ドタバタ!お風呂騒動!?
「あー…昨日は色々ありすぎて疲れたぁ」
そう。事の原因は昨日。女子に追いかけられるわ、神無月兄弟だかが来るわ、一緒に行動することになるわで、ホントに疲れた……
「でも…気持ちいいー…」
何故かというと…温泉に入っているから。実はこの学校のお風呂は温泉で、登校時間前と放課後に開放されている。私立とはいえ、少しやりすぎだよね…露天風呂まであるし。
「でもまあ…」
気持ちいいし、いっか!
「それにしても…管理人さんが言った通りだなぁ…ホントに誰もいないや」
時計は9時。普段、僕は部屋風呂を使ってるんだけど、気分を変えて、温泉にしたんだよね。朝に管理人さんに確認すると、人がいない時間帯を教えてくれて…ここ、元々女学校だったから、男子風呂無くて…
(…僕、他の人から男子だって思われてるからなぁ…)
ホントは女子だけど、女子と一緒にお風呂入ったら正体がバレるし、もし、バレなかったとしても、間違いなく変態扱いだ…
「ふぅ…とにかく、今はリラックスだね!あいつらもいないことだ…し…!?」
突然、ガラガラッと、脱衣所の扉が開く音がした。
「それにしても、ここはすげーな!」
「学校なのに、温泉だもんな」
「珍しいですよね。」
「…珍しいどころじゃないと思うが」
「まあまあ。細かいことは気にしないでいいんじゃない?」
「…心の言う通りだよ。」
(…!?)
『心』ってことは…神無月兄弟!?
「なんで…!?誰もいない時間じゃ…あ!?」
そういえば…管理人さん、夜は留守にするとか言ってたから…あいつら、管理人さんに会ってないんだ…!
(落ち着け…落ち着くんだ、僕!どうすればいいのか、きっと打開策はどこかにある!)
なんて考えていても、全然何も浮かばなかった。思考が回らなくて…頭ん中がぐるぐるしてるよ…!
「よし、じゃあ開けるぞー」
ろ、六男の声だ!や、やばい!
「いちいちいいから、そういうの。早く開けてくれる」
「ったく…慧雅は…」
そして…
ガラッ…
「…は?」
「あ…」
扉を開けた六男が目を見開いている。
「な、なななな、何故、あなたがここに!?」
「お、おおおお、落ち着け、洸兄!」
「…颯樹兄さんもね」
と言っている七男にも、戸惑いのある表情をしている。
「…っ…僕…部屋風呂にします…!」
「お、おい洸兄!?」
五男が止める間もなく、長男は高速で着替えて出ていった。
「あー…えっと、その…」
「…何、迷ってんの?オレたち、風呂入りに来ただけでしょ。」
と、四男が入ってくる。
「あ、ああ…まあ、そうだな」
と、六男たちが続く。
「…ねえ」
「は、はい!?」
「…あんた、そっち向いてて。体洗うから」
「う、うん…!」
僕は慌てて壁の方を向く。
(…なんで僕がこんなこと)
シャワーの音が、耳に入った。幸い、ここの壁は木でできてるから…って…!
(僕…何考えてんの…!!)
ふう、とため息をつき、温泉の温かさに体を集中させた……。
「…えっと」
そんなこんなで…兄弟たちも、お湯に浸かっているんだけども…
(…変に緊張するな…いやまず、一緒に入ること自体おかしいよな、うん!)
ちなみに、兄弟たちの思考回路は…!?
(…早く上がりてぇ…!)
(お湯…もっと熱くできないのか?)
