再び目にしたその姿は*
「記憶や体に異常は感じないかい?」
「彼女たちは仲間だ、きっと仲良くなれるはずさ~。な!」
「勝手な解釈で仲良くしないでくれない?」
外の世界。
懐かしすぎる感覚は初めて体験するのとさほど変わりない妙な緊張と好奇心が胸を擽る。
いつからあの病室にいたのか、そこから記憶は不鮮明になりながらここまで時を過ごして今に至る。
スライド式の扉を自分で開け、着ることはなかったはずの高校生の制服。どこの学校のものかは分からないが。
病院の内装などとっくに記憶から薄れている。しかし、消えるはずのモノではないモノまで消え失せているようだった。
今歩いている俺たち以外に患者も見舞い人も、もちろん医者も。
どおりでね……
何故だ。
誰もいないぞ……この病院。
「またまた~テレちゃってこのゥゥゥゥゥゥゥ!!!?」
「照れてる?へぇ~どこがよ???」
「ふぉーゆーとこだふぉぇ」
この三人、いや、一人人外なのいるけど気にならないのか?この状況を。
チラッと右横を見ると最初見たときの形より横に薄く伸ばされている奇妙物体が何やら喋っている、が滑舌と形状が大変不可思議なことになっている。左横では背の小さな子がくすくすと笑みを浮かべているが、こちらの視線に気づくとニコッと小さく会釈。こちらも反射的に「ども」と軽く返して気恥ずかしくなり視線をずらす。どこか勝手に変な解釈をして感受性豊かに妄想している自分がいたのかもしれない。変態め。
「あーえと、何でここ誰もいないんですか…病院なんじゃ?」
微笑ましい光景をずっと見ていたい気分ではあるが、ここで問題提起。こちらの頭がパンクしないうちに解ける問題は解いておくべきだ。
「ぶぉえ……ううん、さて、君はなぜだと思う?」
「え、全員ストライキとか?」
「はははっイイねその発想、ほら、君ももっと彼の柔らかい思考を見習いなよ。くくっ、せめてその柔らかくない上半身一部の代わりに頭の中だけでも柔ら……ププッ、にゅぐ……!」
「は?なにもう一回、自称神様……何?」
「いぃ……!」奇妙物体のおしゃべりは再び藍色の子の逆鱗に触れ、今度は片手で鷲掴みに。こちらも自然と恐怖した表情になり顔が引きつる。
指の間から変形したのが型に合わせてニューンと出ている。なんかキモい、よく触れるな……。
自称神様からの教えはこの子を怒らせてはいけないことと、神様の知能レベルの低さぐらいだろうか。名をまだ二人から聞いてないため貴重な情報だ。
「ォぉゥぉぉォォォォ」
「ふん」
──ベチャっ!!
呆れたのか、十分に変形したゲル様は勢いよく若干汚れた窓に叩きつけられた。アーメン。
「……なに」
「いや!なんでも……」
危ない。出会って早々、名前も聞かずに危険人物リスト入りを果たした。
「──さ、答え合わせといこうか」
「うわ!」
「は、僕は無敵だからね。この程度は慣れっこさ」
もっとすごいの食らってんのか…コイツ。逆に内容が知りたくなったがここは我慢した。
「さっきの問いに対しての答案だがもちろんストライキではない」
「だろうな」
「まぁ、外に出ればわかるんだけどさ。君の欲しい答えだとは限らないから、先に言っとく」
「君の知らない間に世界は変わったよ」
「……」
そいつからは表情を読み取ることはできない。
それでも声色はうかがえる。
……だから何なんだ。
………何が起きたっていうんだよ。
もったいぶらせるその意図に意味はあるのか。
少し早歩きで出口へ向かった。