…正解無くね?
イシュタリアの街、冒険者ギルド。
酒場も兼ねているその建物は西門のそばにあり、今、俺はここに来ている。
大きく重い木戸を押して中に入る。この立て付けの悪い冒険者仕様の扉に最初は苦労させられたものだ。
体重をかけ全力で押す。コツをつかんだ今は問題な、い…
…ごめん、少し休憩させて……
中に入り椅子に座る。だいたいいつもこんな感じなので最近では俺の指定席として不自然な場所に椅子がある。
戦闘は能力と朔月の扱いやすさでましになっているが、純粋なパワーは全然足りない。
仕方がないじゃないか、この身体基本スペックはものすごく低いんだから。
だってこの身体、見た目幼女だもん。
まぁ、マリエルいわく25歳らしいけど。…合法ロリ?
「おいおい、ここはガキの遊び場じゃないぜ。怪我する前にとっと帰んな、嬢ちゃん。」
少し離れたテーブルの冒険者から声がかけられる。
見たことない顔だ。新人だろうか?
ここ一月はほぼ入り浸っているはずがあった記憶はない。
「…」
こんな事態は初めてだ。どうしたらいいのだろうか?
回答①
「気遣いありがとう、だが大丈夫だ。」
→てめえ、なめてるのか?
で喧嘩になるパターンだな、これは違うと。
回答②
無視。
→てめえ、無視すんなよ!
で喧嘩になるパターンだな、これも違うと。
…正解無くね?
くっ、仕方がない。この手は使いたくなかったが、
「ぐすんっ。ターナーおじちゃーん。」
いつも孫のように可愛がり甘やかしてくれるギルドマスター、ターナーに頼る! 当然女の必殺技『嘘泣き』も使う。
「おうおう、どうした? マリエル?」
武骨なターナーだが俺には基本目尻下がりっぱなしデレデレしまくり。
「あのね、あのね。あそこにね、怖いお兄ちゃんがいるの。」
潤目上目遣い➕服の裾ぎゅっ。
どや、この幼女コンボ。
「よしよし、おじちゃんがやっつけてあげよう。」
こうかはばつぐんだ。
「て、わけだ。兄ちゃんちょっと面貸せや。」
「ギ、ギ、ギルドマスターっ!?」
ターナーにズルズルと連れてかれる冒険者。「うちのマスコットに何してくれんじゃボケ!」の声と共に響く折檻の音。
…俺ってマスコットだったんだ。
少しアクシデントもあったがそろそろ本来の目的も果たさねば。今日は集めた蜘蛛の糸の納品と新しい依頼の確認に来たのだ。
「ドラゴン?」
新しい依頼を確認していたら先輩冒険者が話しかけてきた。
「そうだ、ドラコンだ。」
「羽の生えたでっかいとかげ?」
これを聞いた先輩方は声をあげて笑う。
「がっはっはっ! さすがマリエルちゃん、言うことがでかいねぇ。」
すみません、俺のドラゴンに対する知識がその程度なだけです。
「これ見てみろよ。」
そう言って先輩冒険者は1枚の依頼書を見せてくれた。
「C級以上 ドラゴンの捜索?」
そう書かれていた依頼書の褒賞金はかなり高額だった。
「捜索って?」
初めて見る依頼内容だ。
「与えられた範囲を調べて報告するだけの簡単な仕事だ。いなかったらいないと言ってそのお値段、もし発見しても逃げて帰るだけだ。」
簡単だろ? と先輩冒険者は教えてくれる。
確かにとっても割りはいい。いいのだが。
俺は強くなるために実戦も積みたい。この依頼は捜索が目的なので戦闘は許可されない。それに今の俺ではボスクラスの強さを持つドラゴンとは戦えない。
「だがどうして、こんな依頼が?」
噂で聞いた話だかこのバビロニア大陸にドラゴンはいないはずだ。
「ああ、何でも最近、バビロニア大陸の他の国でドラゴンの目撃談や被害があがってるらしい。」
「ふーん…」
褒賞金はいいんだよなぁ。でもしばらく外泊する事になりそうだし、今夜辺りクルルに相談してみるか。
☆☆☆
夜、バルコニーでクルルと話をする。クルルは相変わらず直ぐに酔っぱらっている。
あの夜以降、ちょくちょくこうやって話をするが未だ閨を訪れたことはない。
「あの依頼ねぇ。」
俺はクルルにドラゴンの捜索の話をした。一応客人扱いでお世話になっているのだから勝手に行くのは気がひける。
「あれねー、ボクが依頼したんだよー。」
クルルは続ける。
「周辺諸国からさー。ドラゴン出たーって聞くからさー。」
一応領民の生活を守るのも仕事だからねぇー。とクルルは言う。
「でもバビロニア大陸にはいないはずだろ?」
「隣の聖王大陸で子育て期の竜の巣にちょっかいだしたバカがいるらしいんだよー。」
聖王大陸はバビロニア大陸の西にあり、宗教国家、聖王国により統治されている。
「魔界でクーデター起きてることが人間界にも伝わってねぇー。今こそ人間界を神の御心で統一する時ー。とかなんとか言って頑張っちゃってるんだよー。」
人間界には大きく4つに分けられる。
1つは資本主義国家バビロンを中心としたバビロニア大陸。
2つ目は神の子孫を名乗る聖王を主として聖王教会が権力を握る聖王国。
次にバビロニア大陸北の凍土に覆われた大陸を支配する機甲帝国。
最後はバビロニア大陸南、珊瑚礁に囲まれた密林の島々からなる獣人諸国連合。
魔界からの侵攻を心配しなくていい今、彼らは彼らの戦いを始めようとしている。
「今回のドラゴンはもしかして聖王国の計略か何かなのか?」
聖王教会はドラゴンを神の御使い、神獣として崇めているという話だ。
「計略ではないと思うよー。戦争に先立ち力を借りようとしたバカが巣に入りこんでブチキレられたー。なまじ地位のあるバカだったせいでたくさんいた護衛とドラゴンで大乱闘ー。結果巣が荒れてドラゴンたちお引っ越しーって話らしー。」
迷惑な話だよー。っとクルルは言う。
「でねー、ボクも戦争の準備で冒険者を兵隊にスカウトしてたからー、ギルドも人手不足って話なんだよー。だからユキが依頼承けてくれると助かるなぁー。」
なるほど、いつもお世話になっているのだからこれくらいはしよう。
こうして俺はドラゴンの捜索にいくことにした。
更新かなり遅れました。すみません。




