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新事実発覚。カガロメの森まで私の足では一週間はかかるらしい。なにせ走れないから、だそうだ。
カガロメの森へ向かう途中、アオからこの世界についての常識を教えてもらった。あくまで、スライムから見た世界の常識であってスライムと人間には大きな認識の差があるとか言ってた。それなら聞いても意味がないとは思ったけれど、ただ歩いてるだけなので暇だったの。
まずここには地球にはないと思われていた魔力というものが存在する。大なり小なり全ての生き物が持っている力で、日常生活や戦いにつかう力らしい。
そして世界には魔物と人間が存在し、その間に魔女がいる。
魔物は魔の者という意味合いではなく、正しくは「真の者」というらしい。
「え、じゃあなんで魔物なの?」
「敬語」
「なんで魔物なん、です、か!」
「人間が数千年前に言い出したことじゃ」
なんだ、どこの世界でも人間が言いだしっぺか。
アオはニュルンと移動し、私の頭にベレー帽のような形で乗っかった。
「人間は自分達と違う形の生き物を全て魔物と呼び、いつしか人間だけ集め国を作った」
王国や帝国など色々な言葉で呼ばれていたが、同じようなもの。
魔物と呼ばれるようになった者は森へ入り、森の魔力を使って生活し、いつしか森に溶け込み、様々な姿へと変わっていったそうだ。
つまり、人も、獣も、植物も、人間が囲いこんだモノと森へ帰ったモノに別れただけで、元は同じものってことか。
「それは違うぞ。魔物の中でも真の者と魔物では生まれに違いがある」
「生まれ?」
「魔力が形となって具現したものは純粋な真の者だが、人間の作った囲いから弾かれたモノは本当に魔物なのだ。人間への恨み妬みを募らせ、心に刻み、動植物を襲う。だから人間は魔物を殺すのじゃ」
「なんだか複雑ですね」
「実際に見た方が早い。わしのような真の者と魔物と人間をな」
おっとこれは魔物だと思ってたなんて言えない。
アオと出会った泉から大分遠くまで歩いてきたところで、アオが地面に降りた。
日は傾き、夜が近づいている。
「今日はここらで休むぞ」
「あ、はい」
大きな木の根元に座りると、膝の上にアオが乗ってきた。
ずっと一緒だったとは言え、まだ慣れないこのぶよぶよ感。でもなぜかとても温かく感じた気がした。それがなんだか心地よくて、段々と意識が遠くなり、うつらうつらしていった。
なんだか守ってもらえてるようで、とても安心していたんだ。
「ミチヨ?貴様寝たのか」
返事はない。アオはため息をつき、空を見上げた。
葉におおわれた木の隙間から星がちらついていた。
一人ではない、ミチヨと一緒にいる。
それはアオにとってこの上ない幸せだった。ミチヨが何者なのか、世界にとって何なのか、そんなことは会った瞬間に判っていた。
ミチヨが背を預けている木も、ミチヨの下敷きになっている草も、柔らかな土も、風も、みんな喜んでいる。
アオの泉を吸収し、この世界に馴染んだミチヨは真の者の喜び。アオにはもう魔力はほとんど残っていない、ミチヨに吸収させた魔力はミチヨの魔力に変化し、もうアオには戻らない。
しかしミチヨは知らない。その事実を知るときは、アオが世界の一部に還る時だ。
アオは思っていた、この幸せが少しでも長くなりますようにと。
木々の間をすり抜け、風が撫でるように吹いた。
まるでミチヨを見守っているように。
なんか突拍子もないような
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