遅れた時間と進んだ周り*
見覚えのある風景。
懐かしい記憶。
真直に見て、初めて掘り起こされるものもあれば刻まれるものもまたあり、思い出や記憶は本人の意思関係なく何処かに眠りつづけて、いつか思い出される日を待つ。
一度見たモノには固執が生まれる。
二度見たとき、一度見たものと違いがあると驚きや不満を感じ、固定のものと勘違いをしていることがあったり。
変わらないものもあれば勿論、常に姿を変えていくものだってあるけれど。
変わって当然のものに固定概念を加える人類とやらは、よっぽど永遠とやらがお好きなようだ。
変化をきたす自然に固定を与えるなら、それは不自然となる。
でも、流石に……
『世界が』とかとびきりサイズオーバーなものが大きく変わっていられると、流石にマジかよと。その辺の定理を吹き飛ばさなければならないこともある。
「マジか」
病院を出て、まず空を見上げる。脱獄した囚人も外へ出ればまずは空を見上げて安堵をつくのだろうか。俺ならそうするけど。
見上げた世界は俺を置いてけぼりにして、不自然なものとなっていた。
「なぁ……」
「なにかな?少年A」
「どこの主人公だよ。……じゃなくて、俺の知ってる空は?あのだだっ広い青の情景は何処へ?」
「見たまんまさ、変わったんだよ全てが。君の知らない間でも物事は絶え間なくある。当然だろ?」
「いや、そうだろうけど!俺が知りたいのは…!」
「まぁまぁ、いきなり見たまんまじゃ理解できないさ。少しずつ見て覚えるといい」
「説明するためにわざとらしい前振りやらをしてたんじゃないのかよ」
「はっは!んな訳ないじゃないか〜。まぁでもチュートリアルっていうの?とりあえず心構えと予備知識を備えてもらおうとしたのは確かさ。詳しい説明もその過程に組み込むつもりだし」
「……あっそ」
これ以上言及しても、遠回しに返されそうだったのでこちらから適当に切っておいた。
人外にはやはり母国語以外通用しないんだろう。
「ねえ、もう起きたんだから帰っても構わない?」
いわば宇宙人扱いとなった人外の反対側から、腕組みをしてこちらに話しかける藍色のブラックリス子。今度は危険人物か。
「んん?あぁーそうだね。いんじゃないかな〜と。彼も目覚めたし、ここらで解散でいいよ」
「そ。じゃ、帰るわよ」
「素っ気ない子だねぇ」とボソッともらす人外。その瞬間に歩き始めていた足が止まり、振り向く。
「シオイはどうすんの?」
「ヒィッ…ほっ」先程の一言が聞こえたのかと再び怯えるが、すぐに安堵。お前……。
藍色の子は俺のすぐ横、『シオイ』と言う名の子にかけた声だった。あの背の小さな子のことだ。
「あ、はい。えと、ティーさんにしばらくご一緒します。それに案内役代わりになるかもですし……」
「そう。んじゃ」
変わらぬ表情で小さなため息をつくと、何もなかったかのように再び歩き始める。
その向こうに確認できたのは大きな建物。ビルや木々の間から見えるが、特徴的な横長のフォルムは学校か?横長だからと安直な考えだが、学校という建物は遠くからでも何となく学校だと感じれるのは俺だけか。
「じゃあ僕らも行こうか」
「はいっ行きましょう!」
「う、うす」
一言で、人工物に覆われた世界と言っても差し支えないもの。
それも初めてではないような気がしたが、ほとんどは初めて見るものとなっていた。
記憶が欠けたような曖昧なこの感じ。今のところ不快をもたらすものでもないし、不思議にこそ思えど病院を後にした。
それからぐるっと周辺を散策紹介、最後に先ほどの学校思しき建物(現に学校だった)の案内と道順を教えてもらい、彼らとの第一回のオリエンテーション企画は終了した。
寄り道や案内人の両者がスムーズに誘導してくれるあたり、もとより計画でもされていたのだろう。目覚めたら、と。
寝床から這い出てすぐのウォーキングは体力という言葉が存在しない俺の体にとっては過負荷そのもので、ちょうど学校でギブアップした。
「じゃ、また今度にしようか~」そんな訳で、日の暮れる少し前に突然の宿を提供される。一人で住むにはぴったしのアパートだ。
「いや……どうやって用意を?」
「いろいろ裏方が動いてくれてるのさ~、さぁさぁ休んだ休んだ」
「ちょ……」
半ば無理やりに部屋に押し込まれ、詳しくは明日とこちらの質問はすべて流された。
扉が閉まり、一人となる。
シオイという子もここまでついて来てくれたのだが、張り切りすぎたんだろうか。目を擦り、ポーっとしては「…はっ」としている。寝る子は育つ子、このまま可愛く成長を願いたい。
視点を部屋に移し、一瞥。
あらかた必要なものはすべてそろっている感じか……。
とはいっても今日はもう眠い……。
本来ならいろいろ手続きがあると思われるアパートで、不法利用にならないのかと不安を泳がせながらベットに転がり込む。
「だぁぁぁ……病室ベットとは格が違うな」
そのまま目を閉じ、病室を抜けた一日目を終えたのだった。