(…眠い)
(女と、一緒に浸かってるお湯…)
(気持ちいいーなぁ…)
(ふふ…先輩、顔真っ赤)
というような、おバカな思考回路でした☆
…ということを、一希は知るよしもありません…。
「…ねぇ、一希ちゃん」
「え?は、はい!」
突然、三男に話しかけられる。
「えっと…」
「…一波、でいいよ」
なんて呼ぼうか迷っていると、少し艶っぽい声で、三男がそう言った。
「い、一波先輩?」
「…先輩つきがちょっと残念だなぁ」
「せ、先輩は先輩ですから!」
と言うと、苦笑いして、一波先輩は立ち上がった。
「じゃ、僕は上がるよ〜おやすみ、皆!」
「は、はい…」
一波先輩が去った後…
「早上がりなのは相変わらずだな」
と、次男が言った。
「へえ、そうなんですか」
「ああ…」
次男も無言で立ち上がる。
「……オレのことは…渚羽でいい」
「え?」
その言葉を最後に、次男は上がった。
「オレのことは、稜雅な!」
「…オレは…」
「お前は、髪型不思議野郎で十分だろ!」
「…は?ケンカ売ってんの、それ」
「さーあなー♪」
「…っ!!…上等だよ…表出ろ…!」
と、双子のケンカが勃発。二人は睨み合いながら脱衣所に行った。…四男も、年相応なとこでムキになるんだなぁ…
「はっ!服着てまでケンカしようとするとかマジでお前らしーよな!」
「じゃあ別にお前は着なくていいけど?そのまま外に出て、変態扱いされて通報されたいならな」
「んだと!?」
…ここまで聞こえるし…。
「はあ…しょうがねぇ。オレも行くか…」
と、六男も脱衣所へ向かう。
「お前ら、ケンカなんてやめ」
『うるさいんだよ!年下のくせにいきがるなよ!馬鹿野郎が!』
「…!……てめぇら…人が親切に止めに入ってやってりゃあ、好き勝手によ…!!」
と、二人同時の、息ピッタリな言葉に、六男まで参加してしまった。やがて、その声も静まり、聞こえなくなった。多分、外に出たのかな。
(…てことは…?)
七男と二人きり!?
「…ん?どうかしました?先輩」
「あ…えっと!えっとね…」
あ、そういえば…
「前から思ってたんだけど…僕に対して、敬語は使わなくていいよ?」
「え?」
「ほら、やっぱり、一緒に行動してるし、あんま変に硬くしなくても、って思って」
「…そういうことですか。なら」
七男は僕に近づいて来る。髪の毛から滴る水滴の音が、僕の胸をより高鳴らせる。
「…今度から素でいくね?…僕のことは、心って呼んで」
「…心くん…」
僕の胸はうるさいまま。さらに、体中が熱くなってくる。
「……暑い」
「…一希先輩?」
心くんの呼びかけが聞こえたのは、それが最後だった…。
「…ん…?」
「あっ、気がついた?」
「…碧璃…?」
あれ、ここ…僕の部屋?僕、温泉にいたんじゃなかったっけ?すると、僕の考えてることを見透かしたように、
「一希、すっかりのぼせてたの」
「…のぼせてた?」
碧璃は笑顔で頷く。
「ドアのノックが聞こえて、出てみたら、心くんがいたんだもん、びっくりしたよ。心くんについていったら、そこは脱衣所で、その上、全身真っ赤にして横たわってる一希がいるんだから、ホントに驚いた」
「え、マジで?」
と言うと、彼女は、まず最初に言うべきことがあるでしょ、と言わんばかりに、にっこりと暗黒微笑を浮かべる。
「えっと…」
改めて、碧璃に事情を説明する。
「…要するに、混浴してたってこと?」
説明が終わると、彼女は呆れたように頭を抑えて、ため息をついた。
「はあ…なんでそんなことになるの」
「さあ…なんでだろうね、ははは…」
「もう…今回は心くんが部屋まで運んでくれたからいいけど…」
「…え!?ちょっと待って!」
今…何て言ったの?
「心くんが…運んでくれた?」
「うん、そうだよ。『先輩を着替えさせてください。僕はできないので』って言って、脱衣所を出たから、てっきり部屋に戻ったと思ったんだけど…」
徐々に、鼓動が早まるのがわかる…。
「着替え終えてから、扉を開けたら心くんがいて…『先輩をこちらに。』って言って、一希を軽々と持ち上げて、お姫様だっこしたの」
「なっ…お姫様だっこ!?」
と言って、僕は勢い良く起き上がる。
「大丈夫だよ、他の人たちはほとんど部屋にいて、寝てる人も多かったし」
「そ、そっか…ならよかった。」
ううん。ホントは違う。人がいるいないとかに慌てたんじゃなくて…
(…お姫様だっこ…女の子みたいに扱われてたことに…僕は…)
「あ、そういえば、一希の額にキスしてた」
「…え……?」
「ベッドに寝かせたと思ったら、前髪かきあげてそのまま…。その後、『先輩をよろしくお願いしますね。』って、部屋を出て行っちゃうんだもの……一希?…一希!」
「…え、えっ!?な、何…かな?」
僕の顔はどうなっていたんだろう。碧璃はただ、驚いたように僕を見つめていた……。