目覚めたそこは隔離世界*
虚ろな視界。定まらない足場。死後の世界とでも言うのだろうか。
目が覚めた場所は再びベットの上だった。
そこには死後直前に立っていたあの人影もいて、今度はしっかりと形を捉えその姿を見ることができた。
それがあの人影の正体であるかは不鮮明だが、久しぶりの人との対面であることに間違いはなかった。
「──い」
……。
………。
「──?、───かな?」
…………。
「──俺のあの死後直前の達成感を返せェェェェッ!!!!」
「ェェェェ!!………って。あれ」
「……」
向けられる視線。
明らかに不審者に寄せられるザ・変質者のレッテルと憐みの表情が、ベットから突如飛び起きた自分に目覚まし代わりと浴びせられる。
あれ、何、死んだの?俺……それとも生き返ったとか?でも死んだとしたらいきなりのこの状況は『つよくてニューゲーム』の道のりだろう。何この醜態。
何も最後にどうせと言わんばかりに腹に込めた思いの丈を、遺言代わりに叫んでみるとあら不思議。
声が出たよ。死後も喋れんのかよ畜生。
人がいる場所でプライドを捨てた雄叫びはもれなく聞かれた。いや、聞いたから硬直してんだろうけど。
ここまで無残と化した空気をどうすればいいのか、潔白を証明するかのような病室の壁の白さが羨ましいし妬ましい。いっそそいつで包んで燃やしてくれ、恥ず過ぎる。
「あのー……気分の方は大丈夫ですか……?汗、すごいです」
「あ、あぁ……ははは、ぜ、絶好調だよ。夢の中で運動でもしすぎたかな」
なんてフォローだ、素晴らしいの一言。
行き場を失った俺の精神はまだ、生ける。
「ティーさーん、目が覚めたようですよー」
ティー?
そんな医者いたっけか……。
感謝と親密な関係ができるほど、ここの人間に信頼を置いていたわけでもなく、それに伴い記憶も散漫だ。
治る見込みのないものに時間をかけている。いつしかそんな風に思えてしまった医者の印象と自分の気持ちに、うんざりしていた。
「調子はどうだい、病人君」
「ぁ…………は?」病室の扉が珍しく開き、目で追う物体が異常と感知するまでは一瞬だった。
計一人の入室を目で追ったはずだが、入室時のセリフと性別にまず異常を感じる。
髪は藍色よりも少し明るめ、上下黒い制服で短めのスカートからは真逆の白い肌が目を惹く。全体的にほっそりとしているというかスリムというか……くそ、青春時代の経験が少なすぎて説明できねぇ……。
ちなみに、先ほど救いの手を差し伸べてくれた子はとにかく、背が小さい。これが第一印象だろうか。
髪はアイボリーというのだろうか、クリーム色に近い。目が片方髪で隠れてなんかイイ。……これは俺の個人的意見だ。
……問題は。
藍色の子の後ろから姿を現した、おそらく先ほどの声主でもあるであろう、よくわからない物体だ。
「ははっ、ようやく目が覚めたようだね」
ははっ、誰だよお前……本当によくわからない。俺だけ見えてるわけでもないよな。
その姿は人ではなく、空中に浮いた小さな生き物と称していいだろう。
こいつが喋ってるのか……?
「やあ、初めまして。新たな世界へようこそ」
すげえ…聞こえる、というより頭に響く。そんな感覚。夢の中で言葉を聞いているようだが、はっきりと聞き取り理解できる。
「お前、喋ってんだよな……?」
「もちろんとも、僕はU+273B TEARDROP-SPOKED ASTERISK。一応正式名なんだけど、どうも定着が悪くてね。略して『ティア』なんて呼ばれているんだ」
「あ、ちなみに神様と呼んでも差し支えはない、気軽に呼んでくれよ」
「…………」
大きく深呼吸。
──すげえ。