちたかった。
イシュタリアはバビロニア大陸で唯一魔皇国領となり、魔王クルル・バーニングに支配されている地域。
しかしそれは今に始まったことでもない。
今さら感満載の中、とりあえず勇者マサヨシは旅立った。
そしてマサヨシは魔王クルルの居城のあるイシュタリアの街に到着した。いや、してしまった。
いくつかのゲームでいくつもの世界を救ったマサヨシからすればあり得ないことだが、ガルトリア王国の高官が用意してくれた馬車1つで着いてしまった。
…レベル1勇者をいきなり魔王の前にほっぽり出すってあり得なくね?
これがマサヨシの率直な感想である。
会えないことを期待したが街の北側の演習場で普通に目視できた。
クルルの馬鹿げたほどの戦力も。
…帰るか!
「やるべきことはこれじゃない‼」そう、心の中で言い訳し『とりあえず勇者』マサヨシは帰りの路銀を貯めるため冒険者となった。
☆☆☆
ロゼッタは西方諸国で魔法大国と名高いハミル王国の高官の娘として生まれた。
この世界の子供は1つか2つ能力をもって生まれる。それは両親から1つずつ遺伝したものだ。
ロゼッタが親から引き継いだ能力は『魔法術 Lv:20』。
スキルレベルは1~19が初級、20~49が中級、50~99が上級と言われ、それぞれレベルアップに必要なスキルポイントが変わってくる。
中には『観察』等のようにLv:Maxが10な例外もあるがそういった能力は取得するのにもレベルアップするのにも多大なスキルポイントが必要となる。
ロゼッタは両親から同じ能力を引き継いだため始めから中級からのスタートとなった。
当然、両親は期待しハミル王国の魔法学校に入学させた。
だがここからうまくいかなかった。
『魔法書』がまったく理解出来なかったのだ。
ユキアキは昔マリエルが習得していたため脳に必要な回路が既に出来ていた。なので眺めるだけで魔法を習得できたが本来魔法は適正にあったものを数週間、数ヶ月という時間をかけ理解し初めて使えるようになるものだ。
魔法には下位魔法、中位魔法、上位魔法とあり、例えば火を司るものは『火魔法』、『炎魔法』、『火炎魔法』とありそれぞれ『魔法書』が存在する。
ロゼッタは基礎であり入門編であるはずの下位魔法の『魔法書』すら理解出来なかった。
魔法能力はある、だが魔法が覚えられない。
どうして、なんで?
ロゼッタはそう考えまわりにはすがった。
しかしロゼッタは落ちこぼれとして生徒達からはいじめられ、蔑まれた。教師陣はそんなロゼッタを腫れ物のように触れないように扱った。
いや触れなかったのだ、扱いすらしなかったといった方が適当かもしれない。
生まれつき内気なところはあったがどんどんとひどくなっていった。
助けて、助けて!
ロゼッタはそう考えていた、逃げ出したかった。
でも親が多額の援助をしていたので退学にすらしてもらえなかった。
そんな日々が続き、後輩が同級生になり、そして先輩になった。
ロゼッタはもはやまともに喋ることが出来なくなった。
それでも周囲は困ることはなかった。教師が教えを説くことはなく生徒は憂さ晴らしになじるだけ、ロゼッタに会話の必要はなかった。
助けて、助けて! 助けて‼
声が出ることはなく、それはロゼッタの心の中にだけ響いていた。
ロゼッタは1人必死に文献や資料を読み、『魔法書』を読み解こうとする生活を続けていた。
それでもロゼッタは魔法を習得するに至らなかった。
どうして、なんで? お願い… 助けて……
そしてロゼッタは禁書と言われる『魔法書』に手を出した。
『魔法書:黒』
『闇魔法』、『暗黒魔法』と続く邪なる力を司る魔法の基礎となる『黒魔法』。
ロゼッタは3日で習得した。
嬉しかった、これでやっと親の望む魔法使いとしての人生が歩める。ロゼッタはそう安堵した。
ロゼッタは両親に報告の手紙を書いた。
やったっ、やったっ。やったーっ!
ロゼッタはまともな判断ができなくなっていた。
幸せ一杯にロゼッタは犯罪者になったことを両親に報告していた。
ロゼッタは姓を剥奪され秘密裏に国外追放となった。
いく宛もない旅の末、ロゼッタは魔王クルルの支配するイシュタリアに着いた。
きっとここならば生きていける。
そう考えロゼッタはイシュタリアで冒険者となった。
ロゼッタに魔法の説明させたかったのですが喋らないんでこんな不思議な回を作ることにしました。
しかしざまぁ要員のつもりのキャラなのに鞭打ちづらいなぁロゼッタ……




